:第50回アンケート:

【鬼畜じゃない中嶋さんは】


1位 何か…企んでますよね? (15票)
2位 たまにはいいかも (12票)


投票ありがとうございました〜















「なぁ啓太――」
「んっ?」
「俺、最近やけに中嶋さんと眼が合う気がするんだよな」
「……え?」


いきなり声を潜めて切り出すから、何事かと思った。
別に小声になんかしなくたってここは和希の部屋なんだから、他に誰も聞き耳なんか立ててないんだけど。


「そ、そうなんだ…?」
「ん〜気のせいかなぁやっぱり」


いつものように頬を掻く和希の表情は、その理由、に全くちっともこれっぽっちも思い当たらないといった風。
それは当然のようにも思えるし、いやそれはさすがにニブすぎるだろとも思う。

啓太が学園に編入してきてから結構な時間が過ぎた。
ジャケットから半袖の制服に替わって、周囲の話題は夏の長期休暇のことがほとんど、今はそんな時節。
それくらいの時間、和希とはずっと一緒に過ごし、それと同じくらいの時間を学生会の手伝いに費やしてきた。
つまり…、ぶっちゃけた話をすれば、和希が人並み以上にニブイ理由や、それはさておくとしても相手が相手だしねって言い切る確固たる理由も、啓太は持ち合わせている――

…わけだ。


「えーと、和希?なんで急にそんなこと思った…んだ?」


気のせいじゃないよ。も、今頃気づいたんだね、和希。も、今はどちらも禁句のような気がする。


「なんでって言うか…なんとなく、かな。学生会室で仕事を手伝ってるだろ?そのときに視線を感じて顔を上げると、必ず中嶋さんがこっちを見てる…様な気がしてたんだけど。 うーん、やっぱり気のせいだよな。ごめんな啓太、妙なこと言い出して。忘れてくれよ」
「あー…うん…」


こういう場合、裏事情を知る啓太は中嶋さんを後押しするべきなのか、黙っているべきなのか悩みどころだ。
大事な親友の身を案じるなら沈黙を守って然るべきだが、万が一にも中嶋さんに事の次第がバレたりすると、今度は啓太自身の身が危険に晒される。
保身なら前者だろうが…。


「えーとえーと和希、中嶋さんってさ、ほら、あんな人だけど、格好いいし成績もいいし運動神経も抜群だし、それから…非の付けどころがないっていうか…ちょっと性格に問題があるけど」
「啓太?それを言うなら非の打ちどころがない、だろ?ていうか急にどうしたんだ?」
「あ?あ、そうだよね、そうそう…、とにかく中嶋さんは王様と同じくらい完璧だなってことだってば和希!」
「完璧か…表面的にはそう言えなくもないけどな。あのキャラクターはどうも個性的すぎるし、学生会の運営に関しても強引な手段が目に余るようなところもあるだろ?」


ダメだ…全然伝わってない…
啓太の遠回しな中嶋英明売り込み作戦はどうやら徒労に終わりそうだ。
そもそも、正攻法である鬼畜さを封印しての和希へのアプローチなんて、転入してきてからこっち、数々の所業を眼にしてきた啓太としては耳を疑う話でしかなかった。
中嶋さん、変なキノコでも食べたんですか?って訊いてもいいレベルだった。もちろん賢明に口を噤んだけれど。
中嶋さんに進言すべきなのかもしれない。和希は想像以上にニブイみたいですって。違う方面から崩すべきですよって。


「なぁ和希」
「ん?」
「…中嶋さん――のこと、他にはどう思ってるんだ?」
「他って?」
「えー、ほらその…」


いくら和希がニブイからと言って、さすがに恋愛感情とか?なんてストレートに訊くわけにもいかない。


「中嶋さんがいつもと違うとか…なんか変だなとかあるだろ」
「そう言われて答えられるほど、普段の中嶋さんを知らないからな」
「あ、そ…なんだ…」


冷静過ぎるにもほどがあるだろ。もうちょっと想像力を働かせてみたりしてよ!
――と、啓太の心中では大騒ぎだったけれど、やはりそれを口にはできない。


「なんだ啓太、もしかして…」
「え?何?」
「中嶋さんのことが気になるとかなのか?」
「………え、えっ?えっ?誰がッ」
「諸手を挙げて賛成はできないけどさ、啓太がそれでいいんなら俺は応援す…」
「違う!違う違うって和希!ヘンな早とちりしないでよ」


想像力を明後日の方向に働かせないで欲しい…頼むから。


「そ、そうなのか?…ゴメン」
「うん。そうじゃなくてさ、中嶋さん――実は好きっていうか、…気になる人がいるらしくて、その相手の人にいつもと違う…強引な手に出ないで行こうとしてるらしいんだ」
「え?それ本気か?」
「うん、そうみたいなんだ」


ここまでニブイ和希になら、ギリギリのところまで話したとしてもきっと、まさかその相手が自分のことだとは思わないに違いない。そう踏んで、腹を括った。


「へぇ〜あの中嶋さんが…」
「それでさ、そんな中嶋さんってどうなんだろって、えーと客観的?な意見を和希に訊こうと思ったんだよ」
「なるほどな。でも…どうして啓太がそんなことを?」
「そ、れは…うん、興味があってさ。あの中嶋さんだし」
「ふぅん?」


腑に落ちない表情を浮かべながらも、それ以上突っ込まないでいてくれる。優しいからか鷹揚なだけなのかは深く考えないでいよう…。


「それで?中嶋さんは具体的にどんな風に、その相手に接しているんだ?」
「それは、あ、和希が自分で見てみてよ。先入観ってよくないだろ?和希がちょっと意識して、中嶋さんのこと見てくれたら――いいんだけど?」


意識して、のところに若干力を込めてみたが、おそらく伝わってはいないだろう。





翌々日の放課後、学生会室はいつものように王様の不在でイラつく中嶋さんと、手伝いがふたり。
余計なことを吹き込んだものだから、隣の席で和希はちらりちらりと中嶋さんに視線を遣り、その度毎に 「特に変わらない」だの「いつもと同じに見える」だの小声で報告を寄越してくる。
それでなくても切れ味鋭く勘の鋭い中嶋さんだから、いつ感付かれるかとこっちは冷や冷やものだ。


「――伊藤」
「ひゃ、ひゃいっ!」


ついに来た――と思った。副会長が自分の席から啓太を呼んでいる。
素知らぬフリで呼ばれて行くと、会計部への使いを言い渡された。
なんだぁ…と気が抜けて、いそいそと学生会室を出る。
ドアを開ける寸前、ちらっと和希の様子を窺うが何の変化もない。


その後の学生会室での出来事に関しては、和希に訊いても口ごもるばかりで何も教えてはもらえずじまいだった。
挙動不審な態度は、あの後絶対何かあったせいだと踏んでいるのだけれど、和希ってばあれで結構秘密主義だからな。
今度じーっくりと問い詰めてみよう。










「――遠藤」


啓太が出て行ってしばらくすると、仕事の手を止めた英明が話のついでのように和希に声を掛けてきた。


「はい…?」
「お前、伊藤に何か吹き込まれたのか」
「……何かとは?」
「お前はが意外に嘘が下手だな。それだけわかりやすい態度で」
「そう言われましても…」
「それだ」
「え?」
「お前は都合が悪くなると、必ず頬を掻く癖がある」
「そ…うですか?そうかなぁ、っていうか、中嶋さんそんなのよくご存知ですね」
「――ふっ」
「ふ?」
「お前は人並み外れて鈍感なようだから、やはり直接的な手段に出る方がよさそうだ」
「はぁ…一体何のお話ですか?」
「…これは、あくまでも第三者の事例だが」
「は?はい…」


啓太が言うところの『好きな人に対していつもと違う態度の中嶋さん』の話はどうも眉唾臭い――と、実は密かに思っていた。
相手が誰であろうと決して揺るがないのが中嶋英明だろう。
言い切れるほどその人物を知らないと啓太に告げたのも事実だが、その点に置いてはほぼ間違いないと確信している。


「超が付くほど鈍い相手に、遠回しに何か伝えようとしたものの、どうやら努力は報われない。しかし強引な手に出たところで、伝わるかと言えばそれも怪しい。 何しろ相手は、超が3つは付く鈍さだからな」
「はぁ」
「その場合、お前はどういう手段を取るべきだと思う?」
「それは中嶋さんの…あ、失礼、第三者の話でしたね。その方の性格と、日頃の行い次第だと思いますけど」
「どういう意味だ」
「つまり…」


何を真面目に講釈しているんだろうと、いささか戸惑い首を捻った。
英明の言動が理解できない――のはいつものことだが、何か裏でもあるのかと勘繰るのがここはやはり妥当なところだろう。


「えーと、その方が普段どういった対応を相手の方にされているのかわかりかねますが、一般的な行動を取っていることを前提として、 あまりにもらしくない態度を取れば、変化に気づいてもらう以前に不信感を与えるかもしれないということです」
「………」
「よくない印象を抱かれていれば尚更ですね」
「…ふん、模範解答過ぎて面白みがないな」
「図星だからって俺に当たらないで下さいよ」
「…第三者の話だと断った筈だが。――そこまで理解っていながら、どうしてそこから先に意識がいかないのか謎だな」
「さっきから失礼ですね、中嶋さん。遠回しに嫌味を言うなんて貴方らしくもない」
「ああ、全く俺らしくない。挙句にお前にこき下ろされて傷ついた。責任を取れと言いたいところだ」


胡散臭い発言も、ここまで来ると面白がっているとしか思えないのが、理事長の立場としては面白くない。


「さて…無駄話をしている場合でもない。さっさとケリをつけるとするか」
「自分から振ったくせに…」
「何か言ったか」
「いいえ?なんにも?」
「ならいい。もうわかっていると思うが簡潔に言う。遠藤、俺と付き合え」
「…………はっ?」


ぽかんと固まって相手の顔を見返した。英明はいつの間にか和希のすぐ傍までやって来ている。


「付き合え…って何処へでしょうか」
「…そう来たか。天然で済ますには歳を取り過ぎているな…気を削ぐ作戦ならまだ納得ができるものを」


独り言にしてはわざとらしさが漂う。大体、さっきから放言が過ぎやしないか?


「さっさと結論を出せ。俺がこれだけ折れてやっているんだ。事と次第によっては雪が降ってもおかしくない」
「あの、中嶋さん…?」
「ああ、なんだ」
「――絶対何か…企んでますよね?」


思わず叫んだひと言で、直後、事態は急展開する。
だが決して啓太に伝えるようなことは何もない。一切ない。断じてない。
間違っても…いや、口が裂けても言うわけにはいかない。






−了−






【アンケ御礼】2012 monjirou
+Nakakazu lovelove promotion committee+


inserted by FC2 system