:第53回アンケート: 【初デート!と言えばどこ行く?】 1位 とりあえずは定番で映画でも (15票) 2位 夏祭りv(12票) 投票、また、コメントありがとうございました〜 |
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「――そうだ中嶋さん、映画のペアチケットを啓太にもらったんですが…、要りませんか?」 「…伊藤?」 「はい。…何か?」 「いや…お前と伊藤とで行けばいいだけのことじゃないのか」 至極尤もな答えで、英明は和希の誘いをやんわりと拒んだ。 そもそもふたりで出掛けるという提案をはっきりと持ちかけたわけではない。 英明の受け取り方次第だろうし、その英明が和希を誘うというのはあまり想像できない事態でもある。 「そうなんですけど、啓太はこの手のモノがあまり好きじゃないらしくて」 「ふん」 「…? どこかでもらったそうなんです。啓太は運がいいので。――それで、無駄にするのも何なので、と」 「お前は誰かと行かないのか。まさか伊藤以外に友人がいないのか」 「はは、まぁなかなか時間も合いませんからね」 英明の渋い表情に、話を切り出したことをちょっとだけ後悔した。 こんな結果になることは、ある程度予測できたのに。 「――中嶋さんなら有効に利用してくれるのではないかと考えただけのことで、他意はありませんから」 話を切り上げるのが得策だ――と、学生会室を去ろうとした。 仕事終わりのタイミングで声を掛けてよかった。英明に限って、気まずくなるということもないだろうが。 「――待て遠藤」 「は…、はい?」 ドアノブに手を掛けたまま振り返った。 英明の眼はまだPCに向かっており、引き留めるほどの用件があるとはあまり思えない。 「あの、何か…」 「何日か前――丹羽が俺に映画情報誌を押し付けて、赤丸を付けた中から観たいものを選べと言ってきた」 「………」 「どれも興味がないと言うと、じゃあ適当に選べとぬかした」 「えーとそれってもしかして…」 「お前の考えている通りだ」 「はぁ…」 こうなると単なる偶然では済まされないんだろう、啓太と王様は仲がいい…というか意気投合しているというか懐柔されているというか。 「そういえば…少し前ですが、俺も啓太から妙な質問を受けました」 少しずつ点が繋がってくる。隠されたものが見えてくる。 「中嶋さんと何処か出掛けたのかって」 ◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆ 「和希って、いつも中嶋さんとどんなところでデートするんだ?」 「え?どこって…行かないよデートなんて」 「えー?どうしてだ?付き合ってるんだろ?中嶋さんと」 「付き合ってるっていうか、うーん、どうなんだろ」 「なんだよそれ、ヘンなの」 「変か…そうかな」 かりこりと頬を掻く和希を、啓太が不満そうに見ていた。 ◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇ 「――伊藤くらいの歳だと、付き合いイコール何処かへ出掛けるという固定観念なんだろう」 「あぁ…って、中嶋さんとふたつしか違いませんよ啓太は」 そうは言いつつも、この人は啓太の倍くらい人生を生きているような風貌ではある。 付き合っているという概念もそもそも怪しい関係性で、それをお互いに口にしたこともない。 英明にはおそらく初めから、そんなつもりはないと言いそうだし、和希は和希で表沙汰になればまずいという頭がある。 かといって打算的に一緒に居るわけでもない。 …少なくとも和希はそうだ。英明に関しては…そうだといいという希望も込みで。 「あの…啓太は案じてくれただけだと思うので、怒らないでやってくださいね」 「見当違いな気の揉み方だったがな」 英明の口元に珍しい笑みがこぼれるのを見て、ちょっとホッとした。 「――じゃあ俺はこれで」 「…結局どうするつもりだ?」 「あ、誰かに当たってみます。うちの職員にでも」 無難な答えのように思われたが、英明は仕事の手を止め音も立てずに立ち上がると、 「お前も大概だな」 「は…え?何が、でしょうか」 それに対する返答はなく、代わりに英明がゆったりとした足取りでドア近くまでやって来る。 扉に張り付いてきょとんとする和希の顔を覗き込むような仕種で、 「次の休みは時間を空けておけ。せっかくの伊藤の厚意だ。無駄にすることもないだろう」 「え?」 「――お前さえよければ…の話だが」 「だっ…て中嶋さん、映画なんて観るんですか?時間の無駄だとか言いそうな――」 ポロリと本音。しまった――と己の失言を悔いたときには、英明の眉間に深々と皺が浮かんでいた。 「お前…言うに事欠いてそれか?」 「え…っと、すみませんつい」 「もう少し可愛げがあってもよさそうなものだが」 「可愛げって」 「あぁそうだったな、年寄りのお前にそんなものを求めた俺が愚かだった」 くくっと愉快そうに――何が愉しいのか知らないが――すんなりと綺麗な指先が、和希の顎を掬い上げた。 「可愛げの無い年寄りですみませんね」 「全くだ。せっかくの初デート楽しみですねくらい言ってみたらどうなんだ?ん?」 「ちょ…っ、中嶋さん!セクハラ親父ですかっ」 逃げ場がないのをいいことに、扉と体躯の厚みとで和希を拘束して、強引な角度で口唇を奪う。 それどころか、頬やら耳元やらあらゆる場所を舌先で弄んでくる。 身を捩ってみたところで、また新たなスペースを提供するだけだ。 「――んん…んッ」 和希が抗ったりするこんな状況が、英明にとっては堪らなく美味しいらしく、悪乗りを許しているうちに大事なひと言を聞き逃すところだった。 初めてふたりで出掛けるってちゃんと認識していたんだ。意外なことに。 …嬉しいと思うのはおかしいかもしれない。でもちょっと顔が緩みそうになる。 デート、なんて単語が当てはまる関係だって保証してもらえたと…理解してもいいんだろうか。 「――どうせお前のことだから、伊藤に報告するんだろう?何処へ行って、何を食べただとか逐一」 「そ…うですね、中嶋さんさえ、よけ…れば…」 「だったら、映画なんて定番コースだけでは面白くない」 「はい?」 「伊藤の期待に応えるためにも、もっと興味深い追加コースを用意しておいてやろう」 「………」 わ、悪い顔…と思わず素に戻るくらい、英明はいけしゃあしゃあとのたまって、同意でも求めるかのように呆然とする和希にキスを仕掛ける。 頭の中はもうそれどころじゃない。 どうやってこの差し迫ったふたつの危機を回避するか――そればかりだ。 −了− 【アンケ御礼】2012 monjirou |