人間、信じられない出来事に遭遇すると、見なかったふりをする。



それは、とても正しい行為なのだと、俺は身を持って学んだ。

 

 

 
 
 

耐え難いほどの真実


 

 

 
 
 

「ヒデ・・・これ、お前の携帯だよな・・・?」




学生会室の机の上。

充電されている携帯を指差して聞いた丹羽に、親友である中嶋は間髪いれず答えを返す。




「あぁ、そうだが?」

「そう・・・だよな・・・・」




指差したまま、呆けたように固まる丹羽の姿に、中嶋は少しイラついたように声を荒らげた。




「何か文句でもあるのか?哲也」

「いや・・・文句、っつうか・・・・」

「言いたいことはハッキリ言え!」




幾ら親友とはいえ、中嶋が凄む様子は丹羽にとっても非常に怖い。

このままでは黙っていても怒鳴られそうだ、と観念した丹羽は恐る恐る口を開いた。




「あの・・・さ、ヒデ。お前、いつから待ち受け・・・・変えた、んだ?」

「待ち受け?あぁ、携帯のか。そうだな、先週か?」

「へ、ぇ・・・・で、これ・・・遠藤、だよな・・・・?」

「それ以外の誰に見えるって言うんだ?お前は」




顔色も変えず、そんな事を言う中嶋を尻目に丹羽は泣き出したい気持ちでいっぱいだった。



いや、恐らく誰でもこの状態ならそうなるだろう。

この待ち受けを見たらそうなるに決まっている。




誰か(確実に中嶋)のヒザの上で寝ている遠藤の写真が待ち受けだなんて。






「・・・・・・・・・・・・・・遠藤に怒られないのか?」

「何がだ?」

「何って・・・・そんな待ち受けで、さ」




そんな待ち受け。

いや、つうか見せられてもリアクションに困るもん、待ち受けにすんな。


力いっぱい、そう思いながら丹羽は携帯をもう1度指差す。




「――――― 怒られた」

「へ?」

「だから怒られた、と言っている」




憮然とした表情でそんな事を言う中嶋に、丹羽は心の中で『当たり前だ』と呟く。

そりゃ、幾ら恋人でも自分の知らぬ間に撮られた写真が待ち受けにされていたら腹も立つだろう。





怒られて当然のことをしておいて、そんな顔すんなと言ってやろうと思った丹羽だったが、自分の身が危うくなる事を恐れて、すんでの所で思いとどまる。




すると次の瞬間、信じられない言葉が中嶋の口から発せられた。




「だからアイツの望む写真と交換してやった」

「へ・・・?」

「お前の欲しい写真をやるから、これを待ち受けにさせろと言ったらアイツは了承したぞ?」




あぁ、だからこんな無防備な寝顔、削除されないで残ってるんだ。

ぼんやりとそんな事を思った丹羽は、次の瞬間、聞かなきゃ良かったと本気で後悔した。




いや、せめて待ち受けを見た瞬間に、見なかったふりをするべきだった。

そうしておけば、中嶋の惚気を聞くなんていう怖い状態に陥らなくても済んだ。




「俺の子供の時の写真が欲しいというから、仕方なくな」

「・・・・・・・・・は?」

「アイツも待ち受けにしているから、お相子だ」

「ヒデの・・・子供、時代・・・・?」

「あぁ、そうだ」




なんでそんなもん欲しがんだ!という丹羽の心の叫びなど、目の前の親友に聞こえるはずもなく。

中嶋は、少し楽しげな表情で丹羽に話しかける。




「まだ他にもあるぞ。見るか?」

「いや・・・・遠慮シマス」

「そうか?」




可愛くて仕方がない、とでも言いたげな表情。

ここまで好かれていれば、遠藤も本望だろう。








「あぁ、これもワリと気に入っている」

「・・・・・・・・・・・お前、遊園地なんて行くのかよ・・・?」




携帯の画面に表示された写真にあるのは、千葉にある某・夢の国のマスコットに抱きつかれて微笑む遠藤の姿。


中嶋にとっては酷く不似合いな場所ではあるが、恐らく一緒に行ったに違いないと思って、丹羽はビクつきながら問いかけた。




「アイツが行ったことないと言うから」

「何処、に?」

「だから遊園地だ。今まで1度も行った事がないというから、この間連れて行ったんだが、凄く嬉しそうだったぞ?あれで成人しているなんて詐欺だな」





いや、むしろお前が詐欺だろ。


そんな風に思った丹羽の心情は、恐らく中嶋に通じることは一生ない。








やっぱコイツって分からない・・・。

丹羽にとって、親友の謎がまたひとつ増えた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「耐え難いほどの真実」・了 

 

 

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