8th anniversary and Hideaki's HAPPY Birthday!
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プレゼントは暴力である――とは以前聞いた誰かの言葉だった
一方的に押し付ける、あるいは押し付けられる、物理的な重圧。
言い得て妙だと実感したのは、立場上逃れられないくせに貰うのも贈るのも苦手なせい。
ビジネスライクな相手には秘書がそれなりのものを用意するから、一向に改善の余地は見られない。


それでも、やっぱり誰かには特別な何かを、吟味して自ら贈りたいと思う。
矛盾した心の内で。




「――ですから今年は、その辺を踏まえて色々と考えてみたんですよ」


喰い気味に話す和希に、相手はたっぷりと呆れた様子で、いつもの冷ややかな嘲笑を浮かべた。


「その言い訳と前置きは必要なのか?」
「必要ですよ! ……ということにしておいてください」


まだ何か言いたそうな英明を脱力しそうな発言で往なして、和希は部屋に持ち込んだ袋を開けた。


「…まずこれがですね」
「………」


いそいそと取り出したのは白い洋封筒。中身はネット通販で使えるプリペイドカードだ。
女王様曰く、『奴はよく洋書を取り寄せているだろう。実用的なものが一番無難だろうな』
特に名指しで訊いたわけではないが、バレバレだったらしい。
西園寺さんと同年代の人に何を贈ったら喜ばれると思いますかなんて、気づかれない方がどうかしている。
もちろん和希だって、その辺は重々承知の上だ。


「堅実な線で攻めてみました」
「…お前にしては悪くない選択だ」


微妙な褒め言葉でも、英明の口から出ればそれば最大級の賛辞だ。…和希にとっては。


「それでこっちは、」


これは王様からのアドバイスの結果、
『んー旨いもんが腹いっぱい喰いてぇ、かなぁ』という、明快な言葉からの連想で、


「レストランのチケット――御食事券ですね、中華料理ですが」
「中華限定?」
「あ、はい。中嶋さんは辛いものがお好きだし。でも激辛料理にすると同行する人が困るでしょう?」
「……お前が一緒に行くわけではないのか」
「それは、中嶋さんの判断です…」
「そんな顔をしておいてよく言う」
「え」


それはまぁ…、と頬を掻いて視線を泳がせると、英明は穏やかな表情で微笑していて、そんな些細なことが やはり和希を幸せにしてくれる。


「あとは――、」
「まだあるのか」
「もう少しですよ。これ…、俺が編んだんです。よかったら」
「なんだ、腹巻か?」
「スヌードです」
「ふぅん」


いい加減飽きてきたのか、端から興味がなかったのか、そっけない返事。
英明なりに茶化してきたことにも反応できなかった。
濃いグレーの、ネップ入りの糸で編んだスヌードは、マフラーより使いやすいかと考えてのことだった。


「処分はお任せしますし――」


言ってからしまったと思っても遅い。今まさにプレゼントの暴力に陥ったことに気づかされた。


「――それから、」
「ちょっと待て。お前、一体いくつ並べ立てる気だ。たかが誕生日で」
「もちろん全部中嶋さんのものですが、この中から好きなだけ選んでくださっても構いませんよ」
「金持ちの考えることは理解できないな」
「それは」


大事な人を想う故の行動だが、それもやはり暴力の範疇に入ってしまうのだろう。
さりげなく、今その人に相応しい品を贈る、というのが一番の理想だが、ハードルは遥かに高い。


「…難しいですよね、プレゼントって」
「お前は何でも難しく考え過ぎだ」
「そ…そうですか?」
「ああ」


英明の言う通りかもしれない、頭の片隅で同意しつつも、否定する材料を、袋の中に最後に残った包みをそっと手に取る。


「これがラストです」


たまにはネタに走ってみたら?とアドバイスしてくれたのは啓太だった。
ネタに走るというのが、和希には全くピンと来なかったのだが、あれこれ検索した結果がそれだった。


「どうです?割と柔らかく考えたつもりなんですけど」
「………」


英明は、ビニールの包みから出したそれを一瞥すると何とも言えない表情で、


「考え方は悪くないが、方向性を見失っている」


と切って捨てた。
一見すると一般的な黒のTシャツ。背中に大きく白ヌキの達筆で『鬼畜魂』とプリントされている。
面白Tシャツを販売しているサイトで、オリジナルで作ってもらった一点ものだ。
隅には『和』の落款も入っている。


「…親日派のアメリカ人が好んで着そうな柄だな」
「ああ!向こうでも結構見かけましたよ。創作四字熟語風の難解な」
「まぁ、お前なりの努力は認めてやってもいい」
「ホントですか?やった…」
「そこは喜ぶところなのか?」


本来ならプレゼントを喜んでもらえて初めて、嬉しがるものだろうが、英明相手だとどうも色々とずれてくる。
加えて自身も、かなり世間ずれしていることはすでに承知している。


ホッとしたはずみで脇に置いてあった紙袋が倒れ、中身が飛び出した。
英明へのプレゼントは全て渡したが、まだ残っていたその物体に、相手の視線が注がれている。


「――こ、れは、俺の、です」


英明に最後に渡したTシャツと同じパッケージ、ベージュとグレイの合間の色の布地に地味に『お歳暮』とプリントされている。
これはオーダーではなく、同じ店舗で偶然見つけたものだ。
もちろん受けを狙った――つもり。


「さすがに着て来る勇気はなくて」
「なるほど?」


したり顔で英明が呟く。ニヤニヤと、しなくていい深読みをした――無論それが和希の本音でもあった。


「これもネタに走っただけですから!」
「だがそれが一番的を射たモノだったな」
「…っ」


するりと伸ばされた腕に、手首を取られた。


「俺が欲しいものなど、お前が一番よく理解っている。つまりはそういうことだ」
「そ……」


そんなことない、とは言えない。
そう思ってくれていたら嬉しい。偽らざる、自分の気持ち。


「来年も…」
「ん?」
「中嶋さんにそう思ってもらえるように努力します…」


「それは無用な心配じゃないか?」


抱きすくめられると何も聞こえなくなる。
どうして?って問いは初めから必要なかったと、思っていいのだろうか。
どさくさに紛れて肝心な言葉を言い忘れてしまったけれど、
明日の朝にはどうか、
祝福の言葉を伝える余力が残っていますように。







−了−







【ヒデ様おめでとう…'13】
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