クリスマスまで待てない


 

 

 

寮への帰り際を中嶋さんに拉致されたと思ったら、向かったのは俺の部屋。


別に強引に連れてこなくても、帰って来るのはここしかないのに。

そんな風に思って中嶋さんの顔を見上げれば、訳の分からないことを言われる。

 

「遠藤。泊りがけで出かける支度をしろ」

「は?」

「早くしろ。外泊届けは篠宮にもう出してある」

 

確信犯かよ。

中嶋さんの言葉にそんな事を思いながら、俺はため息をついた。


ホントにこの人は自己中心的というか、ゴーイングマイウェイというか。

まぁ、結局聞いてしまう俺がいちばんダメなのかもしれないけどさ。


12月23日の今日は終業式があり、これでBL学園は冬季休暇に入る。

年明け、1月10日の始業式までは特に何もない。


そう、学生だったら・・・の話だ。


明日から冬休みとはいえ、それは24時間本職にどっぷり浸かるだけの期間だ。

 

「・・・・・中嶋さん。俺、普通の学生と違うんですけど?」

「それがどうした?」

「どうしたってね、泊りがけで出かける余裕なんて」

 

あるわけないでしょう、と言おうとした途端、中嶋さんが笑う。

なに、その楽しそうな顔。

 

「あるぞ」

「は?」

「休みなら、石塚からもぎ取ってやった。お前、昨日まで仕事忙しかっただろう?」

 

確かに、学校がある間の仕事量にしては多かったけれど、それも年末に向けて仕方ないことだと思っていた。


それなのに、この言い方では中嶋さんのせいというか、おかげというか。

ともかく休み確保のためだったってことか?

 

「・・・・・いつまで、です?」

「こっちに戻ってくるのは26日だな」

「そんな長く?何処に行くんです?」

「俺の家だ」

「え?」

「実家。横浜だ」

 

なに言ってるんだろう、この人。


自分のテリトリーに、俺を入れるわけ?

ずっと拒んできた、そこに?

 

「何だ、その顔。不満か?」

「ちがっ、そうじゃなくて!いいんですか?」

「何が」

「俺が行っても・・・嫌だったんでしょう?」

「・・・・・お前ならいい」

 

親友である王様が、どんなに言ってもお邪魔させて貰えなかったという自宅。

ベルリバティの誰もが、踏み入れたことのないそこに、俺が行っていいのか?

 

「分かるか?遠藤」

「何がですか?」

「別に誰でもいいわけじゃない。お前だから連れて行くんだ。もっとも家人は誰も居ないが」

「・・・・・・俺、だから?」

「そうだ。たまには二人きりというのもいいだろう?」

 

意地悪げな笑みも、俺にとっては優しい表情にしか見えない。

本当に、子どものくせに何処まで俺を甘やかす気なんだか。

 

「寮でも良かったのに」

「ここじゃ誰かしら邪魔が入る。特にクリスマスなんて、イベント好きの丹羽や啓太が煩い」

「え、クリスマスって・・・」

「やりたいんだろう?普通のクリスマスを」

「何で・・・・」

「物欲しげにテレビを見ていたくせに、今更そういう反応か?」

「っ、物欲しげになんか見てないです!」

 

図星を指されたからか、中嶋さんに似合わない言葉が出てきたからか。

驚きと恥ずかしさで顔が赤くなっているのが分かる。


本当にこの人は・・・もう、どうしようもない。

これじゃ、俺の立場がないじゃないか。

 

「中嶋さん・・・・ありがとう」

「ケーキにツリーは用意したが、後は知らないぞ?」

「いいです、それで。後は貴方がいれば充分ですから」

「そう思うんだったら、早く準備するんだな。丹羽にでも嗅ぎつけられたら・・・」

「すぐします!」

「くくっ、正直だな」

「だって・・・楽しみですもん。中嶋さんと二人きりのクリスマス」

「なら早く手を動かせ」

 

笑いながらクローゼットから俺のボストンバッグを取り出す中嶋さんの背に抱きつく。

一瞬動きを止めたものの、前に回した俺の手を握ってくる温もりを感じて俺は笑った。

 

「嬉しいです。本当にありがとう」

「礼は早いんじゃないのか?」

「だってクリスマスまで待てないですもん。嬉しすぎて」

「まるで子どもだな」

「大人っぽい貴方には、ちょうどいいでしょう?」

「違いない」

 

俺の顔はきっと人に見せられないほど、だらしないものになっているだろう。

すっごい笑顔になってる自信がある。

 

今まででいちばん、嬉しいクリスマス。

大好きな人と迎えられることが、こんなに幸せだと思わなかった。

 

中嶋さんに抱きつく力を強くしながら、俺は小さく呟く。

 

 

「ずっと、一緒に居てね」

「随分弱気だな?」

「未来ある子どもを引っ掛けたんだから、当然」

「引っかかったのはお前だろう?」

 

反転した中嶋さんの胸元に抱きしめられ、優しいキスが降りてくる。

こんなに柔らかな笑みを見られるのは、きっと俺だけの特権だろう。

 

「俺が引っ掛けられたんですか?」

「先に目をつけたのは俺だからな」

「・・・・まぁ、中嶋さんだからいっか」

 

笑いながらそんな風に言えば、もう一度触れるだけのキス。

この人に甘やかされたまま迎えるクリスマスは、きっと何より幸せだろう。


そんな事を思いながら、俺はゆっくり目を閉じた。

 

 

 

Happy merry christmas ☆。.:*:・'゜★

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