以前書いた「ハロウィン★パニック」と、2007年6月3日の
和希オンリー後に開催した和希誕生日会が元ネタです。
誕生日会レポに目を通すと、より分かりやすいかと(笑)。

ちなみに学年とか時期とか気にしちゃダメです。
ヒデ卒業してね?とか話が繋がらないから(笑)。

 

 

 

 



「・・・・・なんです、これ・・・」

 

小さく呟いて固まった和希を、中嶋は一瞬不思議そうな顔で眺めた。


いや、そんな顔されても。

どちらかと言えば俺が貴方に聞きたいから!


そんな和希の心の声は、きっと彼には届かなかったに違いない。

 

 

 

 

バースディー☆パニック #1


 

 

 

 

「遠藤。今度の土曜日は空いているか?」

 

学生会業務を手伝っている和希に、作業の手を止めず訊ねて来たのは彼の恋人である中嶋英明。

泣く子も黙る、学生会副会長だ。


鬼畜帝王。怜悧冷徹。極悪非道。人間失格。

およそ高校生に向ける言葉ではないというような表現をされる中嶋だが、恋人の和希にだけは態度が違った。


ただ、2人ともそれを自覚していなかったので、周りはいつもその甘いオーラに当てられることが多い。

今日も、和希と共に手伝っていた啓太と珍しく仕事をしていた丹羽が、一瞬顔を見合わせてため息をついたぐらいには甘い空気が流れていた。

 

「土曜日ですか?空いてない、って言ったら?」

「即座にお前と約束している奴の元に行って話しをつけてやる」

「・・・・・・馬鹿ですね、貴方は。もちろん空いているに決まっているでしょう?」

 

俺が、貴方以外の人と誕生日を過ごすとでも?

そう言って笑った和希に、中嶋は満足げな笑みを浮かべて立ち上がった。

 

「まぁ、許すわけもないが」

「だから空けてるって言ってるじゃないですか」

「それなら、銀座に17時に来い」

「銀座、ですか?」

 

おいおいおいおいおい、エロい顔で笑いながら遠藤の頭触んなよ、ヒデ!

丹羽の心の叫びは、恐らく隣の啓太と同じものだっただろう。


啓太が顔を赤らめているのに対し、丹羽が浮かべたのは呆れの色が強い表情だったけれど。

 

「そうだ、銀座だ。何か問題でも?」

「いえ、横浜じゃないんだと思っただけで」

「何だ。俺の地元のほうが良かったのか?」

「別にそういうわけじゃないですけど。あんまり中嶋さんと銀座って、しっくり来ないなぁって」

 

同じ夜の街でも横浜とか赤坂とか、そういったイメージかな。

彼以外が言ったのなら即座に蹴りを入れられそうな事を呟きながら、和希は首を傾げる。


微妙な遊び方の印象を持っている事を匂わされ、一瞬眉を顰めた中嶋だったがそこは帝王。

すぐに態勢を立て直し、和希のあごを指先で掬って顔を上げさせた。

 

「中嶋さん?」

「いい店を見つけたから銀座にしただけだ」

「へぇ・・・貴方がそういう風に言うなんて珍しい」

「きっとお前も気に入ると思うぞ」

 

ふっ、と柔らかな笑みを浮かべた中嶋は、顔を上げさせた和希の頬にキスを落とす。

和希は擽ったそうな表情でその口唇を受け止め、幸せそうに笑った。

 

「・・・・・王様。俺たち、此処に居ちゃいけないですかね?」

「仕事してるのが馬鹿らしくなるよな」

「なんて言うか、ホントに中嶋さんって和希にメロメロなんですねぇ」

「ヒデをあそこまで変えた遠藤を尊敬するよ、俺は」

 

ため息をつきながら親友に聞こえないよう小さく呟いた丹羽は、静かに啓太を促して立ち上がる。

 

「王様?」

「このままこいつらと一緒に居たら、おかしくなっちまう。会計室に避難しようぜ」

「あ、じゃあついでにこの書類持って行きましょう!」

「・・・・・お前、すっかり生徒会役員だよなぁ」

「王様がちゃんと仕事してくれれば、俺がここまでやることもないんですけどね?」

「うへ、やぶ蛇」

 

こっそり生徒会室を後にする2人を、中嶋が咎めなかったのは和希との時間を取ったからか。

脱出に成功した丹羽と啓太は、そのまま会計室に足を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・いい店、ですか?あの鬼畜な方が言う【いい店】のカテゴリーなんて大分怪しいですけどね」

 

会計室に着くなり、愚痴を言い出した丹羽の話を受けた七条の感想は、そんな辛辣なもの。

 

「臣。すぐそう疑うな」

「だって郁」

「臣」

 

嗜めるような声は、会計室の主である西園寺のものだ。

中嶋と犬猿の仲であるが故に厳しい視点でしか物を言わない七条に唯一、口を挟める人物だろう。

 

「ま、まぁまぁ、郁ちゃん。そう怒るなって。俺だって似たようなこと思ったし」

「郁ちゃんと呼ぶな!」

「おや、会長もですか?」

「あぁ。だってヒデだぜ?どんな店に遠藤のこと引きずり込む気かと」

 

抗議を受け流し、七条の話に乗った丹羽の姿に西園寺は盛大なため息をつく。

最もそれは本人の耳に届くことはなく、丹羽と共に会計部を訪れた啓太だけしか聞いていなかったが。

 

「西園寺さんも大変ですね」

「そう思うのなら、啓太。そこの馬鹿を連れて帰れ」

「俺に中嶋さんと戦えって言うんですか?西園寺さん。いま戻ったら確実に睨まれるじゃないですか」

「・・・・・・アイツらは、まったく・・・そんな事をしている暇があるのなら仕事をしろ!」

 

それは学生会副会長に言っているのか。それとも理事長に言っているのか。

どちらにせよ、2人とも聞きそうにないな。


そんな風に思いながら苦笑を零す啓太に向かって、七条が満面の笑みを浮かべた。

 

「そうだ。あの人がどんな顔で理事長の誕生日を祝うのか、見たくないですか?伊藤くん」

「・・・・・・は?七条さん、なに言って・・・」

「何かいい手があるのかよ?七条」

「はい」

 

丹羽の言葉に、にっこり笑って頷いた七条はパソコンを指し示す。

 

「どうせあの人のことですから、ネットで予約しているでしょう?」

「・・・・・臣。まさかハッキングで調べるつもりか?」

「人聞きの悪いことを言わないで下さい、郁。僕は理事長を心配しているんですよ」

「そうだな、俺も遠藤が心配だ」

「お前らは楽しんでいるだけだろう!臣、丹羽!」

 

西園寺の尖った声など物ともせず、2人は楽しげにパソコンに向かう。


頭のいい人たちは、やっぱりどこか弾けすぎてるよ。

顔を少し引きつらせて、啓太はそんな事を思いながら丹羽と七条の背を見つめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました、中嶋さん!」

「いや、時間通りだろう?」

 

パタン、と持っていた本を閉じた中嶋は、駆け寄る和希に穏やかな視線を向けた。


和希の誕生日当日。

理事長業務もある彼の都合を考えて、約束どおり銀座で待ち合わせした2人は中嶋が待ちぼうけを食らうこともなく無事に顔を合わせた。

 

和希の前限定で見せる中嶋の柔らかな表情に周囲の視線が一気に集まったが、彼は気にすることもなく先に立って歩きだす。

 

「すぐ近くだ」

「良く行かれるんですか?」

「いや、初めてだ。たまたまネットで見つけてな」

「へぇ」

 

どちらかと言えば、お気に入りの店に連れて行くようなタイプ。

行った事もない店につき合わせるような人ではないのに珍しい。


よっぽど心魅かれるものがあったんだろうか、何て思いながら和希は前を行く中嶋の後ろをついて行った。

 

駅に程近いことも売りになっているのか、歩みを止めて中嶋がビルに足を踏み入れたのは直ぐのこと。

 

「ここだ」

「何階ですか?」

 

答えもせずエレベーターに乗り込んだ中嶋は、ある階のボタンを押す。

その階数と、上にある店舗表示を見合わせた和希は一瞬、顔を引きつらせて動きを止めた。

 

和希の戸惑いなど物ともせず、エレベーターは軽い浮遊感を感じさせた後、ポンという音と共に止まる。


左右に開いた箱の外は暗く、深緑と黒を基調にした布地をあしらった空間が存在していた。

 

「いらっしゃいませ!迷宮の国へようこそ!」

 

似たようなセリフ、俺も言ったことあるな。

頭の片隅でそんな事を思いながら、和希はAlice's Adventures in Wonderland――不思議の国のアリス、のヒロインに扮してにこやかに出迎えてくれた女性に硬い笑みを返した。

 

 

 

 

Kazuki Happy Birthday! 「バースディー☆パニック #1」

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