2人きりのHAPPY DAYS


 

 

 

 

「・・・・・なんです、その変な顔」

 

朝から中嶋の部屋を襲撃した和希を出迎えたのは、何とも言えない微妙な表情を浮かべた恋人。

喜怒哀楽を露にすることが少ない中嶋だったが、今の顔は珍しく心情を表に出したものだ。


その理由が朝7時からの襲撃にあるのか、それとも手にした大きな箱にあるのかは分からない。

 

「変な顔なんかしていない」

「えぇ?してますよ。何なんだ、って言いたそうな顔」

「それは認めるが、変な顔じゃないだろう」

「まぁ、どんな顔してても中嶋さんはカッコいいですけど?」

「・・・・・くだらない話はいいから用件を言え」

「テレてる貴方も可愛いですけどね」

 

泣く子黙るという噂の帝王・中嶋英明を可愛いなんて言える度胸があるのは、和希ぐらいだろう。

ベルリバティの理事長を務めているのは、伊達じゃないということか。


そんなことを思いながら、中嶋は密かにため息をついた。

 

「で?何の用だ」

「何の用って・・・冷たいなぁ」

 

我が物顔で部屋に入り込んだ和希は、苦笑しながら定位置であるラグの上に腰を下ろす。

それを横目で見ながら中嶋は呆れた声色を言葉に乗せた。

 

「7時前から人の部屋に来るのは非常識じゃないか?」

「だって、昨日来れなかったし。どうしても仕事終わらなかったんですよね」

「だからといって・・・・」

「それに!今日ぐらいは朝から一緒に居たっていいでしょう?」

「何でだ?」

「・・・・・・・え・・・本気?」

 

ちょっと、ありえなくない?と呟いている和希を胡散臭そうに眺めた中嶋は、眉を寄せ一層硬い声を出す。

 

「思わせぶりなことをしてないで、さっさと用件を言え」

「ホントに朝っぱらから俺が来た理由、分かりません?」

「知るか」

「あのね、英明」

「・・・・・・っ」

 

滅多に口にすることのない名前で呼ばれたからなのか、それとも頬に伸ばされた指のせいか。

理由は定かではなかったけれど、息を詰めた中嶋の姿に和希はふんわりと笑う。

 

こういう所は年相応で可愛いよな。

どれだけ大人ぶってても、この子は。

 

「18歳、おめでと」

「え?」

「俺、一番かな?」

 

悪戯に成功した子どものような顔で笑って、和希は指先で触れた頬に口唇を落とす。


固まったまま、その優しいキスを受けた中嶋はようやく硬直が解けたらしく無理やり口を動かした。

 

「お前には驚かされてばかりだ」

「なにが」

「誕生日なんて祝うような素振りなんか見せなかったくせに・・・反則だろう?」

「英明の驚く顔が見たかったからね」

 

普段、彼が呼びもしない名前は、中嶋の耳にひどく優しく届いた。


後輩の姿勢を崩さない敬語に苛立ったこともある。

大人のくせに、譲れないポイントが多すぎる恋人。


でも今日だけは、中嶋の望むものを与えてくれる気になったらしい。

 

「本当は昨日の夜から来るつもりだったんだけど、今日1日、理事長業務のお休み申請したら、石塚に夜中まで働かされて」

「普段から働け」

「王様と違って俺はちゃんとやってるって。でも、さすがに年末進行中だから」

「無理しなくても良か・・・」

「俺が!無理したかったんだから文句言わない!」

 

ぷぅっ、と頬を膨らます和希の仕草は、丸っきり子どものそれ。

どの辺が大人なのやら、と思いながら中嶋は彼の頭をポンと叩いた。

 

「文句は言ってない」

「屁理屈言うな」

「それは普段のお前だろ」

「むー可愛くないー」

「俺に可愛さを求めるな」

「や、普段は可愛いし」

「――――― あのな」

「英明は可愛いよ?」

 

俺の前でだけね。

そう言って笑う和希のほうこそ可愛かったりするのだが、理事長センセイは自分には無頓着。


くすくす笑いながら、中嶋の頬にまたキスをして満足そうに頷く。

 

「ほら、そういうとこが可愛い」

「どこだ」

「子ども扱いされてるのが不満〜って顔。ものすごく可愛い」

「・・・・・・悪趣味」

「え?」

「わざと子ども扱いしてるだろう、お前」

「バレた?」

「当たり前だ」

 

やけに最近頻繁だと思ったら、そういうことか。

本当にこの男は、普通の枠に当てはまらない。


他の誰も、怒らせたくて中嶋を子ども扱いする者はいないだろう。

 

「じゃあ、正解の英明くんにプレゼント」

「・・・・・なんだ、これは」

「もちろんバースデーケーキ」

「何の嫌がらせだ」

 

甘いものは嫌いだと知っているだろう?と吐きすてるように言った中嶋とは裏腹に、和希は満面の笑みで箱をあける。


朝7時から襲撃してきた和希が持参した大きな箱は、どうやらケーキが入っていたらしい。

ようやく謎がとけたものの、嫌いなものを見せられても嬉しいわけもなく、辺りに漂う甘い香りに一層眉をひそめる。

 

「甘いもの嫌いは、ちゃんと考慮してショコラケーキだから」

「匂いが甘い」

「えー?でもビターだよ?」

「甘ったるい」

「我儘だなー・・・あ、そうだ。これならどう?」

 

おもむろにフォークを手にした和希は、ひとかけら切り取ったケーキを乗せ、中嶋の口元に運ぶ。

 

「あーん」

「・・・・・っ」

「強情だなー口開けないなんて」

「(開けたら最後だろう!?)」

「あ、じゃあこういうのはどう?」

「?」

「今日は1日、啓太なしでデートしてあげる」

「な!?」

「はい」

「う・・・・・」

 

思わず口を開けた途端、むせるような香りと共に甘い欠片が押し込められる。

馬鹿正直な自分に、呆れるほかない。

 

「中嶋さん。俺、そんなに普段、啓太連れて歩いてますか」

 

自分でも思うところがあったのか、和希は普段のように敬語に戻ってしまう。

それを残念に思いながら、中嶋は首を横に振った。

 

「・・・・・・・いや」

「で?本当は?」

「俺に言わせる気か」

「――――― ごめん、ね」

 

ちょっとだけ情けない顔。

そんな表情を見たことがなくて、思わずマジマジと見つめれば和希は頬を赤く染めた。

 

「・・・・・・今日はちゃんと、英明だけ、だよ?」

「啓太に呼び出されたら?」

「今日は無理って断る」

 

今日は、か。

それも和希らしいなと、苦笑を浮かべた中嶋は別のフォークを手にしてケーキをカットする。

 

「食え」

「え」

「俺1人で食えるわけがないだろう」

「誕生日ケーキだよ?」

「俺のものはお前のものだろう?」

「っ、どんな理屈だよ・・・・」

 

笑いを堪えながら、それでも開いた和希の口にケーキを運ぶ。


たまには、こんな穏やかな誕生日があってもいい。

誰かに騒がれるのでもなく、大切な恋人と2人きりで過ごす時間。

 

誕生日が特別だなんて思えた、生まれて初めての感情。

それを、少しくすぐったく思いながら、中嶋は微かに笑った。

 

 

 

 

Hideaki Happy Birthday! & Second annibersary novel 「2人きりのHAPPY DAYS」

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