知ってるよ。


貴方がどれだけ忙しい人か、なんて。





でも、さ。


たまには、こっちを向いて?

俺だけを、見て。

 

 

 

 

love me, I love you.


 

 

 

 

「・・・・・随分、不機嫌そうだな?遠藤」

「お構いなく、王様」

「構われたくなかったら、そのツラやめろって」




ため息をつきながら、そんな風に言って俺の頭を書類でパシンと叩いた王様は呆れた表情を浮かべて、その書類を机に放った。




ここは放課後の学生会室。


いつも通り、と言えるぐらい書類が溜まりに溜まったこの現状を打開すべく、学生会役員でもない俺と啓太がここに連れ込まれたのは授業が終わってすぐのこと。


HRすら出られない事態って一体なんだ。

そこまで溜め込むなよ、と思いながら元凶である王様を睨みつつ書類を作るのを手伝っていた。


だけど、ここに連れ込んだ当の本人・中嶋英明は先ほどから不在だ。

バスケ部の書類に不備があったとかで、その部分を確かめるべく体育館へ向かった。


本来なら、俺や啓太が行ったほうが残った仕事の量からいっても良いと思うのだが、どうも俺たちでは役不足の事柄らしい。




俺にしてみれば、『英明がここに居るから手伝っていた』わけで、本人が居ないのならハッキリ言ってこんな所にいつまでも居たくない。

でも仕事を手伝えば、それが最終的には英明のためにもなるわけで・・・と色々と葛藤していた。



だって、恋人だと言うのにプライベートで会ったのはもう、2週間以上前。

学生会、学生会、学生会って忙しいのは分かるけど、いつになったら構ってくれるっていうんだ。


俺より王様のほうが大事?とかそんな、くだらない事まで考えてしまう。





「・・・・・ホントむかつく」

「あ?ヒデの事か?」

「どうしてあの人、仕事の鬼なんだろ・・・王様が仕事しないから?」

「おいおい、俺のせいにすんなよ。アイツの仕事好きは俺に関係ねぇって」

「そうそう。しょうがないじゃん、中嶋さん、三度の飯より仕事が好きなんだって」

「笑えないよ、啓太・・・ホントご飯抜きで仕事してることあるんだから」




ホント腹立つ。

俺がこれだけ英明のこと考えてたって、あの人の頭の中に俺がどれだけいることやら。


たまに学生会業務に負けてるって思うことだってあるもんな。

あーもうホントやる気出ない。




「王様。俺、帰っていいですか?」

「は?ま、待て待て待て。ここでお前に帰られたら俺がヒデに怒られるだろ!」

「大丈夫ですよ。王様が真面目に仕事やれば、そのほうが早いし。あの人だってそっちのほうが嬉しいでしょ」




そんな風に言って立ち上がった瞬間、馴染みのある声が響く。




「お前は人の考えを勝手に決めるのか?」

「な・・・いつ、帰ってきて・・・」

「今だ。お前は丹羽との話に夢中になっていて気がつかなかったようだがな」

「別に、夢中になってなんか・・・」

「ほう?それなのに気づかなかったわけか。それだけ注意力散漫で仕事が進んだのか?」

「・・・・・・っ、やってました!」

「おいおい、ヒデ。遠藤はちゃんとやってたぜ?手伝って貰ってんのに、そんな言い方ねぇだろ」

「煩い。丹羽には関係ない」




切り捨てるような言い方にグっと息を詰めた王様をよそに、英明はなおも言葉を続ける。




「あぁ、それとも俺がいるより丹羽と居るほうが仕事がはかどるという事か?」





鼻で笑うような言葉と口調。

それは、ただでさえ現状に不満を持っていた俺を爆発させるには十分なものだった。






「・・・・・・・英明が悪いんだろ!」

「俺が?」

「仕事仕事仕事って、学生会の副会長で、誇り持って仕事やってて学園のことちゃんと考えてるの分かるけど!俺なんてどうでもいい!?」

「なんでそうなる」

「いつだって俺の事なんか後回しで、放っておいて・・・どうでもいいってことだろ!?」

「誰もそんな事なんか言ってない」

「煩い!たまには俺を見て、俺だけ構え!!」




そう怒鳴った瞬間。

啓太と王様は目を見開いて呆然とし、英明は笑った。




「王様・・・・正論だけど、むちゃくちゃな事言ってますよね?和希ってば」

「でも、ヒデはお気に召したみたいだぜ?啓太」





そんな2人の言葉なんか気にも留めず、英明は俺の肩に手を乗せ、身体ごと引き寄せた。




「ひ、で・・・あき?」

「初めてだな。お前が我儘を言ったのは」

「だって・・・・英明が悪いんじゃないか。俺をずっと放っておくから」

「そうだな。俺が悪かった」




そんな言葉と共に、髪に口唇が押し当てられて心臓が跳ね上がる。

身体中を覆う温もりが、さらに鼓動を速めさせる原因になっているのは確かだ。



久しぶりの英明の匂いに包まれ、どうしようもなく顔が赤くなって隠すように俯いた。




「どうした?そんなに顔を紅くして」

「―――― 意地、悪い」

「そんな俺が好きなんだろう?」




楽しげな表情を浮かべているんだろうな、というのはその声だけで分かる。

だから俺は、顔を伏せたまま英明のブレザーを握り締めた。




「好き・・・だよ。だから、俺だけを構って?」

「・・・・・仕方ない。丹羽。後は任せた」

「あと、って・・・ヒデっ!まだ書類は山積みなんだぜ!?」

「元はと言えばお前が悪い。俺は自分のやるべき事はちゃんとやっている」

「ヒデっ、俺を見捨てる気か!?」

「和希に拗ねられたら後が面倒だからな」




そう言って、俺から身を離した英明は2人分の鞄を手にとって学生会室に背を向ける。





「何をしている?和希。早く来い」

「え・・・だ、って・・・仕事は?」

「今日はお前を構ってやる。だから来い」

「―――― うんっ」





振り向いて、ドアの所で立ち止まって俺を待った英明の腕に抱きつくようにして、そのまま2人揃って歩きだす。


王様や啓太には悪いけど・・・このまま英明不足でいると、切れそうだからな。

そんな事を思いながら傍らの英明を見上げれば、微かな笑みを浮かべた顔で見返される。




「どうした?」

「ううん。何でも」

「何でも、と言う割には笑顔だな」

「英明がいるからねー」

「・・・・・・そうか。ならいい」

「なぁ、英明。好きだよ」

「何を今さら」

「いいだろ。言いたかったんだから」

「・・・・・お手軽だな」

「楽でいいだろ?構うだけでご機嫌なんだから」




そう言えば、英明は珍しく楽しそうに声を上げて笑う。




こんな時間が、何よりも幸せだって。

そう、知っていて欲しい。





いつも忙しいのも、仕方ないって分かってる。



でも、たまにはこうやって。

俺のこと、ちゃんと構って?



そうしたら、待っててあげるから。

俺の所に帰ってくるのを。

 

 

 

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