「おかえりなさい英明さん。お仕事お疲れ様でした。お風呂はどうします?シャワー?
 それとも、先にご飯にします?」
「……」


矢継ぎ早に繰り出される口撃に、思わず押し黙る中嶋英明氏。職業、弁護士。


「どうかしましたか?中…じゃなかった。英明さん」
「お前…どうしてそんなに新妻役がハマってるんだ…?」
「え?」


思いがけない発言に、今度は新妻…じゃなかった、和希が眼を見開く。


「やだなぁ英明さん。役、じゃなくて俺はホントに英明さんの奥さんになったんでしょう?
 ほらこれ、さっき出来上がったばかりなんですよ」


カワイイでしょう?と、両手で広げてみせるのは、クマがアップリケされたエプロン。
レースつき。


「あ!もしかして英明さん」
「もしかして?」
「――ホントは自分が新妻やりたかったんじゃないですか?」


お前の思考回路は一体どうなっているんだ…ッ


叫びたいのをこらえて、持ち帰ってきた紙袋を和希に手渡す。


「? 何ですか?」
「土産だ」
「あ、コレ。千■屋のマスカットオブアレキサンドリア!
 ありがとうございます!俺、大好きなんですよ!」


いそいそと冷蔵庫へ走るレースのエプロン…もとい和希を呆れ顔で見送って、英明はネクタイを緩めた。
こうして見ると案外違和感がない。新居と新妻と、明るいリビングと…って。

そんなわけがあるか。


自分に慌ててツッコミを入れる中嶋英明氏、28歳(仮)。


「食後のデザートにしましょうね。今、御付け温めますから」


そんな背中を後ろから抱き込んで、耳殻に沿って甘く囁く。


「風呂と食事と…、何か加え忘れているだろう?」
「え〜夕飯食べてからにしません?」
「貞淑な妻は、夫に従うものじゃないのか」
「…なんだかんだ言って、英明さんも結構ノリノリですねv」
「何か言ったか」
「いいえ、何も?」


かくして、新婚さんの甘い夜は早々と更けていくのであった…。





「あ、『いけませんアナタ、こんなところで…』とかって恥らった方がいいです?」
「…少し黙っていろ」





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【愛と欲望のマスカット劇場/第一夜】
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