少し遅いが昼飯にするか――と、近くのイタリアンレストランへ。
このくらいの年齢層だと、どういった店を利用するものなのだろう。
日本でファーストフードもロクに食べたことがない自分には、
何の気負いも、また違和感もなく、こういった店に入れる中嶋さんは、
やはり慣れているのかと感心するほかない。


ぎりぎりランチタイムに間に合い、パスタがメインの簡単なコースをオーダー。
締めに出てきたエスプレッソが抜群に美味しく、デザートがまた絶品だった。
支払いの際、レジ脇のショーケースに並ぶケーキを眺めていると、


「――なんだ?まだ足りなかったのか」


自分のデザートプレートを、こっちに押し付けたくせにその言い種。


「すごく美味しかったので、啓太へお土産にしようかなと。他のケーキも気になりますし」
「太るぞ」


やめておけ、と言葉に含みを持たせた中嶋さんは、店を出てすぐ、
しれっと、


「誕生日なんだろう?今日。
 ――伊藤が、ケーキを用意して待っていると言っていた」
「えッ、どうして――…」


啓太に聞かされた、って、それって…


「あの…っ、啓太、他には何も言ってませんよね?」
「お前、伊藤に弱みでも握られてるのか?」


掌で転がすが如く、相手が焦るのを楽しむような、悪趣味な笑み。


「べ、別にッ」


中嶋さんがこういう人だから、変に自分の歳を意識しないで済むのかもしれない
――って、唐突に思った。

適当にあしらわれるなんて、今現在の自分にはまずないことで、
それが嬉しい、となると、ちょっと人格疑われそうな気がするが、
歳相応の扱い自体、初めてに近いから、単純に心をくすぐられているだけなのかもしれないけれど。



「――なんだ、物欲しそうな顔をして。キスでもせがんでいるのか」
「は…い?」


今――何……空耳?

路上で一体何を言い出すんですか中嶋さん。
プレゼントでも…なら、話の流れでまだ理解できる。のに。


第一どうしていきなりキスなんてそんな――…あ?


「やややっぱり啓太が何か言ったんですかッ」

「何をうろたえている」
「だから啓――っ…」


うっかり勢いに任せて、とんでもない告白をぶちまけてしまうところだった。


「いえ…何も聞いていないならいいんです。すみません」
「すみません…か。そう言われると、余計気になるのか人情だと思わないか?」


人としての情なんて、欠片も持ち合わせてないくせに…嘘つき。


「ホントに、気にするほどのことではありません…から」


乾いた笑いと共に、数歩後退る。これ以上追求されてボロが出るのは――
途端、歩道に出ていた店先のイーゼルに、足を取られてよろめきそうになるのを、
素早く中嶋さんの腕に助けられた。


「あ、ありがとう…ございます」


恥ずかしさに目眩がしそう――だが、中嶋さんは何も言わず、くるりと背を向け歩き出した。


 ――中嶋さん…?


駆け寄って、その人の隣で歩調を合わせる。
横顔は相変わらず無表情で、感情の端さえ窺えない。


「あの…っ」


特に話すこともないのに何か言いかけて、それを遮るように、中嶋さんの方が口を開いた。


「――お前は…伊藤が好きだったんだろう」
「えっ?えぇ…とそうですね、弟のように、ですが」
「…そうか」


抑揚のない調子で問われて、ホントならもっとどきりとしてもいいような言葉だったよなと、
だいぶ後になってから気づいた。
鈍いこと、この上もないが。






寮に戻ってしばらくして、啓太が部屋にひょこっと顔を見せた。


「おかえりー和希。どうだった?デート」
「啓太…」
「うん?」


考えすぎ…だろうか、啓太が中嶋さんに、あらぬことまでリークした?なんて。
啓太に悪気はなくても――むしろないからこそ、ありえそうで不安になる。


「和希…もしかして」
「え?なんだ?」
「――中嶋さんにフラれた?」
「振られるも何も、別に中嶋さんのことはなんでもないって」
「そうなんだ? 一緒に映画観て、楽しくなかった?」


だからそれは――言い訳しようとして、不自然さに気づく。


「啓太…どうして映画観に行ったって知ってるんだ?」









<<によん>>

【和希おめでとうのさん】
Copyright(c)2007 monjirou

Material/Mon petit bambin
+Nakakazu lovelove promotion committee+




inserted by FC2 system