「また煙草が値上げらしいですね」 「…いくらになったら禁煙するかという、くだらない質問には答えないことにしている」 「まだ訊いてませんよ。――第一、ひと箱3万くらいになったとしても禁煙しないでしょう、中嶋さんは」 何せ、無人島に持っていくならの問いに『煙草』と答えたくらいの愛煙家だ。 生半可なことでは禁煙も卒煙も無理な話だろう。 「…わかっているなら初めから訊くな」 「わかっているのと、禁煙して欲しいと言う俺の希望はまた別の話ですからね」 「願いは叶わないからこそ期待を託して望むもので、そう単純に叶ってしまえばつまらない」 「…完全に他人事ですね。まぁいいですよ、来年の俺の目標は、中嶋さんの禁煙です――と、宣言しておきます」 「またくだらない目標を立てたものだな」 「困難が大きければ燃えるのもまた現実ですからね。ウチの禁煙薬の効果を実証するいい機会だと」 「せいぜい努力することだな」 一年後に同じ台詞を聞かなければいいが、なんて、呑気そのものな口ぶり。 英明にしてみれば余計なお世話なのは重々承知している。だからって捨て置けない。 医薬関係者としても教育者としても、恋人…としても。 「…俺、ひとつだけ、中嶋さんが絶対煙草を吸えなくなるような秘策を知っていますよ」 「ふぅん」 「知りたいって言わなくても言っちゃいますけど」 「………」 興味なさげなそぶりの英明のその耳元にちょっと近づいて、 「――ずっとキスしていればいいんですよ」 「…それは結構な提案だが、言っているお前が照れているようではな」 くるりと顔を横に向けて和希に向き合うと、目前でにやりと笑――ったような気配だけがした。 禁煙する気は更々ないくせに、こういう時だけは行動が素早いんだからと文句を言う気も失せて、優しいキスを全身で受け止める。 −了− 【年末ショートコント】 Copyright(c)2013 monjirou +Nakakazu lovelove promotion committee+ |