和希のお気に入りの昼寝場所に、今日は珍しい先客がいた。 木漏れ日の中で眠るその人は、とても安らかに眠っている。 普段から寝顔を見れる事は殆んど無いないので、食い入るように見入ってしまう。 「中嶋さんって眠ってる時は年相応の顔になるんだな」 眠っている中嶋にクスリと微笑みを向けると、和希は中嶋の腕を横に伸ばし、 その腕を枕に、自分も寝転んだ。 「おやすみなさい、中嶋さん」 眠っている中嶋の横顔を目に焼き付けて、和希がゆっくりと目を閉じると、 触れる腕の温かさから急激に意識を手放していった。 不覚だ・・・ 目を覚ました中嶋が自分の腕の中で眠る和希を見て思った事。 いつもなら誰かが近づいてくれば自然と目を覚ますのに、今日は熟睡してしまっていたようで、 体に触れられているにもかかわらず、気が付かなかった。 しかし、自分の腕の中で心地よさそうに寝息を立てる和希を見ると、 たまにはそんな日があってもいいかとさえ思えてしまう、そんな自分に苦笑する。 チラリと時計を見るともう放課後になっていた。 そろそろ生徒会室に行かなければと思うも、自分の腕を枕にしている和希を起こすのは忍びなく、 だからといって、行かないわけにも行くまい。と、 中嶋はいつも起こす時にしているように眠っている和希の瞼にキスを落とす。 次に頬に、そして唇に、と、次々に唇を落としていく。 「ん・・・・」 和希は薄く目を開け、キスをしている人物に優しく微笑むと、 更に体を擦り寄せ、眠りについてしまう。 寝起きが悪いのはいつもの事だが、そんな和希が愛しいとも思えてしまう。 苦笑しながらも、もう少し付き合ってやるか。と、和希の体温を感じながら静かに目を閉じた。 しかし、近づく気配にすぐ目を開ける。 「おっ、居た居た。 ヒデ〜・・・っと、悪い。遠藤寝てたんだな」 和希は丹羽の大声に身じろぐと、眉間に皺を寄せ中嶋の胸に顔を押し付けた。 その様子を見ていた丹羽は、くくっ。と笑い声を上げるとその場にしゃがみこむ。 「何の用だ」 和希の寝顔を見られることが面白くないのか、中嶋が少し不機嫌そうに言い放つと、 丹羽は苦笑しながらも一枚の書類を差し出して見せた。 「これなんだけどよ、今日会計に提出しなきゃなんねぇんだが、お前のサインが入ってなくてよ。 いつまで待ってもこねぇから探してたんだ」 「そうか・・・」 書類を受け取ろうと身を起こそうとしたが、和希を抱いている事に気が付いてその動きを止めた。 しかし、サインを書かないわけにもいかず、和希を起こさないようゆっくりと体を起こす。 「貸せ」 丹羽の手から奪うように書類を受け取ると、懐に入れていたペンを取り出しサインを書き込み、 つき返すように丹羽に渡した。 「それにしてもよく寝てるな、遠藤。 こんな所で寝かすより、保健室のベッドで寝かせてやったらどうだ?」 中嶋は”保健室”という言葉にピクリと眉を動かした。 実際には”保健室”では無く、その保健室にいる”保険医”に不快感を抱いているのだが・・・ 「必要ない。 こいつは俺が寮に連れて帰る」 冷たい言葉とはうらはらに、和希を優しく抱き上げ帰ると宣言する中嶋にまた苦笑する。 「へいへい」 丹羽が去っていくのを見送ると、和希を起こさないよう静かに歩き出した。 視線を感じ不意にそちらを見てみると、窓のサッシに肘を付き、 様子を伺うように笑顔の松岡が視線を向けていた。 中嶋は小さく舌打ちすると、その視線を無視して寮へと帰っていった。 静かに自室のベッドに和希を下ろすと、額にかかる髪をすくい、何度か髪をすくように撫でる。 「誰にも渡しはしない・・・誰にも・・な」 優しく微笑み、額に唇を落とすと、和希もそれに応えるかのように幸せそうな笑顔になる。 日も傾きかけ赤く染まる部屋で、穏やかに眠る和希の寝顔を幸せそうに眺めていた。 月明かりに照らされるまでずっと――――― |
【one's dearest wish】 |