恋愛天国 #4
この痛いほどの静寂はなんだ? かつてないほど居心地の悪さを感じながら、和希は隣りに座る幼馴染の顔をそっと見上げた。
そこにあるのは、いつもと同じ頼れるお兄さんの表情。 でも、和希は知っている。 哲也が、本当に猫が苦手である事を。
ドラマの丹羽哲也≠ニ違って、幼少の頃にトラウマになるような出来事があったわけではない。 ただ、苦手なだけだ・・・小さくて潰してしまいそうな生き物が。
それはきっと、哲也の優しさが一因でもあるのだろう。 捨てられた子猫を見てそっと目を逸してしまったり、構うだけの残酷さを持てなかったり。 表に出さない哲也の優しさを知る人は少なくて、苦手な猫の話を知る人も僅かだ。
それは説明に戸惑う哲也の怠慢でもあったのだが、今さら嘆いても遅い。
「丹羽さん?」 「あ〜・・・」 「どうやら王様&タみに苦手のようですね」 「いや、理由は違うんですけど・・・まあ近寄れるし触れますよ?」 「だが苦手だと」 「・・・・・簡単に言えばそうですね。この辺で勘弁して下さい、藤原さん」
苦笑いを浮かべる哲也の姿に、深く追及するのがためらわれたのだろう。 藤原アナウンサーも手元の資料に目を落し、次の質問に移る。
「では、そうですね・・・苦手繋がりという事で幼馴染の遠藤さん」 「は?お、俺ですか?」 「ドラマの設定では魚をほぐすのが苦手だという事ですが、いかがでしょう?」 「う・・・」
此処はいつからカミングアウトする場になったのだろう。 ドラマの記者会見じゃなかったのか。 違うのか。
和希がぐるぐると回る思考に囚われ言葉に詰まった途端、哲也を挟んだ向こうにいた中嶋がくすりと笑った。 その微かな音に驚くほど反応した和希は、口唇を噛みしめて俯く。
「和希?」 「哲・・・俺、なんでこんな弄られてるの?」
そういえば、さっきも長谷Pに引き合いに出されてたっけ。 うっすら潤んだ瞳を見ながら、哲也は和希の頭をポンと軽く叩いて代わりに口を開いた。
「藤原さ〜ん。俺たちに何か恨みでも〜?」 「いえいえ、私が気になることは皆さんも気になるかと思いまして」 「俺だったら、もっと他に気になることあるけど」 「何でしょう?」 「たとえば〜成瀬がテニスのJr.チャンピオンだったのに、なんで音楽業界に入ったのかとか」
哲也がそう言った瞬間、ざわめく会場を余所に松岡が大声で笑い出す。
「丹羽くんも結構、事情通だね〜。由紀はゲームネイムで試合出てたから、あまり知られてない話なのに」 「そっち方面に知人がいるもんで」 「へえ〜。じゃあ、そんな丹羽くんに教えてあげよう。由紀がテニスより音楽選んだのはさ」 「・・・・って、迅さん!なんで貴方が答えるんです!?」 「いや、由紀は誤魔化すかな〜と思って」 「誤魔化すも何も、あんな理由・・・っ」 「恥ずかしい?」 「当たり前です!」
松岡と成瀬の息もつかせぬ会話に、誰も口を挟めない。 そんな独特の空気を壊したのは、2人のプライベートを知る中嶋だった。
「大方、成瀬の目立ちたがり気質にステージの派手さがマッチしたんだろう?」 「っ、中嶋さん!」 「成瀬が何かのプロモ見て、音楽界に魅かれた・・・って話は聞いた事があるからな。どうせ、本名を明かさずテニスをしていたのだって、その方が目立つからだろう?」 「さすが英明、ご明察。でも知らないだろう?由紀が見たプロモが英明のだって」 「・・・・知らないままの方が良かったが」
軽く口笛を吹いてにっこり笑った松岡に、中嶋は呆れたように肩を竦める。 ひどいよ2人とも〜と嘆く成瀬の声が、和希には遠くから聞こえた気がした。
Copyright(C)Aya - +Nakakazu lovelove promotion committee+
|