4th anniversary and Hideaki's HAPPY Birthday!
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昼休みの食堂にて、大層憂い顔でランチプレートを眺めては溜息をついているその一年に、
周囲の生徒たちは遠巻きにちらちらと、何ともくすぐったいようなもどかしいような視線を送り続けている。
いくら普段巧みに高校生に馴染んでいたとしても、並みの16歳には到底真似できない醸し出される艶やかな空気が、
人目を惹きつけるのは最早日常茶飯事だ。




「かーずきッ!」


そんな状況にもすっかり慣れっこの啓太が、衆人環視の中を堂々と近づいて行って声を掛けた。
ぱっと頭を上げ、正直に嬉しそうな顔を見せた和希に、今度は周りから密やかな溜息。
あ〜ぁ…これは全く本気で自覚がないんだろうなと苦笑しつつ、啓太は親友の向かいの席にトレイを置いて座った。


「…どうかしたのか?和希」
「え?」


綺麗な淡い色の瞳を見開いて和希は、どうしてだ?という風に首を傾げた。


「和希の考えてることくらいすぐにわかるよ、長い付き合いだし?」


暗に顔に書いてあるよって揶揄ってみたつもりだけれど、どうもピンと来ないらしい。
何せ自分が他人からどう見られているかなんて、ホントに無頓着だから。


「――で? 何か悩んでるんだろ?」
「ん…悩んでるって言うか」


一応口籠ってから、啓太を窺うように見上げ、


「中嶋さんってさ…」
「うん」
「…あーほら、中嶋さんってやっぱり恰好いいなって!」
「………」


何か言いかけて誤魔化したのはすぐにわかった。
和希は大人だけど、嘘はあんまり上手じゃない。第一そんな苦い顔で呟くことじゃないよな?


「…啓太?」
「――あ、それは俺も知ってるけどさ、でも、和希も十分カッコイイと思うよ?俺は」


お世辞じゃなく言ったつもりだったけど、和希は複雑な表情で教えてくれた。




それはつい先日――中嶋さんとふたりで出掛けたときのことらしい。
オープンカフェでお茶を飲んでいたところへ声を掛けてきたのが、
スーツ姿の、でもどう見ても堅気のサラリーマンじゃなさそうなくだけた口調の若い男で、
慇懃に名刺を差し出し、中嶋さんにモデルをやる気はないかと告げた――




「後で訊いたらさ、中嶋さんは今までにも何度かあるって言ってたんだけど」
「へぇ…」


スカウトってことだよな。中嶋さんの容姿なら、全く不思議じゃない。そこに立ってるだけでまさしく空気が違うから。
和希と並んでる姿なんてきっと、街中なら女の子の視線集め放題だろうなぁ…


「それがさぁ啓太、声掛けられて最初に振り返ったのが俺なんだけど、その人こっちなんか見向きもしないんだぜ?」


まるで用なしって感じで、と和希は説明する。それがつまり、さっきの「和希も十分カッコイイと思う」の答えらしい。
和希が言うのには、無視されてプライドを傷つけられたとか、そんな器のちっさいニュアンスはまるでなく、
ただ純粋に、『だから中嶋さんはカッコイイ』に繋がってる…ようだ。


「――大体、そんな知りもしない事務所だか何だかに使われるくらいなら、ウチのイメージモデルになってくれたほうが数倍いいよな!」
「え?」
「そうだよ、啓太もそう思うだろ?何で気づかなかったんだろう、あんな完璧な素材眼の前にして」


和希…話が曲がったよ…


まぁいいか、悩んでたことはとりあえずどっか行っちゃったみたいだしな、とすっかり安堵した啓太がうっかり、


「俺はてっきりまた、中嶋さんの誕生日プレゼントどうしようかって悩んでるのかと思ったよ」


気安く呟いたひと言に、和希の顔色が変わった。


「――啓太…そうだ、すっかり忘れてた…」


余計なこと言っちゃったなぁ…と悔いたところで後の祭り。


「どうしよう、啓太…」
「う、うん……」


どうしよう、はこっちだよ和希…









だけど和希と中嶋さんは、特別"付き合ってる"ってわけでもないらしい。
和希の言い分だとそういうことで、中嶋さんに至っては「そんな覚えはない」んだそう。
そのワリに、ふたりでよく出掛けたりしているし、何よりふたり並んでいるときの空気がもう、分かり易すぎるくらい。
王様にそれとなく訊ねてみたけど、捗々しい返事はなかった。王様に恋愛の機微なんて理解れってほうが無理か。




「――じゃあさー和希」
「うん?」


和希の部屋で、一緒に課題を片付けていた。ふたりだけだし、ぶっちゃけてもいいかなって、


「中嶋さんと和希って、セフレ、ってこと?」
「………………え?」
「恋人じゃないんだろ?付き合ってるわけじゃないのに…」


たっぷり10秒…いや20秒は間を置いて、和希はゆっくりと瞬きを繰り返し、やがて


「――け…けーたッ!な、なに言って…る…んだ…」


反応が遅いよ和希…


「違うんだ?」


こくこくと必死に首を振る辺りは、とてもじゃないが自分より歳上には見えない。


「でも好きなんだろ?」


畳み掛けられ、衝撃からようやく立ち直ったらしい和希が、軽く咳払いをする。


「――えぇーっと啓太、それより課題やんないと、ほら、終わんないぞ?」
「…別に俺にまで隠さなくていいのに」


わざとらしく話題を変えたい相手をさくっと無視して、開封してあったポテチを1枚摘み、更にダメ押し。


「和希、自分で分かりやすいの、もしかして気付いてない?」
「え…? そ、そうなのか?」
「うん、すごく」


厚切りポテトをザクザク噛み砕く音のほうが、きっと和希の気弱な問いかけより大きい。
和希も早く食べないとなくなっちゃうぞ…って、今はそれどころじゃないか。


「…で、中嶋さんには言ったんだ?」
「………」
「え? 聞こえないって、和希」


このもごもご具合から言っても、"まだ"は確実なんだろうな。


「――じゃあ言っちゃえば?」
「へっ…」


何をだ?って、本気で理解ってない顔で和希が頭を上げる。


「だから、告白。中嶋さんに!」
「……だ、だっ、誰が?」
「…俺が告白してどうするんだよ」


ここまで動揺してもらえると、企み甲斐があるよなぁ。


「そ、…んなの――いやだからえっと」
「つきあってるわけでもなくて、セフレでもないけど、和希は好きなんだろ? だったらどーんと言っちゃえばいいんだよ。
 そしたら中嶋さんだって何か反応してくれると思うよ? それとも、今のままでいいのか?」
「………」


そんなの啓太には関係ないことだろ――と、ばっさり言い切ってしまわない辺りが、和希って大人なんだと思わせる。
じゃあ…そこにつけ込むのは、子どもの特権?


「別に俺は、和希がこだわらないんならいいんだけどさ。…中途半端って辛いし」
「うん…」


お、ちょっと食いついてきた?


「あ、興味本位で訊くんじゃないぞ? でも実際ふたりってどうなっ――…」


興味本位じゃないなんて、所詮詭弁だろとそんな風に指摘されたようで口籠った。
和希の真剣な眼差しが、じっと啓太を直視している。素直に胸がドキリと鳴った。
見慣れた同級生じゃない表情で。確かに和希は大人なんだ。


「中嶋さん…にとっては別に深い意味はないと思うよ。俺と出掛けたりするのも暇つぶしみたいなものだろうし。
 あ、あと俺たちはそういう…ヘンな関係でもないからな、啓太」
「和希――」


最後の付け足しはともかく、和希と会話しているときの中嶋さんは、vs.王様時のお約束の眉間の皺も消えて、
すごく穏やかで優しい表情をしてるって、気づいてないのか?
それでも?って訊きたかったけれど、何か悩んでいる風だった和希を思い出したら、何も言えなくなった。


「じゃあ…やっぱり伝えないでおく?」


こくりと頷いた、それは、大人としての判断…なのか?和希。









でもって、中嶋さんはどうなんだろう。まさか本人に直接問い合わせるわけにもいかないし。
…さすがにそこまで命知らずじゃない。ここはやっぱり――




「――あァ?ヒデのヤローがなんだって?」


他に当てになりそうな人が思いつかないのが、切ないと言えなくもない。


「はぁ…あの、中嶋さんに好きな人とかいるのかなーって」
「啓太、それ訊いてどーすんだ?お前ヒデが好きなのか?」
「ち、違いますよっ!」
「じゃあ何なんだ?」
「………」


王様の真っ直ぐな切り返しは、ある意味正しい。こっちが困惑するくらい直球ど真ん中。


「――確かこの前も、ヒデと遠藤がどうのって訊いてたよな、何かあんのか?あいつらに」


訊きたいことがあるなら本人に訊けって――正論が耳に痛い。


「あの、すみません…ちょっとふたりが気になって」
「…お前も案外世話好きだよな、放っておけねーのは理解るけどよ」


くしゃりと笑顔を見せられて、少しホッとした。


「ん〜そうだな、ヒデに訊きてぇことあんなら、俺も一緒に行ってやるよ」
「あ、え…っ」


そんな提案をさらっとしてくれる王様だってかなりの世話焼きだ。でなきゃ学園の王様なんてやってられないか。
嬉しくなってつい本音が漏れる。


「王様、どう…思います?中嶋さん、ホントのこと教えてくれるでしょうか」
「…別に秘密主義ってわけでもねぇだろーけど、どーだろうなぁ」


中嶋さんの一番近いところにいると思われる王様でさえそうなら、啓太ごときに真実を話してくれるとも思えない。
頭を掻く王様と一緒に、とりあえず中嶋さんの部屋へ向かった。
が、生憎留守のようで、ノックにも反応がない。
がっかりすると同時に、むしろよかったような気もして、


「外出中…みたいですね」
「そーみてぇだな、ヒデも以前ほど夜遊びはしてねぇみてぇだけど」
「そうなんですか?」
「あぁ…」


案外、と王様はちょっと遠くを見る眼をする。


「案外、遠藤と出掛けてたりしてな」
「あ!それもありですよね」


ぱっと顔を輝かせる啓太の頭を、王様がぽんっと軽くはたいた。あんまり考え込むな、とでも言いたげに。
エヘへ、と笑い返したその背後から、かぶさるように冷ややかな声。


「――他人の部屋の前でいちゃつくな。暑苦しい。他所でやれ」
「…んだヒデか」
「あ、お帰りなさ…い」


いきなり現れた噂の当事者は、確かに外出中だったようで、細身のパンツにファーつきのジャケットがすごく似合っていた。
和希の言うように"恰好いい"という形容がぴったりだし、モデルにスカウトされるのだって頷ける。


「――何か用か」
「お、おぅ…」


ちら、と王様の視線が啓太を向く。


「あ、あの…中嶋さん」


和希のこと、ホントはどう思ってますか――なんて、訊けるわけないよやっぱり。しかもこんな廊下のど真ん中で。


「すみません、もういいんです。中嶋さんが戻って来られたので用は済みました」
「………」


全く説明になっていない啓太の言葉に、中嶋さんはふんと鼻白んだだけで、それ以上何も突っ込んでこない。
カードキーを取り出し、解錠しかけ、ふと思い出したように振り返る。


「――伊藤」
「はいっ」
「…お前、遠藤に何か言ったか」


「え…?」


冷酷無比な元副会長の表情から、何かを読み取るのはかなりの難問だ。


「和希…が何か?」
「いや」
「――?」


嘘の下手な和希は、何も言わなくても顔に出る。啓太がけしかけたことで、挙動不審になるのは十分ありえるし、
それでなくても鋭い中嶋さんには、分かり易すぎな行動を取ったかもしれない。
でも、それに気づいたってことはだ。あの後、和希は中嶋さんに会ったって…ことになるよな。


「あの…和希は…何か悩んでたみたいなんで、それには少しだけ」
「…そうか」


勇気を奮い、本当に重要ポイントだけを伝えると、全てを見透かす眼鏡の奥の瞳が、ほんの少し困惑を映したように、見えた。









【ヒデ様おめでとう'09】
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