週末は、すでに6月だというのに見事な晴天で、雨でも降ればとの密かな心算りは狂って、英明を落胆させた。
しかも連中の行き先がテーマパークだったのは、大いなる誤算だった。
(アミューズメントパークだと、後で和希から訂正が入った)
あんな風に結論を委ねてしまった以上、今更帰ると言い出すのも癪で、
適当に付き合ってさっさと戦線離脱する――もちろん和希を言いくるめて――と、そんな目論みも早々に潰えることになった。


いい歳をして和希は、伊藤と同じようにはしゃいで、傍で見ているこちらが恥ずかしくなるほどだ。
大体、時間単位で並んでまでアトラクションを待つ心理というものがまるで理解できない。
和希の説明によれば、並ばなくてもいいシステムになっているというが、だったらあの長蛇の列はなんだ?


それに加え、次から次へと休みなく走り回る3人組にうんざりして、英明は独りはぐれてその辺のベンチに逃亡を図った。
やれやれと一息吐き、胸ポケットを探る。


「――ここは全面禁煙ですよ」
「……なんだ、さすがにへばったのか?」


現役高校生のエネルギーに追いつけなくなったんだろうと、いつの間にか現れた似非(えせ)16歳に視線を遣った。


「たまにはいいじゃないですか、一日禁煙デーということにすれば――ハイ、どうぞ。どっちがいいですか?」


和希の手には、ストローの刺さったドリンクらしきカップと、ワッフルコーンからスプーンが覗いているソフトクリーム。


「マンゴーフレーバーのソフトと、こっちはキャラメルラテです」
「………」


聞くからに甘ったるそうな名前に、英明は正直に眉を顰めた。何故淹れたままで飲まない。エスプレッソが台無しだろう――マンゴーもまた然りだ。


「どちらもここの人気商品で、オススメなんですよ」
「そんなうんちくは――…ああ」
「なんですか?」


ベンチの、英明の隣にすとんと腰掛け、どちらも選ばないのならと、和希はカップのほうを眼の前に差し出した。
仕方なく受け取ってひと口…何の気の迷いか口にして、予想を超えた甘さにげんなりし、即座に飲むのを諦めた。
和希は嬉々として、ソフトクリームに取り掛かっている…


「――ここは鈴菱グループの関連施設だな」
「ええ、そうですよ。俺は直接関わってはいませんが。うちの卒業生がアトラクションのデザイナーとして参加していたはずです」
「どうせいずれお前のものになる」
「………」


それは、と和希は言葉を濁した。


「まだわかりませんよ。先のことなんて誰にも」


手の中で、ソフトクリームがぐずぐずと溶けていく。


「今の立場も気に入ってますし――」


独り言のように呟くと、和希ははたと我に返った。


「あ、もしかしてこっちのほうがよかったですか?」


オレンジの色をしたソフトクリームをこちらに向ける和希に、ひと口飲んだだけのカップを差し出してやる。


「お前はこっちが気になるんだろう?」
「バレてました?」


それぞれを交換し、無論食べるつもりはないが、和希の手からワッフルコーンを受け取った。


「よくこんなクソ甘いものを次から次へと食えるな」
「美味しいですよ?甘いものは別腹ってホントですよねー」


本当に、こんな場所で呑気にアイスを舐めている童顔の男が、いずれ世界に名だたる大企業のトップに立つなど、おそらく誰も信じないし信じられないだろう。




「――あ!いたいた、和希ー!」
「あ」


バタバタと賑やかに、懐かしくもうるさい面子が遠くからベンチのふたりを見つけて駆け寄ってくる。
この広い敷地内でよくも捜し遂(おお)せたものだと感心する。携帯は一度も鳴らなかった。


「よかったー見つかって」
「なんだ、電話してくれればよかったのに」
「うん、ほらアトラクション中だと繋がらないかなーって。少し捜してみてダメだったら携帯にかけようって」
「――どうせ丹羽が、伊藤とベタベタしていたかっただけのことだろう?」


必死で説明する啓太を揶揄ってやれば、どうやら図星だったらしくすぐに耳まで真っ赤になり、背後の丹羽は無駄にデカイ声で、


「おーそれよりよ、昼メシどーすんだ?」
「もうそんな時間なんだ? 一旦外に出ることも出来るけど、」
「あ!オレここで行きたいトコあるんだ!この前ガイドブックで見てたらさ――」


哲也が水を向けて話題を逸らしたところに伊藤が同調して、和希が同意を求めるように英明を振り返った。
英明自身はもういい加減飽きてきた頃で、単独で帰宅もアリだったが、


「中嶋さん?…どうかしました?」


和希ののほほんとした面に、あえて言い出す気も失せる。


「――なんでもない。昼飯に行くんだろう?」
「はぁ…」
「ガキのお守りも難儀だな」
「…って、同世代でしょう三人とも」
「お前の話だ」


「…?」


小首を傾げて不思議がる和希は、仮に英明が帰ると言い出せば引き留めようとするだろう。
それは義務感からか――漠然と、そんなことを考えていた。









【和希おめでとう'10】
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