:第54回アンケート:

【夏休みの過ごし方】


1位 『サーバー棟に入り浸り・・・』(13票)
2位 夏祭りに花火v(7票)











生徒のほとんどが楽しみにしていたであろう長い夏季休暇が始まり、銘々が実家へ帰省したり、寮に留まったり。
元々それほど生徒数は多くはないが、それでも粗方席の空いた食堂はやけに静かだ。
騒がしい筆頭の丹羽も、土産を楽しみにしていろと言い置いて今年は珍しく実家へと戻った。
どうせすぐにツーリングにでも出るつもりなのだろう。受験生という身分はすっかり他人事のようだ。
斯く言う英明も、2日ほど神奈川の実家に戻りさっさと帰寮してきた。


「――それ…は、帰省って言うんでしょうかね」


前の席で和希がくすくすと笑っている。


「お前に言われたくはないな」


和希は和希で本来の業務に戻り、仕事三昧の日々のようだ。
朝からサーバー棟に籠り切りだが、今までのように放課からの仕事ではない分退社は早いようで、夕飯は真っ当な時刻に寮で摂っている。


「…一応これでも社会人ですから」


人の少ない寮の食堂といえども、和希はちょっと周囲を憚って、声を潜めた。


「夏休みくらいお前のところにもあるだろう」
「え?ああ、えっと、はい。今年は――11日から…9日間ですね」


訊いたつもりはないが、和希は携帯を取り出して確認する。


「お前は何日休みが取れるんだ」
「……せいぜい2、3日でしょうね、それに休みがあってもまず寝ているだけだと思います」
「なら、」
「はい?」
「そのうち2日を俺に寄越せ」
「えっ…?」
「空けておけと言っている」
「………」


いつものことながら吐き捨てるような居丈高な命に、和希は首を傾げて、


「…何かあるんですか?」
「特には何も」
「……はぁ、まぁじゃあ、楽しみにしておきますね」


得たり顔で和希が微笑むのに気づかないふりをして、仏頂面の男は夕飯の続きに取り掛かった。












「おぉ…っ」と和希が些か可愛くない歓声を上げた。
この男に無論可愛らしさなど求める気は更々ないが。


「今の!大きかったですね!…って中嶋さん、ちゃんと見てます?ビールばっか飲んでないで!」


がなる傍からそれをかき消す大音量と共に、夜空に艶やかな大輪の花。ぱらぱらと余韻を残して、和希の白い横顔を色とりどりに輝かせる。
腹に響き渡る振動が窓ガラスをも揺らす距離だけれど、煩わしいギャラリーは他に誰も居ない。

予定通り、一泊二日で和希の貴重な時間を強引に奪っての夏休み。
海辺のホテルは、海上花火が客室から一望できると聞いて、何処へ行くとも知らされずに些か不機嫌だった和希は俄かに喜色を表した。
いい歳をして単純な――もしかしたら英明の手前喜んで見せただけだとしても。


「綺麗ですねーホントに。中嶋さん!全然見てないでしょう、勿体ない」
「…見ている」
「嘘ばっかり」


窓を開け放って、空が近い。
次の花火が上がるまでの間も、和希は眼前に広がる夜空から眼を離さない。手すりから身を乗り出す勢いで、食い入るように待っている。


「――ちゃんと見ている」
「何を見てるって…」


ちらりとこちらを振り返って和希は、英明の思惑と視線にようやく気づいて戸惑いつつ赤面する。


「遠藤」


浴衣の腿を軽く叩いて和希を促した。こちらへ来いとの無言の命に、躊躇いながらも素直に従う辺りが歳上らしくない。
おずおずと近づいてきたところを、待ちきれずに掴まえて膝の上に座らせた。
その不安定さに和希が身じろぎすると、独り用の籐椅子が軋んでしなる。


花火の音が次第に遠ざかって、いつの間にか聞こえなくなった。






−了−




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