今日は何日だったっけ――? 日々仕事に忙殺されて、眼の前のスケジュールをこなすので手一杯。 特に冬休みに入ったこともあり、朝からサーバー棟に籠っていたせいで、日付の感覚も何処かへ吹き飛んでいた。 あぁ、そうだった―― 今日はイブだったと思い出して、そんな自分に苦笑いする。 ついでに今日は土曜で、秘書達も他の職員も休み。 イブに仕事をしている無粋な人間は自分くらいだ。 しかし、長期休暇中の貴重な時間を無駄には出来ない。 秘書には内緒でこっそりと――バレればきちんと休暇を取れと、歳上の部下に説教されるのは眼に見えている。 やれやれと伸びをして、PCの電源を落とした。 ある程度の目途が立ったので、今日はもう学園に戻ることにしよう。 イブを忘れていたのは、この一週間、企業のパーティに散々出席していたせいもある。 さすがに食傷気味だ。罰当たりな話だが。 サーバー棟から一歩出ると、辺りの景色は朝と一変していた。 学園島には珍しい雪が、ちらほらと舞っている。 積もるほどではない。地面にたどり着いてすぐ消えてなくなる淡い雪。 道理で寒い訳だ―― 寮までまさか車を出すわけにもいかない。 傘もないが、走って帰るほどのエネルギーはないし、それに…滅多にない、島での雪模様だ。 見逃すのは惜しい。 むしろゆっくり帰ろう…と、歩き出した。 サーバー棟の建物は、周囲から身を隠すように木立に囲まれている。 常緑樹の青に白が映えてとても綺麗だった。 その並木道の下に立つ誰かの姿を認めて、本能的にぎくりとした。 向こうは傘を差しているせいで、全体像が掴めない。だがすぐに、まさか?に変わる。 まさか、もしかして――と。 まだそのひとが立つ場所まで数十メートルはあるけれど、強烈な個性のせいか、はたまた持って生まれた尊大さのせいかは知らないが、それが誰なのか判った。 それでも、そこまで駆け出して行ったりはしない。一応いい大人だから。 そ知らぬふりをして近づいて行き、やっと顔が見えるところまで来て、わざとらしく声を掛ける。 「――中嶋さん…?どうしたんですか、こんなところで」 「…別に、どうもしない」 「どうもしないって、迷子になったわけでもないでしょうに」 何だか不機嫌そうなのは、和希のわざとらしさがバレていたせいかもと、危惧する。 「迎えに来て下さったんですか?もしかして」 「………」 答えを待っていてもきっと埒が明かないだろうし、と、ずばりストレートに問い質してみた。 他に、ここに立っている理由なんか想像がつかない。しかもこんな寒空の下で。 ただ、どうして和希が寮に戻る時間が分かったのだろうという疑問は残る。 「寮に戻る途中、思いついてこちらに足を向けただけだ。―― 「はぁ…」 曖昧な答えに首を傾げる。ついでに待っていたってことなんだろうが、はっきり口にしたくないのが、18歳男子の複雑な心理? 「そうなんですか。サーバー棟まで来て下さればよかったのに。風邪でも引いたら――」 もうじきセンター試験なんですから。そう言いかけて、英明の傘を持つ手に眼がいく。 綺麗な指先が赤く、見た目からしてもう冷たそうだ。 本当のところは一体いつからここに居たんだろう。 訊いてもおそらく答えてはくれないだろうが。 「中嶋さん」 「ん?」 「その…、手を…繋いで帰りませんか」 「………」 途端に渋い顔。やっぱり、という思いが強いので別に驚きはしない。 繋ぐのを拒んだその冷え切った手は、代わりに和希の肩を抱いて引き寄せ、逆の手で傘を差し向ける。 「お前こそ風邪を引くぞ。年寄りはこじらすと厄介だからな」 「ちょ、誰が…」 「行くぞ」 強引に話を遮って、和希の身体を促しさっさと歩き出す。 本当にしょうがない子だ。教職者として見るなら、シャイなのも個性のひとつだろうけれど。 恋人としては…ねぇ? 「――何か言いたそうだな」 「え?えーと…あ、そうだ今度手袋編んでもいいですか?」 「編むのはお前の自由だろう。いちいち許可など取らずとも」 そっちこそ、いちいち屁理屈だって。 「じゃあぜひ編ませてもらいます。色の希望はあります?」 「………黒」 あれ、珍しくまともな答えが返ってきた。 英明にはニットの手袋よりきっと、レザーの物のほうが似合いそうだけれど。 「期待して待ってて下さいね?」 「…あぁ」 「あっそれと、メリークリスマス中嶋さん」 「……俺は無神論者だ」 何処までも減らず口の可愛い恋人に、急いでプレゼントを編もう。 あ、でも明日までには…ちょっと無理かもしれない。 だって今日はこのまま部屋へ、押しかけていく予定だから。 【メリクリ'11】 Copyright(c) monjirou +Nakakazu lovelove promotion committee+ |