年またいでのお祝い。去年(2007年)の続きです。

以前書いた「ハロウィン★パニック」と、2007年6月3日の
和希オンリー後に開催した和希誕生日会が元ネタです。
誕生日会レポに目を通すと、より分かりやすいかと(笑)。

ちなみに学年とか時期とか気にしちゃダメです。
ヒデ卒業してね?とか話が繋がらないから(笑)。

 

 

 

 



バースディー☆パニック #2


 

 

 

 

「ようやく来ましたね」

 

楽しげに笑いながらそんな事を言う七条の視線の先にいるのは、もちろん中嶋と和希。

ただ、中嶋の機嫌のよさそうな表情に対し、和希の顔は酷く強張っている。


その理由がこの店にあるのか、通された席にあるのか。

残念ながら、七条の笑みに引きつった顔しか向けられなかった啓太には分からなかった。

 

「なぁ、七条。ヒデの奴、自分からあの席、予約したのかよ?」

「えぇ。そうですよ、会長」

「・・・・・・・マジで?どうしちまったんだ、アイツ」

「あの人の考えることなんて、僕にはこれっぽっちも分かりませんよ」

 

中嶋の言う『いい店』がどんなものか気になった丹羽と七条がとったのは、彼のパソコンに侵入して予約した店を調べるという方法。

予想外の店名と、ホームページ上の店内写真に二人の顔が引きつったのは言うまでもない。


もちろん、それは巻き込まれた形の啓太も同様ではあった。

 

まぁ、そのまま引き下がるような弱い精神力の持ち主たちでないことは周知の事実。

あっさり同じ店に予約を入れた七条は、店員に頼み込んで少しだけあの二人より先に席に通してもらった。


彼らの様子が見える場所で、向こうからは見えない場所。

我儘な頼みにもかかわらず七条の願い通りの席に通されたのは、この店に半個室が多いからだろうか。


青緑のカーテンで覆われた廊下を抜けた先にあるのは、照明が落とされたほの暗い空間。

モノートン調の中にも遊びが感じられるインテリアで揃えられたそこは、まさしく不思議の国の世界だった。


中でも奥にある格子に囲まれた個室は、『愛の国』と名づけられているらしい。


ソファの上に赤いハートのクッションが置かれていて、いわゆるカップルシートとして人気の個室を見た丹羽はさすがに呆れたような表情を浮かべた。

 

「あんな席を予約したってのも不思議だけど、まずこの店からして不思議だよな」

「・・・・・・会長。あれのせいじゃないですか?」

「あれ?」

「し、ちじょう、さ・・・・もしかして・・・・あれのせい、ですかね・・・?」

「そうだと思いますよ、伊藤くん」

 

頷いた七条に、啓太は思わず両肩を落として机に伏せる。


まさかとは思うが、本当にその通りなんだろうか。

うん、まぁぶっちゃけ似合ってたよ?似合ってたけどさ。


だからって、ここで祝う理由になるの?それ。

 

そんなことを思いながら、啓太は自分の親友の苦虫をかみつぶしたような顔をそっと眺めた。

 

 

 

 

「・・・・・・・・中嶋さん?なに考えてるんですか、貴方は・・・っ」

 

格子に囲まれた空間に響いた和希の声は、微かに震えている。

それが怒りのせいだという事に気づいているのか、いないのか。

中嶋は、表情も変えずにソファに腰を下ろした。

 

「なにが不満だ?お前は」

「何って、何もかもですよ!まぁ百歩譲ってこの店は良しとしましょう!でも男2人で来るところだと思ってるんですか!?」

「別におかしくないだろう」

「おかしいに決まってるでしょう!?ある意味、コスプレ店じゃないですか!」

 

小声で怒鳴るという器用なことをやってのけた和希の視線の先にいるのは、アリスの格好をした女性の姿。

もちろん水色のエプロンドレスを着用し、ひざまで覆った白黒の縞模様のソックスを穿いている。


改めて彼女たちの姿を見て、和希は微かに首を捻った。

何にせよ、中嶋の好みじゃないだろう。

どちらかと言えば妖艶な感じが好きな彼に、この可愛らしさは無縁な気がする。

 

ちょっと失礼な事を思った瞬間、中嶋は不満げな顔で口を開いた。

 

「お前のほうが似合っていたな」

「は?」

「前、あの格好をしたことがあっただろう?」

「………っ、忘れろって言ったでしょう!?」

 

 

ちょっとした学内のイベントで以前、和希はアリスの格好をしたことがあった。

エプロンドレスの制作も大変だったが、あの時は七条や成瀬にとっ捕まり散々な目にあったのだ。


当然、中嶋からのお仕置きも含んでの散々な目≠ナある。

 

あれ以来、女装に順ずるものは2度とするもんかと和希が心に誓ったのは言うまでもない。

 

「中嶋さん…まさかとは思いますが、アレのせいで此処を選んだとでも?」

「あぁ、お前はこういうのが好きなのかと思ってな」

「別にイロモノが好きなわけじゃないです!アレは仕方なく…!」

「その割りには楽しそうだったじゃないか?」

「ぐっ」

 

 

 

 

言葉に詰まって黙り込んだ和希を眺めながら、観察を続ける七条は声を殺して笑い出した。

つられそうになった啓太は、必死に笑いを堪える。

 

「確かに楽しそうでしたねぇ」

「……和希、ノリいいですからね」

「こりゃ遠藤の負けかな?」

「アイツが中嶋に勝てるわけがないだろう」

「西園寺さん。それ、ちょっと違いますよ」

「何がだ?啓太」

「和希の場合、勝つ気がないだけです」

「……駄目理事長じゃないか」

 

ため息をついた西園寺に、七条は肩を竦めて答える。

顔には、相変わらず楽しげな笑みが浮かんでいたけれど。

 

「仕方ありませんよ、郁。あの方は人生を謳歌することに全力を注いでますから」

「注ぎすぎだ!たまにはその半分の情熱を仕事に注げ!!」

「あ、あの…和希、仕事も頑張ってると…」

「頑張っていることは認める。だが能力に応じられる分はもっとあるはずだ」

 

誉めている言葉のはずなのに貶しているように聞こえるのは気のせいか。

そんな事を思いながら啓太は複雑な表情で西園寺を見つめる。

 

やぶ蛇にならぬよう決して西園寺と視線を合わせない丹羽は、賢い選択をしたと言えよう。

 

 

 

 

そんな会計チーム側の事情など知らない和希は、まだ剥れたまま中嶋に文句を言っていた。

 

 

「だからって、もう少し普通のとこで祝ってくれても…」

 

恋人と、しかも同性の彼氏と誕生日を祝う店じゃない気がする。

心の中でそう呟きながら口を尖らした和希だったが、次の瞬間、その顔が輝いた。

 

「お待たせ致しました。迷ったときはチェシャ猫のニヤリイジワル道案内≠ナございます」

 

和希の目の前に置かれたのは、メインの肉料理。

牛フィレ肉のステーキにカシスソースが掛けられていて、ステーキに重ねるように大き目のクラッカーらしきものが置かれていた。


それは猫の形をしていて、ステーキが胴に見なされたチェシャ猫であることが分かる。

 

「すごい、可愛い!さっきのハートの王様とかも、ちゃんとハート型のパイとかあるし。結構凝ってるんだね」

「気に入ったか?」

「うん!」

 

先ほどまでの不機嫌さは何処へやら。

現金にもウキウキした気分で料理を食べ進めていた和希は、ジッと自分を見つめたままで動きを止める中嶋に気づいて顔を上げた。

 

「どうしました?」

「いや、何でも」

「早く食べないと冷めちゃいますよ?」

「あぁ。いま食べる」

 

微かに笑みを浮かべて和希の頭をポンと叩いた中嶋は、ようやくナイフを取り上げる。

首を傾げながらそれを見つめた和希だったが、自分も料理を堪能すべく口を開いた。

 

 

 

 

「何です、あれ。鬼畜が聞いて呆れますね」

「可愛い!って言う遠藤が可愛かったんだろうよ…もうヒデ、どうしようもねぇな」

 

デバガメ隊トップの2人、七条と丹羽は、顔を見合わせて同時に首を振った。

とてもじゃないが、学園内の反中嶋派には見せられない顔だ。

 

威厳も何もあったもんじゃない。

むしろ、自分の弱点が和希であると自ら吹聴しているような表情。


―――― もちろん、そう簡単に弱点を攻めることを許すような人間ではないが。

 

 

「そろそろ帰らねぇ?俺、もう良いわ。ヒデの脂下がった顔、これ以上見てもなぁ」

「丹羽、貴様!人のことをつき合わせておいて厭きただと!?」

「厭きたなんて言ってねぇよ、郁ちゃん!」

「同じことだろう!?」

「ちょっ、2人とも止めてください!!」

 

小競り合いを始めた丹羽と西園寺に、啓太は慌てて止めに入る。

その3人の騒ぎを手で制した七条はにっこり笑って口を開いた。

 

 

そう ―――― まるでチェシャ猫のような、笑みで。

 

 

「面白いことが始まりそうですよ、会長」

「へ?」

「ほら、見ててください」

 

七条の指差した先には、中嶋と和希がいる『愛の国』へ近づくアリスの姿。


一体何が始まるんだろう。

啓太は固唾を呑んで2人を見守った。

 

 

 

 

「和希さんは、どちら様ですか?」

「え?あ、俺です」

 

アリスが持ってきたのは、ラストのデザートプレート。

Happy Birthdayかずき≠フ文字入りだ。

 

「中嶋さん!」

「誕生日だからな」

 

珍しく穏やかな笑みでそう言った中嶋に、必死に抱きつきたい衝動を我慢しながら和希は笑い返す。

 

「……ありがとう」

「ロウソクが溶ける前に吹き消したらどうだ?」

「うん!」

 

こんな普通の誕生日らしいこと、したことない。

大きなケーキでも、抱えきれないプレゼントの山でもないけど、すっごい嬉しい。


中嶋の思わぬ心遣いに嬉しさを噛みしめながら、和希は火を吹き消した。


拍手をしてくれたアリスにお礼を言った和希だったが、次の瞬間、そのまま動きを止める。

 

「どちらになされますか?」

「は……?」

「うさ耳か、リボンか。どちらかのカチューシャをお選び下さい」

「な、んの…た、め?」

「ポラロイドで記念撮影させていただきます」

 

語尾にハートマークが付いているような朗らかな声でアリスは言うが、和希は慌てて首を左右に振る。

 

 

おかしいだろ、それ!

や、別に記念撮影はいいよ?誕生日だし。


でも男の俺に、それはないだろ!?

ていうか、絶対ありえない!!!

 

「お姉さん!それ、いっそお姉さんがつけましょう!!」

「お誕生日の方に付けて頂くのが当店の決まりですので」

「にこやかにそんなこと言われても嬉しくない〜〜〜〜!!!!」

 

すでに和希は半泣きだが、それで見逃すような帝王ではない。

 

「うさぎでいい」

「かしこまりました!」

「は、放して〜〜〜〜!」

 

ガシっと中嶋に抱きこまれた和希の頭にアリスが、うさ耳を装着する。


首ごと固定され、動けない和希の耳に届いたのは、ものすごく楽しげな声だった。

 

「それじゃ行きますよ〜ハイ、チーズ!」

 

 

カシャン。ジーっ。

 

 

 

店内中に響いたように感じた音は、フィルム写真を吐き出してゆっくりと止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「理事長。オプションつきがあんなに可愛らしいとは思いませんでしたよ」

「煩いよ、七条くん!!」

「ああいうものが似合うとは…今度、猫耳でもプレゼントしようか?鈴菱」

「止めてくれ、西園寺くん!!!」

 

後日、会計室では部屋の主たちに遊ばれる和希の半泣き姿がよく拝めるようになったらしい。

 

 

「ヒデ…今度、お前にメイド服でもやろうか?」

「あ、王様!俺、巫女さん姿とかが和希には似合うと思います!」

「啓太、丹羽!馬鹿な話は止めて手を動かせ!!」

「俺は親友の恋を応援してやろうと思ってだなぁ!」

「少なくともお前たちには見せるつもりはない!」

「すんのかよ!!!」

 

生徒会室では、遊ぶつもりだった会長が相棒に返り討ちにされている姿があったそうだ。

 

 

 

 

Kazuki Happy Birthday! 「バースディー☆パニック #2」

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