お土産ですと言って、和希から紙袋を手渡された。
中を覗くとネクタイが一本。きちんと包装されてはいるがプレゼントというよりも、自分用に購入したといった体だ。


「…どうしたんだ、いきなり」
「特に理由はないのですが何となく――中嶋さんに似合いそうかと思ったもので」


制服着用時はともかく、現役高校生の英明にネクタイなど不要のものだ。
せいぜい大学の入学式くらいでしか役には立たないだろう。それもあと9ヶ月は先の話で。


初めはだから、誰かから贈られたものが趣味に合わずに英明に回したのかと勘繰ってもみた。
ただ和希の周囲にはいくらでも、ネクタイをぶら下げている人種がひしめいているわけだから、わざわざ英明を選ぶこともないだろう。
それに和希は横流し的なことはあまりしない性質だ。


袋からそれを摘み出してみる。
ブランド物には興味のない英明にだってわかるほどの高級品。まず17歳にプレゼントするものではない。
これを絞めるなら、スーツだってシャツだってそれなりのものが必要になる。


おそらく自分のスーツを仕立てに行った先でついで買いでもしたのだろう。
"何となく"で買うには考えられないような値段のそれを。


「――ネクタイを贈るのは、『相手に首ったけ』という意味があるそうだが?」
「え…、あ、そうなんですか…知らなかった」


意味深に問えば和希は困ったような笑みを浮かべて頬を掻く。よく見る癖だ。


「…お前からそんな態度を見せられた覚えなどないがな」
「――っ…」


戸惑う和希の柳腰をおもむろに引いて、腿の上に座らせる。
いつもと違う目線の高さといつもより近い距離のせいで和希は見るからに困惑し、けれどその不安定な体勢からどうしても英明に頼むしかなくなり、 遠慮がちにシャツの端を掴んでいる。


出逢いから数えてもたった数ヶ月だ。ぎこちない態度も無理はない。
本来の和希の性格からしても萎縮しているのとは違う。おそらくどう接していいのかわからないだけなのだろう。
英明が、必要以上の接触を嫌うような――一見ストイックな態度でいることにも起因しているように思える。


ベッドの中ではそうでもないつもりだが、と英明は独りごちて、改めて和希の腰を引き寄せた。


「じゃあなんだ?どこか敷居が高そうな店にでも連れて行く気か?」
「敷居が高そうな…?」
「ドレスコードのあるような、だ」
「ああ…そうですね、せっかくだし何処か――」


考え込んだ和希の隙をついて、口唇を奪った。
初めは狼狽していた和希も、口元を開いてたどたどしく英明を受け入れる。


三ツ星レストランでのディナーも悪くはないが、もっとずっと美味なものがあることに、眼の前の和希は気づいていない。


どうしたものか、と英明は考える。
まだまだ親密さが足りない。矢印は常に一方的に互いを向いていて、交わる点はごく僅かだ。
例えばこのネクタイで、和希の両手を縛るような無粋さではなく、もっと単純に近づきたい。
肉体的な繋がりよりももっと判り易く、もっと純粋で、飾らない…


「………」
「どう…かしましたか…?」
「ああ…いや――」


ありふれた、たった三文字の言葉はこの場合、想像以上の効果をもたらすに違いない。
ただ和希が素直にそれを信じれば、の話だが。









−了− 








【ネクタイの日は十月一日】
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