とりあえず悩んでいる。 間近に迫った大事なあのひとの誕生日――そのプレゼントについて。 何を贈ろうか。スーツ?靴?アクセサリー? ケータイ灰皿…でも煙草はなるべく控えて欲しいし。 パソコン?車?旅行? いっそ不動産とか。 「和希…もっとフツーでいいんじゃない?」 ――そうか? 普通…普通って難しいな。 「和希はさ、何でも買えちゃうから余計悩むんだろ」 ――う… 「あ、嫌味じゃないぞ?」 ――わかってるって啓太。 「要はさ、気持ちだよなプレゼントって」 ――それもよーくわかってる。わかってるけど、それを形に表わそうとするとこでつまずくんだよ。 「…本人に訊いたほうがいいって絶対。 中嶋さんってあーいう人だし。趣味も難しいだろ?」 ――訊いたら答えてくれると思うか? 「うーん…わかんない」 ――啓太〜〜〜 「だ、だからほら、手作りとかさ、和希器用なんだし、 えーと編み物じゃなくても、手作りの…えっとそう!プリンタカバーとか!」 急に具体的になった啓太の提案に、何て答えようか迷っているところで、 ポケットの携帯が震えた。 「ごめん啓太――あ、中嶋さんだ。 はい……え?今ですか?啓太の部屋ですよ…ハイ、はい。でもどうし……あ、切れた」 「中嶋さん?どうかしたのか?」 「うん…今からこっちに来るって」 「え?何しに?」 「さぁ…?」 中嶋さんはすぐさまやってきた。 啓太は未だに威圧的なこのひとが苦手らしくて、こっそり背中に隠れるようにしている。 「――伊藤」 「は、はいッ」 「話が済んだなら、こいつはもらっていくが構わないな」 啓太の答えを待つまでもなく、このひとが訊いた時点で全て了承済みになるらしい。 …俺の意見は? 今日は特にいつも以上に強引で俺様なこの態度。 怒らせるような覚えはないんだけど――何かしたっけ? 「どうしたんですか?急に」 「別に何も、と言ってやりたいところだが」 いきなり自室に連れ戻された挙句「別に」では、キレますよ普通は。 「…じゃないならなんですか」 「……」 「中嶋さん?」 返事もしないで、その上長々と溜息ですか。 「急用でないなら、啓太のところに戻りますけど」 「…遠藤」 「はい?」 「最近、頻繁に伊藤の部屋で話し込んでるようだが」 なんだ…ヤキモチ? 「別に啓太とは何でもありませんよ?」 「……」 あ、また溜息。 「早合点するな」 「え?」 「その伊藤が苦情を訴えてきた」 「はぁ?」 何だか予定とは正反対の方向に話が進んでる…。 「お前から妙な相談を持ちかけられて困っている。何とかしろ――とな」 「まさか啓太がそんな…」 「信じるかどうかはお前次第だが、伊藤にくだらない相談を持ちかけたのは、今月に入って何度だ?」 「え…えっと、5回…いや6、7…、あ、別にくだらなくは…ありませんけど」 それが真実なら、啓太はドコまでバラしたんだろう? あんなにこのひとに怯えてたくせに? 「――それも受け取る相手次第だろう」 中嶋さんはベッドに腰を降ろすと、無言で…というか眼力で、こっちへ来いと命じた。 そもそもここは俺の部屋なんですが。 けれど抗う気力もなく、とぼとぼとそちらに引き寄せられるように近づくと、 そのひとは満足そうに微笑んで、俺の身体を反転させ膝の間に座らせた。 正面から抱きしめられるより密着度が高くて、頭がのぼせそうだ。 中嶋さんが近過ぎて、身体全部がこのひとのものになったみたい。 「――どうせ…」 「えっ?」 「どうせ俺に話すつもりはないんだろう?」 背後のひとは拗ねた口ぶりで(思い過ごし?)意外な言葉を口にした。 啓太は肝心なことを伝えずにおいたのだろうか。 それはつまり、本人に訊けばいいよっていう後押しなのかも。 「――絶対に答えてくれるっていう保障つきでなら、 貴方に相談を持ちかけるほうが手っ取り早いんですよ、ホントは」 「…なんだそれは」 「ですから、約束していただければ話しま――…」 振り返りたいのは山々だった。が、中嶋さんはふんと鼻白んで、 襟足の髪を指先で掻き上げ、わざとそんな場所に口唇を落とす。 「――答える気がないならちゃんと口で言っ……!」 「誰も答えないとは言っていない」 「だったら…」 「答えられる範疇でならな」 「ホントですか?」 応答する代わりに、悪戯な口元が今度は耳朶をひと噛み。 「ちょ…」 それは、気を削がせようという作戦?(何のために?) 「あ、あのですね、もうすぐ誕生日でしょう?何か欲しいものないかなって」 「……」 あ、黙った。 「十分答えられる範疇ですよね?」 「ない」 「は?」 「欲しいものなどない」 そこまで見事に即答しなくてもいいのに。 「そう言われると思ったから、啓太に相談したんですよ?」 「生憎、お前等ほど物欲に支配されていないからな」 「なんですかそれ」 そう言われれば、中嶋さんらしいと納得してしまいそう。 思い出すこのひとの部屋は――必要最低限のもので十分だって語っているようだ。 「別に物でなくても…例えば旅行、とか」 「時間の無駄だ」 悪意のないことはわかってる。中嶋さんだから…そういうひとだから。 でもせっかくの誕生日。 年に一度のお祝いくらい、素直にさせてくれたっていいのに。 「ホントに何も?」 「――あぁ…」 それが態度を軟化させたものか、単に面倒なだけなのか、どっちなのか見当のつかない短い返事で、 そのひとは、抱きしめる腕を強くする。 「…中嶋さん?」 「お前はこうして貴重な時間を割いてここにいるだろう」 「はぁ」 「俺はそれで十分だ」 耳元に、囁くような低音。かーっと頬が瞬く間に染まる。 「ななななんですかその殺し文句!」 後先構わず暴れ出したくなるからもう… 「海千山千の割には免疫がなさ過ぎるな、お前は」 「な――…」 少しも強引じゃないのに決して拒ませない。甘い言葉と、しなやかな態度と。 「中嶋さん…」 半分振り返った横顔を覗き込んでくる眼差しは優しげで、それでいて… 「少なくともお前の身体にとっては…伊藤より、俺といるほうが余程意義深いだろう?」 さらりと遠回しに、何言ってるんだか。 「……やっぱり妬いてたんですか?」 もちろん答えなんかなく、その代わり、濃厚なキスをひとつ寄越して誤魔化した。 【ところでプレゼントは?】 Copyright(c)2007 monjirou Material/Mon petit bambin +Nakakazu lovelove promotion committee+ |