大晦日のカウントダウンがやりたいって、そんな話題を口にした自分がきっと愚かだった。
日本に帰ってきてからはそんなイベントに参加することもないんだって、他愛ない話だったはず。
これが王様だったら例えば、寮に残っているメンバーでパーティでも開くか!とか、そんな流れになっただろうに。


つくづく…


「――何か言ったか」
「いーえっ」
「来年は…お前はいくつになるんだ」
「はぁ?」
「いい加減、皺が元に戻らなくなると困るぞ」


そう言うと諸悪の根源は、腕の中に閉じ込めた獲物の眉間に寄った皺をぺろりと舐め上げた。


「…っ」


ホントにつくづく…溜息も出るというもの。
そしたら今度は、いきなり口唇ごと塞がれた。
鬱陶しい空気を吐くなと言うことか。


…別に、いちゃいちゃするのが嫌なわけじゃないけれど、時と場合に因る。
うっかり口を滑らせた昼間っから、まさか部屋に拉致されるなんて誰も思わない。
曰く、「カウントダウンのイベントをしたい、と持ちかけたのは、遠回しに俺を誘ったんだろう?」
それで悪趣味な年越しなんとか…が決定したらしい。
同意なんか一度もした覚えはないのに。
まだ年越し蕎麦も食べていないのに!


「蕎麦くらいいつでも食える」
「それは年越し蕎麦って言いませんよ」
「…来年まで我慢しろ」
「紅白だって」
「本気で見たいなら録画しておいてやる」
「………」
「諦めるほうがお前のためだと、いい加減悟ったらどうだ?」


妙な理屈だって暴君自身もわかっているようだ。声が笑っている。


「うーん、俺と一緒に年越ししたい、くらい言ってみて下さいよ」
「…ついでに姫始めもつけるならな」
「ちょ、どんだけ…」




無茶する気?って叫びも虚しく、年越し蕎麦は遠ざかり、遠くの港で汽笛が新しい年の訪れを告げる。


「――せめて一番におめでとうが聞ければ、俺も、身体を張った甲斐があるんですけどね…」
「お前はさっきから、何をそんなにこだわっている」
「こだわってるわけじゃありませんよ。ただせっかく」
「蕎麦が食えなくても、俺が居ればそれでいいだろう」
「………」


カウントダウンな年越しも、紅白もないけど?


「それでは不満か」
「うーん、もうひと声?」


一年に一度どころか、十年に一回、くらいの甘い言葉でなら許してあげてもいいかな、なんて。
確かに言ったはず。もうひと声…って。


「成程、まだ足りなかったか」
「え…?」


年明け早々嫌な予感…。


「――姫始めは本来、旧暦の正月二日だ」
「…?はぁ」
「そういうことだ」


妖しいまでの微笑みで高らかに宣言されて、明日まで延長決…定…?


「いや、あの俺まだ何も。――何も言ってませんって! ちょ、待っ…」


年明け早々、なんでこんなことに?


「俺の身体が持ちませんから!」
「安心しろ。俺が隅から隅まで世話を焼いてやる」
「――」


年明け早々こんな有様では、今年一年思い遣られる。
喜ぶべきか哀しむべきか…、


「単純な話だ。愉しめばいい」


帝王論は今年も揺るがない。








−了− 








【恭賀新春】
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