教室棟から洩れる灯り。 仕事を終えての道すがら、こんな時間ならおそらく――と、見当をつけて向かってみれば案の定、 学生会室で、書類の山に埋もれる副会長の姿。 「失礼します――中嶋さん?」 ファイルの束に隠されて、ロクに顔も見えないが、どうやら丹羽会長は不在の様子。 「遠藤か。どうした」 「外から灯りが見えたものですから…中嶋さんおひとりですか?」 「ああ、うるさいのは先に帰らせた。明日朝イチで籠らせる約束で」 「……はは。あ、中嶋さん夕飯もまだなんじゃあ?何か用意してきましょうか?」 「いや、もう直に終わる」 「じゃあせめてコーヒーでも…」 「――お前も疲れているんだろう。余計な気を遣わず、戻って休め」 あっさりと断られて、虚を衝かれたような気になる。 突き放すような言い方ではないから、逆に気になってしまうというのも妙な話なのだけれど。 「…中嶋さん?」 「なんだ」 キーを打つ手を休めずに、それでも面倒臭がらず訊いてくれる…のに。 「それなら俺も手伝いますよ。ふたりでやればその分早く終わりますから」 中嶋さんはその申し出に何も答えず、眼鏡を外して無造作に額に手をやる。 微かに長いため息と共に。 「あの…俺、がいると迷惑ですか」 「いや、気が散るだけだ」 またもはっきり通告されて、動揺しないでいられるわけもなく、 それでも黙って退出するほどの度胸も持ち合わせてはいなくて。 「――疲れてるんですよ、きっと」 むしろ強引に中嶋さんの背後に回って、両肩に手を置いた。 冗談交じりに肩でも揉んでみたりして、氷のような空気を誤魔化してしまいたかったのだけれど。 何…と言ったらいいのか。 中嶋さんの背中…うなじ、上からの目線で見るライン。 自分の手には余るほどの身体の厚みに、軽い衝撃を受けて動けなくなる。 一見華奢な中嶋さんを、こんな形で意識することなんかなくて―― そこにいる自分、この胸に抱かれている自分の姿を思い浮かべてしまって―― 「遠藤」 「は…」 肩に置いたままの手の上に中嶋さんの手が重ねられ、ハッと我に返った。 「頼むから集中させろ」 「あ…すみませ――」 背中に張り付いたまま、肩を揉むでもなく固まっている自分のことを指摘されたのだと思った。 慌てて指先に力を込めてみたところで、きっと意味なんかない、って分かって――… 「…だから集中できない、と言っているだろう」 「え?」 そのまま、掴まれた手首ごと強い力で引き寄せられ、バランスを崩して倒れ込む。 中嶋さんの――胸元へと。 「危な…」 膝に受け止められて、体勢を整える暇もないまま、妙な恰好でいつの間にか奪われるキス。 「中、嶋さん…」 何も言われないけれど、もしかして…って瞬間的に思った。 気が散るって、集中できないって、それって…それって――? 幾度も瞬きして、頭上の人を見上げる。 自惚れてしまってもいいんだろうかって思いかけたところへ、降ってくるのは狙い澄ました言葉と眼差し。 「安心しろ、責任を取れなどとは言わない。だから黙ってここにいろ」 【板割りシリーズ2】 Copyright(c) monjirou +Nakakazu lovelove promotion committee+ |