5th anniversary and Hideaki's HAPPY Birthday!
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「――王様!」


海岸沿いの堤防の上で、白いシャツがはためくのが見えて慌てて駆け寄り大声で呼びかけた。


「こんなところにいたんですか?もう…探しましたよ」


脱走犯が逃げ込む定番のスポットはことごとく空振りで、あとはもう勘を頼りにとりあえず歩き回ったが、 これでようやく、本当にようやく確保の連絡が出来る――携帯を手にし、今頃完全に痺れを切らしているであろう副会長を呼び出した。


「――あ、中嶋さん。王様見つかりました!…ハイ、すぐに戻りま…」


また逃亡されては敵わないと、しっかりと視界に捉えていたその大きな影が大股でずんずんとこちらにやってくるのがわかった。
どうやら観念したらしいと安堵したものの、一見して判る、いつも朗らかな丹羽の不自然なほどの無表情さに、和希も無意識に身構えていた。


「――おぅヒデ、俺だ、悪ィな」


丹羽は無造作に通話中の和希の手から携帯を取り上げ、


「あー今日はもう戻るつもりねぇから。俺も、あと遠藤もな」


 ――えっ?


英明が電話口で何か制しかけるのを無視し、ぶちっと通話を断つと、更には電源までも落とした上で、丹羽は奪い取った携帯を和希に手渡した。


「そーゆーこったから、今日は付き合え」
「…王様――」


丹羽のいつになく真剣な表情に、和希も掛ける言葉に迷った。


「でも戻りませんと。中嶋さんがほら」
「………」


携帯を受け取った和希の手を、丹羽がおもむろに掴んで取り上げる。
だがそこに危機感など、まるで存在していなかった。丹羽に、不穏な気配など感じる方がおかしい。


「遠藤」
「はい」
「――好きだ」

「……は?」


直球過ぎる言葉はときに、回りくどい説明よりも理解し難い。


「お前がヒデと付き合ってんのはもちろん知ってる。ヒデは性格悪ぃし陰険眼鏡でどうしようもねぇヤツだけど、 ホントはいいヤツだ。スゲーいいヤツで俺も好きだけど、でもな遠藤、お前らの関係はおかしいと思う。 ヒデはお前を、力で支配してるだけだ」
「――」


さすが王様と呼び習わされるだけあって、丹羽は凛々しい男前だなどと、そんな見当違いなことを考えていた。
実際のところ、他に何を考えればいいのか分からなかった。
曲がったことを嫌う丹羽には、英明と和希の関係性がそれほど許せなかったのだろうか。
好きだなどという信じ難い言葉よりもむしろ、そちらに気を取られる。
英明と和希、ふたりを取り巻く円の一番近くに丹羽はいて、理解…までとは言わないが、受け入れているものだと思っていた。
歪んだ関係などとよもや指摘されるとは、思いも――しなかった。


「遠藤」
「………」
「おい、なんか言えよ」

「あ…っ」


ぐるぐると彷徨う思考中、気づかないうちに丹羽の顔を凝視していたらしい。
学園の最高権力者は少し照れ気味に、困惑を滲ませつつ、その片隅で何かを期待していた。
誰だってそうだろう。勝ち目のない戦いなど望まない。


「王様、あの、」
「――おぉ」


期待には応じられない。


「俺…は」


だったら口にすべき言葉はひとつだけだ。余計なことは慎むべきだとわかっている。
それでも。


「王様、俺は中嶋さんと付き合っているわけじゃありません。でも――貴方の気持ちには応えられない」


注がれる痛いほど張り詰めた視線を受け止めきれず、踵を返して丹羽の前から走り出した。









理想論だけを並べるなら、もっとスマートにきっぱりと断ってしまうべきだった。
でなければ、無用な望みを抱かせることになる。


「――丹羽はどうした」


息を切らせて学生会室に舞い戻るなり、浴びせられる冷ややかな声が和希の背中を竦ませる。
無論、当然の叱責ではあった。


「すみま――せん、今日はもう…戻って来ない…と思い…ます」


その後を省みずに全力疾走したせいで、思いのほか息が上がっている。顔もおそらく、赤い。


「どうした遠藤」
「は…」
「丹羽の愚行はいつものことだろう?」


何をそんなに怯えている――そんな声が聞こえる気がした。何もかも見透かされているようで居たたまれない。
後ろ暗いことなど何ひとつないが、丹羽に告げられた想いを伝えるのは、簡単なことではない。
もしそれを知ったとき、丹羽と英明の関係がどんな風に動くのか、まるで想像も付かない。
学生会の運営に支障が生じるかもしれない。


一方で、和希が危惧するほどの破綻には繋がらないような気もしていた。
英明の、この男の思考だけは、読めない。




「――悪ィ悪ィ、遅れた」


いきなり背後から蹴破る勢いでドアが開き、本来現れるはずのない長身が何故かそこに立っていた。
丹羽はいつもの調子で頭をがしがしと掻き、距離を置いて向かい合っていた英明と和希にちらりと視線をやると、 そのまま何も言わずに自分の席にどかっと腰を下ろす。


「なぁヒデー」
「堂々とサボリを申告したんじゃなかったのか?お前の気まぐれさは猫並だな」
「おぅ」
「………」


まるで噛み合わない会話にさしもの英明も、相方の異変に気づいたようだった。


「あのなーヒデ」


座ったばかりの椅子をすぐさま放り出し、丹羽は勢いよく立ち上がると、怪訝な表情を浮かべる英明の眉間の皺をじっと見据えた。


「俺、遠藤が好きだ…ってさっき本人にも言ったんだけどよー、一応お前にも言っとく」
「………」
「そーゆーこったから。さ、仕事すっか仕事!」


和希の煩悶や逡巡など全くお構いなしに、丹羽は爆弾を投下し、言うべきことは言ったと涼しい顔をしている。
英明は…
和希にとっては、英明の反応が最大の重要事項だった。
理不尽な怒りを向けられるのには慣れている。英明がそれを愉しんでいることにも気づいている。
丹羽の指摘はある意味合いに置いては正しいのかもしれない。
力で支配している――と。


「――今日のノルマだ」


顔色ひとつ変えず、眉ひとつ動かさず、副会長はサボリ魔の机にファイルの束をどさっと乱雑に投げ置いた。


「うへぇ……つかヒデ、お前ナンにも言わねぇのかよ」
「なんだ?嫌味でも言って欲しいのか、暗愚の丹羽会長?」
「…余裕かましてんのか?言っとっけど俺は本気だぜ?」
「あぁ、いくらでも本気になってもらいたいものだな。何しろ仕事は山のようにある」
「ヒデっ…!」


のらりくらりと躱す英明の態度に、丹羽が先に痺れを切らした。


「なんだ、さっさと仕事にかかれ。今日中に帰りたければな」
「……お前が何も言わねぇんなら、承諾ってことでいいんだな? ――なぁ遠藤」

「…えっ?」


当事者でありながら蚊帳の外だった和希に、丹羽の視線が注がれる。
了解を求められたところで、返答のしようもないのだけれど。









丹羽哲也という生徒は、入学前の学力テストで主席を取り、一年の時点で学生会会長に立候補して現在に到っている。
生徒たちからの人望も厚く、カリスマ性、まさに人に好かれる天賦の才に恵まれており、 ただ唯一の欠点がサボリ癖という極端な性癖の持ち主だった。


「中嶋さんのサポートが完璧すぎるので、王様もつい安心して頼りきってしまうんでしょうね」
「俺のせいか」


わかったようなことを言うなと、英明が珍しく不満を顔に出した――のは一体いつのことだったろう。


そんな英明と丹羽の一年次の喧嘩は学園史に残るほどで、教室ひとつ半壊、他備品多数に損害、の報告書が 当時理事長になって日も浅かった和希の元に届いて、呆れ果てたことをよく覚えている。
一体どんな1年生なんだと。
そのふたりとまさか、こんな形で関わるようになるなど、誰が想像できただろう。




英明は一見、丹羽の挑発には乗らず、飄々と我関セズを貫いているが、丹羽が和希に同意を求めたことで、微妙なバランスが少しずつ狂い始める。


「――なぁ遠藤」
「は…い」
「俺はいっぺんくらい断られたって、ああそうですかと引き下がるつもりはないぜ?」
「王様…」


丹羽そのもののように熱いエネルギーが、どくっと心臓を跳ね上がらせる。
動揺を悟られたくはないが、容赦のない視線がふたりぶん――和希を、和希の動向を見据えている。


「…他人のものに手を出して、その上どこまで図々しいんだお前は」
「まだ出してねぇよ。大体、お前のモンでもねぇだろ」
「ああ?」


英明は俄かに不機嫌そうに眉根を寄せた。
狙い通りの反応をようやく引き出せたことで、丹羽は更に饒舌になる。


「お前のモンじゃねぇだろ、付き合ってねぇんだったら。な?遠藤」
「………」


眇められた英明の鋭い視線が、ひりひりと痛い。


「つきあってねぇなら、俺がいくらちょっかい出そうと勝手だろうが」
「……そうだな」


開き直る丹羽の言葉で、英明の口唇に冷笑が浮かんだ。ぞっとするような冷たい表情。


「――遠藤」
「は…い」


冷ややかに呼びかけられて、顔を上げ、和希は虚ろな視線をふたりに向けた。


「――お前、丹羽と付き合え」
「…はぁッ?」


まるで訳がわからず呆然とする和希の代わりに、丹羽が素っ頓狂な声を上げた。










【ヒデ様おめでとう'10】
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