※女装風味、ご注意願います!






:第11回アンケート:

【こんなコスプレ見てみたいー:中嶋編】



1位 ギャルソン(16票)

2位 軍服(9票)





:第12回アンケート:

【こんなコスプレ見てみたいー:和希編】



1位 和装(16票)

2位 チャイナ(男性用)(15票)








投票、また、コメントありがとうございました〜




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「チップだ。取っておけ」

振り返れば、今しがた運んだテーブルの客が、畳んだ紙幣をこちらに差し出していた。
見慣れぬ奇妙な恰好…咥え煙草で、長い脚をこれ見よがしに組んだ男。


「――なんだ、足りないか」


揶揄するような声に、和希の白い頬が染まる。
そもそも珈琲一杯十銭のこのご時勢に、
拾圓券(現在の2万円近く)を平然と差し出す意味を考えれば、おそらく誰だって頭に血が昇る。


「お客さん、勘違いなさっているようですけど、ウチは置き屋じゃありませんから」
「似たようなものだろう」


薄暗い照明の店内、そのあちこちから女給たちの嬌声が上がっている。
それに混じって聞こえてくる、客の男たちの猥雑な笑い声。
この時代カフェーといえば、飲食を提供し、更につまりがそういうサービスを売る店が主だった。
また、フロアスタッフ――女給は基本無給で、客からのチップが収入源とも言えた。

だからといって、金さえ出せばなんでもするなどとは、客の思い上がりも甚だしい――


「生憎とわたくしは男です、こんな恰好ですけど」


半ば自嘲気味にぶちまけた。これで大抵の男は怯む筈だ。
が、相手は動揺の欠片も見せず、


「――見ればわかる。第一そんな貧相な女に用はない」
「……」


座れ、と顎をしゃくって示されれば、客の命には抗えない。
隣の席におずおずと腰掛け、とりあえずビールを注ごうと手を伸ばした。
グラスにはまだ、半分程ビールが残っており、
飲み差しに注がれることを嫌う客も少なくないことを考慮して、暫しの間待ってみたが、
どうにもタイミングが計りづらい。
そればかりか、こんな店に居るのが不思議なほど、相手は全身にまるで隙がない。
見惚れるほどの美貌と、鋭い刃物のような眼差し。
一体何者なのだろう…


「どうだ」
「…えっ」


ビールを勧められている、と気づくまでに数秒かかった。
恐ろしく言葉数の少ない、我道を行くタイプの人間なのだろう。


「では今グラスを――」


アルコールは得手ではないが、同じような理由で断ることも出来ない。
グラスを取りに行こうと立ち上がりかけて、不意に腕を捕られた。
引かれるまま、すとんと座面に逆戻りした腰を、その腕に抱え込まれ身体が密着する。
近づく顔。煙草の匂い。指先で顎を掬い取られて、口唇が覆い被さってきた。

途端に、喉に流れ込んでくる苦味。ぬるいビール。
予測できずに激しく咳き込んで、涙目になる和希を全く意に介さない様子で、男は平然と訊ねた。


「お前、名は」
「す、鈴…」
「源氏名か。本名は」
「………和希」

「――どちらもいい名だ」


本気とも戯言とも取れる呟きと共に、再び口唇が重なってくる。
仕事だと己に言い聞かせてみても、それはどこか空々しい言い訳だった。



胸元にするりと先刻の拾圓券を忍び込ませ、やがて男は立ち上がった。


「俺は通りのジャズ喫茶に居る。気が向いたら来い。サービスしてやる」


椅子から立ち上がれもしないで、呆然と後姿を見送った。
耳に、低い声が残っていつまでも響いている。
氷のように冷たく、それでいて燃えるような強烈な眼差しが頭から離れない。


人がこれほどまでに単純に――堕ちるものだと知らなかった。



…道ならぬ、想いに。






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