中嶋が変わった。 そんな、まことしやかな噂が芸能界には流れていた。
鋭い視線で人を一瞥し、その笑いさえも冷ややかさを湛え、周りから遠巻きにされる男。 それが芸能界・抱かれたい男ナンバー1、中嶋英明だった。 しかし最近そんな彼の表情が柔らかくなったと、もっぱらの噂だ。
そんな噂の真相を知っている者はほとんどいない。 恐らく知っているだろうと思われるのは、2クール放送のため撮影が長期に渡っているドラマ学園ヘヴン≠フ共演者たちだったが、残念ながら口を割る者はいなかった。
ありきたりなロマンス act.3 恋愛天国 -ラブパラダイス- 番外編
「中嶋さ〜ん」 「・・・・・遠藤か。どうした?」
後ろから掛けられた声は、ドラマで共演中の遠藤和希のもの。 過保護な彼の幼馴染と大いに揉めはしたが、今は俺が唯一傍にいる事を許している恋人だ。
「今、時間空いてますか?」 「空いているが・・・あぁ、古典か」
腕に抱えたテキストは、恐らく高校の課題か何かなんだろう。 そういえば俺にもこんな時間があったな…などと思いながら微かに笑えば、自分が笑われたと勘違いしたのか遠藤は少しバツの悪そうな表情で口を開く。
「・・・・・・だって、次のテストで平均点以上とったらPS3買ってくれるって、哲が」 「ゲーム機なんか自分で幾らでも買えるだろう?売れっ子アイドル」 「ミリオン連発の人にそんなこと言われたくないし。大体、中嶋さん分かってない!」 「なにが」 「そういうのは人が買ってくれるっていう、その好意が嬉しいんです!」
キッパリと言い切るその姿に思わず『なら俺が買ってやる』と言いそうになったが、すんでの所で耐えた。
遠藤が丹羽に幼馴染以上の感情を持っていない事なんて知っている。 だからといって、アイツに必要以上に頼るのが許せるかといえば・・・答えは否、だ。
丹羽は、遠藤にとって特別な存在。 それはどうあっても変わらない事実だが、2人が笑い合っているのを見るだけで気分が悪い。
柄にも無く遠藤に本気でのめり込んでいると思うのは、そんな瞬間。
「・・・・・・何処が分からないんだ?」 「教えてくれる?」 「ああ」 「じゃ、ここ!」
拗ねたような表情から破顔するような笑みに変わった遠藤に、少しだけ俺の気分も上昇する。
そうやって、ずっと俺の前でだけ笑っていればいい。 俺以外が知っている必要なんてない。 笑った遠藤が、どれだけ子供のように無防備な表情を浮かべるかなんて。
俺以外に、簡単に見せるな。
「中嶋さん?」 「・・・・何でもない」 「変なの。なに?今日は甘えたい気分とか?」
抱きよせた身体を腕の中に閉じ込め、首筋に顔を埋めれば遠藤は楽しげに笑う。 此処に居もしない、お前の幼馴染に妬いたなど言えるはずもなく、俺は誤魔化すように呆れた声をあげた。
「言ってろ、馬鹿」 「あ〜!馬鹿って言うほうが馬鹿なんだぞ!」
きいっ、と喚く遠藤は気付きもしないんだろう。 俺がお前の大事な幼馴染に嫉妬しているなんて。
だが、それでいい。 子供のまま、変わらない遠藤が好きだから。
「も〜抱きかかえて人のこと馬鹿にしてる暇あったら早く教えて下さいってば!」 「分かった分かった」 「返事は1回!」 「・・・・・小姑かなんかか?お前は」 「中嶋さんが悪いんでしょう〜!?」
面倒極まりないことを進んで望むようになった自分の変化に笑うしかない。 でもそれは、心地良い感覚だった。
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