しっぽりっていい言葉だよね(笑)




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偏屈な祖父が、いわゆる"避暑地"を嫌って建てた、別荘と呼ぶには名ばかりの山小屋。
…と言うのもあんまりか。一応それなりに一軒家の体裁は保っている――
ただしその周囲には本当に何もない。
山と林と田畑が一面に広がる恐ろしく静かな土地。
訪れた和希自身も驚いたくらいの、鄙びた奥地。


「…で、これはどうしたんです?」
「使えと言って、勝手に吊っていった」
「へぇ〜やっぱり田舎には、まだあるものなんですね」


近年、使用する人間もいなかったその家屋を、
痛むからと、手入れだけは管理人に任せていたが――
夏休み中の中嶋さんに、受験勉強に専念してもらおうと提供を申し出たところ、
お前も来るならばと了承を受け、
少ない休暇をやり繰りして追いかけてきた…のがついさっき。


「見るのは初めてですよ。へぇ…案外大きいんですね」


1週間早く、ここの滞在者となった中嶋さんに案内された奥の間には、
四隅から吊られた蚊帳が、大きさは四畳半ほどもあるだろうか、
八畳の和室を半分以上占めて、視界を遮っていた。


「使い勝手はどうですか?寝苦しくありません?」
「まぁまぁだ。こっちは向こうほど暑くもないしな」


電気は来ているが、祖父が嫌ってエアコンは備え付けられていない。
開け放った窓からは緑の匂いを含んだ風が、心地よく吹き込んでくる。


「――そうですね。ホントに都内の暑さが嘘みたいです。
 あ、他に難儀していることはありませんか?食事などは…」
「ああ、特に問題はないが、ただ…」
「ただ?」


水道もガスも使用可能だけれど、毎食の支度は、買い物の不便さもあって、
近くに住む管理人に賄いを頼んでおいた。
田舎なんで、大したものはないと思いますがと前もって伝えてはあったが、
何か不都合でも生じたものだろうか。


「やっぱり口に合わなかっ…」
「――こんなところに1週間も独りでは、軟禁されているのと大差ないからな」
「え…?」


呟きに失笑が混じって、するりと伸びてきた腕に、無造作にしっとりと抱き留められる。


「…とてもじゃないが、3日が限度だ」


途端に辺りを包む空気までもが、がらりと色を変え、
耳元に囁かれる甘い声に、ぞくりと背中が粟立つ。
ストイックなイメージの強い中嶋さんに、そんなことを言わせるなんて、
それがまた特別なことのように思えて、…余計に肌が火照る。


「俺も……会いたかった、です」
「――それだけか?」
「え…っ」


頬に、首筋に擦りつけられる柔い口唇の感触に、吐き出す声…が震えた。


「あのでも、まだ…こんな時間…ですし」
「遠慮することはない。
 理事長から特別待遇を受けている礼もしなければならないしな」
「そ、それとこれとは…ッ」


有無を言わせず蚊帳の中に引きずり込まれ、
どんな主張も聞き入れられることはないと知っていても、
即座にその手に陥るのはどうしても悔しい。


無駄な抵抗を試みながら、帳(とばり)の中から見上げた世界は、
外から見るのとはまただいぶ違っていて、
四方と天井を覆われた密室感がありながら、シースルーの壁は開放的でもあり、


なんだかこれってすごく…


すごく……




「ちょ、ちょっと待ってくださいって中嶋さんッ! 誰かに見られたらどう…」


その上、窓だって、襖だって開け放ったまま。
いくら葦簾(よしず)が外からの視界を遮るからって言ったって、
貴方と違って、そんな趣味は持ち合わせていないと、
これだけは絶対譲れないと主張しなければ。


「こんな田舎に誰がいる? それにお前だって……」


鍛え上げられた腕に組み敷かれ、同時に囁かれるのは、いつもながらに含みのある言葉。


 ――お前だって思ったんだろう? 結構イヤらしいな…って


「…お、思ってませんッ!」
「ふん…今更、俺に嘘などついてどうする気だ?」
「だから違…」


本当は違わないんだけど、それを口にするのも憚られる。
実は見られるのが趣味なんじゃないのかとか、
この人のことだから、学園に戻ってからも、絶対このネタで引っ張られるに決まってる。


「随分不満そうだな」
「あ…当たり前じゃないですか。大体中嶋さんには情緒ってモノが欠け…」
「なるほどな。浴衣のお前を脱がすのも、それはそれで趣があっていい」
「……はい?」
「そう焦ることもない。時間はまだ十分ある」
「だからそうじゃなくって――…ッ」




そんなわけで、初日から『充実』した夏休みは、あと残り6日と半日…





【暗くなるまで待って】
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