:第37回アンケート:

【年末年始のイベント、これは外せない!】


1位 「姫始め …え?えぇと 」 (6票)
2位 「雪合戦…理事長杯なんてなかなか 」 (4票)


投票、また、コメントありがとうございました〜
















年末から日本列島を覆った寒波が、学園島にも珍しく白いものを舞わせた。
冬休み中でよかったと関係者が溜息をつくほどに雪は法外に降り続き、この辺りにしてはかなりの積雪を見た。
そうなると黙ってはいられないのが、自称『童心を忘れていない』いい歳をした地位も収入もある大人で、


「雪合戦しましょう!ほら、ちょうどすぐ連休ですし」


と、到底信じ難い発言をかました。


「このクソ寒い中、ご苦労なことだな」
「あ、中嶋さんは受験生ですので参加はご自由ですよ」


…なに?


和希はすでにこの時点で、綿密な計画を企てていたようだ。
丹羽を実行委員長に仕立て上げ、雪合戦理事長杯開幕。
…確か丹羽も受験生だったはずだが?


基本自由参加、くじ引きによるチーム分け、トーナメント方式で優勝チームには、


「――優勝者にはとにかくすごい商品が出ますよ。なにしろ理事長杯ですからね」


自分は決して表に出ないくせによく言う…


「大口をほざくだけで実は何も考えていないんじゃないのか」
「そんなことはありませんよ、ちゃんと考えてあります。気になるなら中嶋さんも参加されますか?」
「…お前はどうする気だ」
「え?俺はもちろん参加しますよ。決まっているじゃありませんか」


当たり前だろう、出なくてどうする!くらいの眼の輝き。
何処の世界に、自らを冠した大会に出る馬鹿がいる…時折本気で信じられない。この男、幾つなんだろうか。
わざわざ公式ルールとやらにのっとり、審判まで呼んで、かなり真剣にふざけている。
雪が足りなければ、他所からダンプででも運び込みそうな。
そのエネルギーは一体何処から来るのだろう…あまり深く考えたくもないが。


大会当日、参加したのは受験組を除くほとんどの生徒で、しかし不参加の者も息抜きと称し会場にギャラリーとして加わっていたため、 本当にごく一部の人間を除き、学園中がグラウンドに集合したことになる。


英明もそのごく一部の人間のひとりで、寮内に留まり、時折風に乗って聞こえてくる歓声に呆れながらお気楽に煙草を吸っていた。
何せ寮には誰も残って居ないわけだから、好き放題に自由を謳歌できる。
それでも何となく気が向き、昼過ぎに会場に足を運んでみた。


どうやら和希のチームは早々に敗退したようで、ギャラリーの輪の中にいたその男は実に目敏く、現れた英明を見つけぶんぶんと両手を掲げて振って寄越した。
そして雪の上を慣れない足取りで、せっせと英明の元までやって来ると、


「中嶋さん!ちょうどよかった。今から決勝戦なんですよ!」


白い雪の地面に陽射しが反射してやたらと眩しい。それと同じくらい和希のテンションも高い。
非日常的な空間で、それこそ童心に返って遊べば、気持ちも高ぶるだろうが、それを差し引いても…


「――おぅヒデー!」


目敏い人間がもうひとり、雪のシェルターが並ぶフィールドからこちらに向かって手を挙げていた。
何故お前がそこにいる…?


「…確か丹羽は実行委員長じゃなかったか」
「えぇとそれはですね、」
「どうせ俺も参加させろと、ごねでもしたんだろう」


見ているだけであの年中お祭男が満足できるわけがない。


「さすが長年の相棒なだけありますね…」


妙なところに感心する和希の声など、もちろん丹羽の耳に届くはずもなく、奴はヤル気満々でウォーミングアップを始めたかと思うといきなり、


「ヒーデー!お前も参加しろよー!」


馬鹿が何か叫んでいる、と冷ややかな英明をよそに、周囲のギャラリーは一斉にどよめき、丹羽の対戦チームメンバーは一様に青ざめた。
学園史に残る伝説の学生会会長、副会長が揃って参戦するとなれば観客が盛り上がるのも道理だ。


「…期待されてるみたいですよ、中嶋さん」


隣で和希がこっそりと、英明だけに届く声で耳打ちする。


「出てもいいですよ?理事長権限で」


金を詰まれても断る――そう思いかけたが不意に思い直した。


「もし俺が勝ったら」
「…はい?」
「理事長杯に相応しいものを寄越せよ」


和希はきょとんと無邪気な顔つきで、僅かに背の高い英明を見上げてくる。


「どうだ?」
「えぇと、それは例えば?」


訊ね返す和希の頬に口唇を近づけ、そっと囁いた。


「理事長杯なら、優勝商品は理事長そのものに決まっている」


答えを待たずにベンチコートを脱ぎ捨てると、フィールドに向かい、正直に嬉しそうに「おっ」という顔を見せる丹羽の脇をすり抜け、相手チームに声を掛けた。
周囲が更にどよめきを増す中、チームメンバーとの話し合いはすぐに決着がつき、 チーム丹羽vs.チーム中嶋という降って湧いたような好カードが実現する運びとなると、雪合戦理事長杯の盛り上がりはピークに達した。
センターラインを挟んで向かい側の丹羽は、俄然ヤル気を増したようで、
試合開始のホイッスルが鳴り響き、馬鹿馬鹿しさの極みの試合会場はいよいよ騒然となった。





試合終了後、フィールド脇は俄かに昼食会場へと模様替えした。
なにしろほとんどの生徒が集合している。急ごしらえのテント周りの行列は、さながら炊き出しの様相。
押し合い圧し合いの人込みの中、今大会の主役のひとりでもある実行委員長が、ひとりの1年生をようやく捜し出したところ。


「――啓太ー!ヒデの野郎見かけなかったか?」
「あー中嶋さんならさっき…」
「何処行った?」
「その…和希を連れて、中へ戻ったみたいです」
「なにィ?」


表彰式どーすんだよっ!という丹羽の叫びも、生徒たちの喧騒も届かない学生寮、3年のフロア、英明の自室、バスルーム…なみなみと湯を張った湯船の中。


「…不満そうだな」
「………」


単身用の狭いバスタブで、和希の背中を覆う様に英明の上体が密着している。
冷え切った肢体に熱めのお湯が沁みるような心地よさだが、和希はさっきからむすぅと口を噤んで一切言葉を発しない。


「そんなに汁粉に未練があったのか?」
「――あれはぜんざいですよ…ってそうじゃなくて!せっかく企画したんですから、最後まで参加したかったに決まってるじゃないですか」


それを、いきなりあんな公衆の面前で引きずられていくなんて…と和希の呟きは続く。


「誰も気にしていない」
「するに決まってますよっ!」


ぶくぶくと、水面に和希の頭が沈んでいく。いくら隠れるところがないとはいえ、無謀な行為だ。


「勝者が商品を奪って何の問題がある」
「………」
「せっかく、お前のために勝ってやったというのに、お褒めの言葉もないのか?理事長殿?」
「――」


顔を半分お湯に沈めたまま、和希はぶはっと思い出し笑い。…器用だな。


「すごかったですよね中嶋さん、王様しか狙ってなかったでしょう。皆もう呆れてぽかーんとしてましたよ」


ありゃほとんどガトリング砲だなとは、ギャラリーの呟き。
その集中砲火を浴びた丹羽の隙を突き、他のメンバーがフラッグを奪取して英明軍が見事な勝利を収めた。


「丹羽以外は雑魚だ。というより、丹羽がチームに居る時点で、皆あの男に頼ろうとするからな」
「なるほど…心理作戦勝ちですか」


そこまで感心するほどのものでもない――が、末端まで温まってくると共に和希の表情も緩み出したようだ。
水音を立て、和希の前髪を背後から掻き上げてやる。上向いた顔を覗き込んで視線を合わせ、


「さて、優勝商品」
「は…え?」


沈みかけの上体を両腕で支え、引き上げついでに拘束しておく。
余計に背中が英明に密着するから、和希は反射的に逃れようともがく。


「言っときますけど、俺まだ了承してませんからね…っ!」
「何をだ」
「だから、俺に優勝商品…になれって」


後ろからぬっと伸びてきて肩先に留まった首の存在感に戸惑いを隠せず、しかし一方で強気な口調を引っ込めない。このアンバランスさ。


「お前の用意したモノは俺には必要なかったんだ。仕方ないだろう」
「そういう問題ですか?じゃあ他の商品を用意しますよ、それでいいですよね?」
「ああ、お前がそう言うのなら」


すんなりと英明が妥協案を受け入れたもので、和希は若干警戒しつつもホッとしたらしく、強張った肩から力が抜けるのが伝わってくる。
ちなみに――優勝商品はノート数冊。
今時、小学校の運動会でもありえなさそうなそれは、まっさらな新品ではなく、ベルリバティ学園各クラスに対応した、教科ごとの完璧な講義ノートだった。


「何か希望は――…って、ちょっ、中嶋さん…っ」


まどろっこしい真似をする気などすでになく、直接湯の中でダイレクトに和希を追い詰め始める。


「…っっ」


油断していたのだろう、両脚に挟まれた和希は逃げ場もなく、英明の膝頭を掴んで背中を奮わせた。


「な…んで…」
「――なんだ?」


外耳のラインに舌を這わせつつ問えば、


「だって他の…って言っ…」
「他の商品の話か」


こくこくと必死に首を振る和希が、何の加減か堪らなく可愛い生き物に見えて仕方がない。


「それはそれ、これはこれだ」


ん?と念を押す代わりに、きゅっと指先に力を込める。
膝を閉じ、英明の腕を阻もうと躍起になる和希の防御の薄い胸板をついでのように撫で回すと、結局それが決定打となったのか、 小さくなった背中が震えて、水面に大波が立った。


「――お湯を汚したのか?…仕方のない。お仕置きものだな」


揶揄いまじりに耳打ちしてみたが、和希は抗う気もないようだった。眼をきつく閉じ息を荒くして、興奮をやり過ごそうとしている。
羞恥、プラス湯中り――この辺りが限界か。


「…遠藤」


意味のない呼びかけを試みて後、ぐったりとした肢体を抱え上げ、バスタブを出る。ベッドまでそう遠くはない。
和希は暴れもせず大人しく英明の腕に運ばれて、寝台の上に落ち着くと、手渡されたバスタオルを素直に受け取った。
何かあっても、長く拗ねたりはしない。そういう面では、この男はきちんと大人だ。
だからこそ意味なく怒らせてみたくなるのかもしれない。
勝手な理屈と、逆に歳相応には程遠い英明はもちろん理解していて、その上で、タオル一枚の艶かしい身体をシーツになぎ倒し無理矢理伸し掛かった。


「…っ!」
「――発想の転換だと思えばいい」
「はぁ?」
「つまりこの場合、優勝記念の副賞ではなく姫始めだとな」
「その単語、確か二日の夜辺りにも聞きましたけど」
「別に何度あっても構わないだろう。正月二日限定などとケチ臭いことは言わず、毎日でもいいくらいだ」
「バ…っ、馬鹿言わないでくださいよっ!」


身体が持ちません!と和希は両手をぐっと突っぱねて、英明の胸板を押しやる。


「子どもに混じって雪合戦に参加する体力があるなら、俺の相手くらい容易いだろう」
「どんな理屈ですかそれ…」


別の意味で力の抜けかけている耳元に畳み掛けた。


「そのうち必ず屈したくなるのだから、無駄な体力を使うこともない」
「中嶋さん…」


押し退けるのはあきらめたのか、その代わり和希の形のよい眉がきゅっと中央に寄った。


「それ…間違ってますよ。屈したくなる、じゃなくて、強引に屈服させる、でしょう?」
「分かっているなら話は早い」
「わ…っ」


まだ熱の残る頬を掌で包み込んで、深く口唇を合わせた。


「残り僅かな貴重な時間を、有意義に過ごしたいと言う切実な気持ちの現れだと、いい加減察したらどうだ」
「………中嶋さんが言うと、どうしても信憑性に欠けますね」


したり顔でほざく――どう判断しようとお前の勝手だ。
もちろん、雪解けまでの期間限定でないことくらい、お前もよくわかっているだろうが。





−了−






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