『あなたにとって寝心地のいい環境は?』なんて問いに、まず浮かんだのはあの人のことだった。
ロクに眠らせてももらえないときのほうがずっと多いのに、と誰知らず赤面して和希はいつもの癖で頬を掻いた。
それでも、やっぱりあの人の隣で眠るときには、独り寮の部屋で眠る夜よりも、丁度今みたいに出張先のホテルのベッドで休む時間よりも、ずっと充足感を得られる思いがする。
深い、満ち足りた時間を与えられている。
自分よりもかなり歳若い彼の人から。
幸せだとか、言葉で言い表せば些細で単純であっても、和希を支え満たすかけがえのない感情は、仕事なんか投げ出して、今すぐにでも学園島に、寮に、あの人のところに帰りたくさせる。
容易には叶わない距離が恨めしくもあり、逆に冷静さを取り戻してくれはするものの、一旦湧いた郷愁はそう簡単には消え去りそうにない。


ベッドサイドで携帯が鳴り出した。
和希にとって特別な日を、わざわざ祝うためになんてことは絶対になく、もののついでのように、いつものようにしれっとした顔で、電話の向こうに居るであろうあの人の姿が脳裏に浮かぶ。
「――はい、」


俺だ、と予想に違わないぶっきらぼうな声音が耳に届いた。
誕生日おめでとうなんか聞けなくても、十分満たされる。
幸福な一日の終わり。


「明後日には戻りますから」


上質な睡眠をもらいに部屋に押しかけますね、と胸の内で呟く。









【和希おめでとう'12】
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