3rd anniversary and Hideaki's HAPPY Birthday!
+Nakakazu lovelove promotion committee+
Material/NOION






・・・・・・・・・・SCENE#1


今年も律儀に木犀が香り始めて、10月、朝晩じわじわと冷え込みを感じるようになり、
年寄り臭いと揶揄われるのを承知の上で、中嶋さんの部屋へ押し掛けるのが日課となった。


「すみません、毎日。受験勉強の邪魔をしてしまって」


軽く頭を下げれば、どうせ社交辞令だろう?そんな顔で出迎えてくれる。
態度とは裏腹な穏やかな笑みや、差し出される腕、
狭いベッドでくっついて眠るとき、どんな想いで居るかなんて、きっと言葉なんかでは言い尽くせない。
だから伝わればいいのにと思う。
触れた肌から重なる場所から、全部流れていけばいいのにって。




「――なんだ?」
「…なにがです?」
「またくだらないことを考えていただろう」
「………」


やっぱりそう単純にはいかないようだ。
和希の小ぶりな頭を胸に押し付けるように抱え込んでいるせいで、顔も見えないのだから無理もないのか。


「もう…違いますよ。そうじゃなくて…」
「お前の考えなどすぐにわかる」
「え…?」


勝手に期待する心臓が、どき、と高鳴る。
どんな些細な変化でも、密着した身体からは伝わる気がする。だから半分は当たっているのか、も――…


「“さっきもっと△△△を××して、※※を◎◎◎してもらえばよかった”」
「ぐふッ」


前言撤回――やっぱり無理に決まってる。


「どうしてすぐそっち方面にいくんですかッ!」


訊くだけ無駄だってことはよくわかってるけど…


「お前が毎晩毎晩やってくるのは、新しいプレイを試したいからだろう?」
「違いますッ」


揶揄いも軽口も日常茶飯事。だから落ち着いて…軌道修正…うかうかと挑発に乗らない…


「そうじゃありませんよ。そうじゃなくて俺は…」


なのに具体的に考えていたことは何にもなく、言葉に詰まった。
ただ、こんな柔らかな夜を与えてもらえてるって知って欲しかった。それだけなのに。


「なら、どっち方面だ?」


まだ言葉尻を捉えてやろうって見え見えの口ぶりに、何故かふと思い出した。そうだ、もうすぐ…


「そうですねぇ来月方面…、ですね」
「来月?」


流れがほぼこちらに向いてきて、頬が緩みそうになるのを気取られないよう注意深く、


「えぇ来月です」


頭上20センチで、密やかに眉を顰める気配。


「降参しますか?」
「…“11月になれば益々冷え込んでくるだろうし、もういっそこの部屋に越してくるかな”か」
「……え゛」
「違うのか」


返事より先に、腕の中から伸び上がって表情を確認する。
両の掌で頬に触れて、そして、


「――いいんですか?そんなこと言って」
「お前こそ、俺の許可など必要か?どうせ勝手に押しかけてくるんだろう」
「そん……じゃあ、寮長に怒られない範囲で突撃してきますね?」


「あぁ」と微笑んでくれる。何かまた企まれてる?って想像しないでもないけれど、
珍しくも柔軟な態度に、つられてこっちも軟化してしまったようだ。


ぐずぐずと蕩けていくような暖かさに包まれ、いつしか眠りに落ち、肝心なことを訊き忘れていた。





――誕生日、何が欲しい?






・・・・・・・・・・・SCENE#2


仕事が立て込んでくると、現実逃避したくなるのは人の常で、


「あ〜編み物したい〜〜」


秘書の眼を盗んでばったりと机に倒れ伏す。
もう、何日まともに寮に戻れていないか。
かろうじて授業には出ている(午前中限定多し)状況で、サーバー棟に取って返して深夜まで仕事。
多忙なのは、自分で選んだ道なのだから受け入れもする。
研究員、職員たちの人生を背負っている自覚も責任も、十分感じている。


「でもなぁ…」


中嶋さんに逢いたい感情とは相容れない。直に声を聴いて――あ、プレゼント何が欲しいか訊かないと。
…どうせ答えてくれないか。
今からじゃもう間に合わないけど、いつかこの手で編んだものをプレゼントしたい。
セーターか…それよりカーディガンかな。
軽めの糸で、色は…黒…う〜ん重いかな。紺…あ、モスグリーン、ブルーグレイでも…
うっかりするとおっさん臭くなるから気をつけないと。何と言っても相手があのひとだから。


「――和希様?」
「え?あ、あぁ、寝てなんかない。大丈夫」
「お疲れのご様子ですが…」
「うん、ちょっと現実逃避してただけ」


秘書の眼が“?”になるけれど、それ以上話せば余計にヤバイ上司認識が上乗せされそうだ。


編み棒(かぎ針も好きだ)に触れないのと、中嶋さんに触れられないもどかしさはちょっと似ている。
禁断症状に限りなく近い。
最初はぽつりと。次第に気持ちが募っていって、やがて我慢が利かなくなる。




「お、お久しぶりです…」
「………」


とにかく大急ぎで仕事をやっつけ、何とか週末、中嶋さんの部屋に突撃を敢行した。
この前訪れてから随分間が空いたせいか、部屋の主は、どう受け止めればいいのか迷う顔でのお出迎え。


「…まさか本気だとは思わなかったが」
「え?」
「“引越し”」


顎をしゃくって腕の中の手荷物を示した。


「あぁ、これは…」


軽く抱えるくらいの紙袋は、さっき大慌てで買ってきたばかりの、


「マフラーを…編もうと思いまして」


中から毛糸を取り出してみせる。


「貴方の顔も見たいし、編み物もしたいし、で一石二鳥を狙ってみたんですけど」


自分の部屋で編め、と突っ込まれる前に、言い訳を披露しておく。
それでもまだ納得いかない顔をしている中嶋さんに、更に追加重要事項を告げた。


「それでですね、これ、この部屋に置いていっても構いませんか?」
「どうする気だ」
「早く仕上げるために頻繁に通ってこようかなと。それに…」


人差し指で頬を掻いて、


「受験勉強の息抜きにどうかと」
「………」


沈黙と共に、華麗にスルーされてしまったので、追加の追加で説明を付け足した。


「もちろん強制するつもりはありませんよ。ただ、俺のいないときに、俺だと思って触ってもらえたら――なんて」
「…どうして、わざわざそんないやらしい言い回しをする」
「えっ?」
「何より本物に勝るものもないと思うが?」
「――」




久しぶりのキスを、小さく深呼吸して受け入れた。






・・・・・・・・・・・・SCENE#3


寝返りを打って眼を覚ました。
ぼんやりした視界に映る光景は、何処となく見慣れない。
しばらくベッドに横たわったままの姿勢で、思いを巡らした。


そうだ、昨夜…中嶋さんの部屋に泊まって………ついでに余計なことまで思い出し、思わず枕に突っ伏した。


どれくらい前になるのか、一旦目覚めた今朝方のやりとり。


「あ、もう起きないと…授業――」
「土曜だ。サボって寝ていろ」
「駄目ですって…」


先にベッドを抜け出した中嶋さんの掌が、そっと目蓋に押し当てられると、
じんわり染みるような暖かさと心地よい重みに、抗い睡魔が再び近寄ってくる。


「どうせ起き上がれないだろう…?」


穏やかに諭される言葉の意味もいつしか遠くなって。




携帯を確認すれば、あれからすでに数時間が経過している。
見渡す室内はがらんとして誰もいない。授業に出たんだろう、当然か。
結局サボってしまった…関節が軋むような身体を宥めつつ、何とかベッドから這い出し、


「あたた…」


言い置いていった意味深な言葉を今頃理解する。


「無茶しすぎだって…」


呟きと共に、また思い出される赤面モノのアレコレ。
居たたまれなくなり、シャワーを借りに扉へ向かった。
授業中でもあることだし、返事は期待せずにその旨をメールで伝えたが、
バスルームから出ると、何故かすでに返信が届いており、


「授業は…?」


少々複雑な気分でもって開封すると、


『昼に戻る。食べたいものは』


買って帰って来てやるって? 画面を見ながら、思わず頬が緩む。
ランチのリクエストを送信して、中嶋さんを待つ間、昨日の荷物から毛糸を引っ張り出した。
選んだのはブルーグレイにホワイトの混色、並太。
出来上がりを想像しながら、作り目を編み出す。
甘すぎなければ、フリンジ付きでもいいかな…やっぱり嫌がるかな。




「――あ、お帰りなさい!」
「………あぁ」


廊下を足音が近づいてきて、扉が開く。自然に出た言葉だったが、そのひとは一瞬惚けて和希を凝視した。


「どうかしました…――あ、中嶋さんの部屋ですよね。失礼しました。それから、シャワーもありが…」
「………」


言葉を遮るように、無言で床の上に買い物の荷物を放ると、部屋の主は椅子に身を投げ出した。
メールから帰宅するまでに何かあったんだろうかと危惧するくらいに、空気が刺々しい。


「――あ、頂きますね。中嶋さんはどれにします?早くしないと午後の授業、間に合いませんよ」
「3年は午前中の特講だけだ」
「あ、そうなんですか」


食事よりまず一服、が何より優先されるらしい。煙草に火をつけ、大きく息を吐き出して。
じゃあもう学園には戻らないってこと?
把握し切れていない教科スケジュールを頭の中に描き出し、ひとまず飲み込んでおく。


「――それなら、せっかくですし、一緒に食べません?」
「…そうだな」


携帯灰皿で煙草を消すと、中嶋さんはごく素直に向かいに座ったので、
買って来てもらった袋の中身を取り出して、ふたりの間に並べる。


「テーブルがないのって結構不便ですよね」
「育ちがいいのも面倒だな」
「……まぁ、否定はしませんけど」


床に置かれたものを手に取って喰らいつくような食事には、正直慣れていない。


「価値観の違いは致命的だ。お前と一緒に暮らす相手は、さぞや苦労するんだろう」
「…あぁ、この前のお話なら、冗談…」


何気なく応じてから、その微妙な空気に気づいた。






・・・・・・・・・・・・SCENE#4


「えぇっと…」


ミネラルウォーターのボトルを口に運ぶ姿をちら、と盗み見る。相変わらず難しい人だ。


「それならどっちかって言うと中嶋さんのほうが…」
「俺の方が、なんだ?」
「難儀しそうですよね。一緒に暮らす人が」


「………」


長々と溜息、の理由なんて理解らず、益々――客観的に見ての話だけど――面倒臭い人だよなとこっそり思う。
でも、そこが気に入ってる点でもあるようなないような。


「もちろん俺は苦労なんて厭いませんけど」
「…なんだいきなり」
「え、何となくフォローもしておこうかなと」


そう答えれば、また妙な顔。


「お前の考えはまるでわからない」
「………」


いつだったか――それと全く逆の言葉を聞いたと思い出して、何気なく中嶋さんを眺めた。
向こうもおそらく同じことを考えたらしい。
何か言うわけでもないのに、しまったって空気が伝わってきて可笑しい。


「やっぱり触っていないと駄目ってことですねきっと」
「――」
「な、なんですか?」


どちらかと言うと、いつもの中嶋さんを真似てみた、に近い軽口なのに、わざわざ声を潜めてまで笑われると…


「そうだな、お前の言葉はいつも正しい」
「え、えーと…?」


あ、イヤな予感。


「和希」


正面で小さく手招きする、その謙虚(?)さが却って不気味。


「…食事中ですよ?」
「だからなんだ?」


応じなければ、強引にでも腕を引こうという素振りを見せるから、拡げられた昼食の安全を考慮して渋々従うことにした。
膝立ちで近づき、ほんの少し間を空けて、胡坐をかいた長い脚の前で止まったものの、
こっちだ、と自分の腿を叩いて示されればさすがに困惑するしかなく、おずおずと麗しき御尊顔を見上げた。


それが恩情を求めるかのようにでも映ったか、中嶋さんは微苦笑を浮かべ、片腕だけで軽々と、その身体を膝の間に座らせた。
何故か後ろ向きに。


「テーブルがないと不便というのは」
「え…?」


「食べさせて欲しいという意味だろう?」


耳孔にダイレクトに吹き込まれれば、無駄な足掻きとわかっていても暴れ出したくなる。


「自分で食べられます!――大丈夫ですから!」


当たり前のことを大真面目に主張する自分が、どうにも情けない。
どうせ聞き入れられないんだから、と開き直ることも出来ない。


逃げ道を見出せないまま、中嶋さんの食べかけの激辛カレーパンが一口大に千切られて、口元に向かってくる。
観念しろ、とでも言いたげに。


「う゛う゛…」


背中で密着している相手には、口を開けなければ何も伝えられない。
歯を食いしばって固辞するほどに嫌じゃないのが、余計に厄介だ。
ただ、恥ずかしさがほんの少し優先されるだけのことで。


「…じゃあ、ひと口だけですよ?辛いのあんまり得意じゃないんで」


あくまでも譲歩であって本意ではないとアピールしつつ、小さめに口を開けた。
中嶋さんの側からは、覗き込んだところでせいぜい横顔程度しか見えないはず。


だからなのか、わざとなのか――やや油っぽい指先は、口の中に棘々しいパンの欠片を押し込むと、
去り際にふっ…とほんの一瞬、下唇にキスに似た感触を残して消えた。
そのさり気なさが却って淫らな想いを湧き上がらせる。これは最早、天賦の才と言うべきか…
それとも…?もしかして…ヤラしいのは――…? 


安易な考えは身を滅ぼす。後ろ向きの姿勢でよかった…と心底思った。


「そ、そういえばさっきの話ですけどっ」
「――どの辺りの話だ」


訊き返すのと同時に、中嶋さんは水のボトルに手を伸ばした。
そのまま頭上…というか背後に…向かうのかと思いきや、蓋の開いた飲み口が、予想に反してこちらに向けられる。
飲めって意味、だろうか…?


「あの、危ないので自分で――…」


手を差し出し、まだそれも言い終わらないうちに、ボトルはあっという間に視界から見えなくなった。
一瞬のタイムラグ。強引に顎を傾けられ、生温い液体がどっと口腔内を満たしていく。


「――んん……っ!」


受け止め切れなかった大半が、口の端から溢れ首筋や襟元をしとどに濡らす。
荒い仕種で水滴を拭うその人の手や、それでもまだ貪るような口唇の激しさに、
伝えたい言葉も何もかも、かなぐり捨ててしまいたくなる。





だから願わくばその日だけは――冷静で適切な自分を保って、心からのおめでとうを。









NEXT・・・・・・・・・・・・・SCENE#5











【ヒデ様おめでとう'08】
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