週末の夜。隣で眠るひとの存在に最近ようやく慣れてきた。
別に寂しがりなわけではない、むしろ孤独を誰よりも好みそうなそのひとが、わざわざ俺の横で眠るのに、仰々しい理由があるわけでもない。
何となく親しくなって、いつの間にかそんな関係になって――なんて、
そんな単純には割り切れない葛藤がそこに確かに横たわっていたはずなのに、
生徒がどうの立場がどうのという懊悩を易々と乗り越え、くだらないと一蹴して、そして現在に至る。


中嶋さんの寝姿をしげしげと眺める時間が、この上もなく好きだ。
大抵は自分の方が先に眠りに落ちるせいで(気を失うというのは大袈裟じゃないかと反論したいのだが、中嶋さんに言わせれば紛れもない事実らしい)、
それが希少であればあるほど、自ずと価値も上がるわけだ。


俺の寝顔など見て楽しいか、と言って彼の人は微苦笑するのだけれど、他人にはわからない、ではなくこの場合、本人には理解できないであろう愉悦。


ただ、ひとつだけいつまで経っても慣れないことがある。
朝方、俺が先に眼が覚めて、僅差で向こうが遅れて目覚めたとき。
「…おはよう」って隣から響く声は、まだ半分寝ぼけた頭にはかなりの毒だ。


眼鏡がないとか、髪がいつもと違うとか、それだけでも十分過ぎる破壊力なのに、
何より声が普段より少し低くてハスキーで、たまらなく耳穴をくすぐる。
むしろ別のところに直接届いているような気さえする。うなじをざらついた手が撫でていくような。そんな。
胸がざわついて仕方ないのに、中嶋さんは怪訝な表情を浮かべてこっちを覗き込んでくるから余計性質が悪い。


「――朝っぱらからいやらしい顔をして…、なんだ?」
「な…っ、」


それはこっちのセリフだ、とか、いやらしいのはどっちなんだとか、色々思うところはあってもまるで言葉にならず、ぱくぱくと口を動かすだけで、情けないことこの上ない。


「そんな物欲しそうな顔をしているくせに、否定するのは愚かだと思うがな」
「違…」
「昨夜あれほどイッたのに、まだ足りなかったのか?」


結局のところ、人の話など聞く耳持たない――雲煙過眼とでも言うべきか――中嶋さんは、半身を起こすとおもむろに覆い被さってきた。


「…っ――」


何を言われても、今はこの声に、抗えない。
囚われて、逃れられない。絡め取られて、その逞しい背中に縋りついた。




外は、篠突く雨。様々な喧騒を塗り込めて、いつまでも降り続く雨。








−了− 








【週末の雨】
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