中嶋さんと…出掛けることになった。次の週末に。…ふたりで。 自分から言い出したくせに、実際実現しそうになるとやっぱり緊張する。 それもこれも啓太が妙なことを言って惑わすせい。そうに決まってる。 「和希、中嶋さんとデートするんだって?」 「でッ…デートじゃないって。第一、誰に聞いたんだよそれ」 「ん?さぁ〜?誰だっけ。 それよりさ、和希の好きな人って…中嶋さんだったんだ?」 「…や、違う、けど」 「え?違うの?」 たぶん…と続く言葉は消しカスのように頼りなく。 好きな人――気になる人、ではある。でも好きかどうかって訊かれると、正直悩む。 中嶋さんが、っていうよりも、好きってどんな気持ちだったっけ――って。 こういうとき、ホントにつくづく自分が16歳じゃないってことを実感する…させられる。 当日――待ち合わせてバスに乗り込み、最寄り駅へ。 着いたと思ったら、中嶋さんはさっさと… 「――中嶋さん?」 目的地とは明らかに逆方面へ歩き出している。 「何処へ行くんですか? ホーム、向こうですよね?」 「お前…本気でそんなところへ行くつもりだったのか」 「え?だってチケット…」 「伊藤とでも行けと言っただろう」 「はぁ…」 でも、じゃあ、どうして? 疑問に応えるつもりはないらしく、冷たい表情のまま中嶋さんは、 「お前の好きにしろ。一緒に来るなら来い」 「だから何処へ――」 テーマパークに行くつもりは端からなく、行き先は何処へとも知れず。ついて来るなら勝手に? それちょっと傍若無人って言わないか。 「あ、中嶋さん、待っ…」 せっかく一緒に出かけられる期待と緊張でいっぱいだったのが、ここへ来ていきなりのフェイント。 でも、そうですかと頷いて、ひとり学園に戻る気にもなれなかった。 中嶋さんがいかがわしい店に出入りしていることは知っていたし、 それがもし世間に露見した場合、学園の存続にだって関わる問題となる。 そこに自分が加担したとなれば――… 「あれ?中嶋さん?」 思考が明後日に飛んでいるうちに、肝心の相手を見失っていた。 普段から移動は車が多く、そもそも人ごみを歩くのに慣れていない。 いくら中嶋さんが、長身で目立つタイプだとしても、これだけの人波に紛れてしまっては―― …もしかして撒かれてしまったのかも。 始めから、乗り気ではなかったみたいだったし。 「……」 携帯に連絡しても、邪険にされるだけなら、迷惑ってことなら―― 嫌われているのかも、と朧気ながら見えてきた構図に、呆れるほど胸が軋む。 「――おい」 斜め後ろからの乱暴な声に振り向くと中嶋さんだった。 「何処へ行く気だ?」 「え…? あ、中嶋さんを探して…」 「いい歳して迷子か?寮に戻るにしても逆方向だ」 だってウロウロしてたし、この混雑だし。 言い訳の言葉はいくらでもあったのに、中嶋さんの姿を見つけただけで、全部清算されてしまうようだった。 待っていてくれたのかも、探してくれたのかもと安易な想像で、 単純に逆転されるのが、我ながら妙な気がした。 その後、連れ立って映画館へ。 それも、大手配給の大作が掛かるような所ではなく、何処か地味な印象のある佇まいの単館系。 上映されていたのは、短編が何本か連なったオムニバスで、 席に着くまで中嶋さんとはロクに会話もなく、 上映中も、ホントにコレが目的だったのかなと疑うくらい、無表情な横顔。 ちら、と盗み見るその姿に、どうしようもなく胸が苦しくなって、 もしかしたら…って考えに辿りついた。 もしかしたら好きなのかも。この人のことが好きなのかも――? 歳を重ねればそれだけ、若い頃のようには気持ちを安売りできなくなる。 臆病になって、積極的には動けなくなって。 この人が、だいぶ歳下だってことも、何より自分の学園の生徒だってことと無縁ではなくても。 ただ今は、誕生日を迎えたばかりの16歳のつもりでいたい―― スクリーンより隣が気になって仕方なくて、 上映が終わったあと、取って付けたように告げた「面白かったですね」に返って来たのは、 「俺の顔がか?」って意地の悪い声。 【和希おめでとうのに】 Copyright(c)2007 monjirou Material/Mon petit bambin +Nakakazu lovelove promotion committee+ |