「どうして中嶋さんは、何かって言うとお仕置きなんでしょうね」 和希の口がしれっと毒…という名の独り言をぶちまけたので、学生会室は一瞬にして凍りついた。 突然の爆弾投下に、王様も唖然と口を開けている。 でも中嶋さんだけは、耳にも入っていない風に、仕事仕事、書類書類… 聴こえてないはずは――ないよな… 「大体、力に訴える時点で間違ってると思いませんか、ねぇ王様」 「お?おー…」 いきなり話を振られた王様の視線は、和希と中嶋さんを行ったり来たり彷徨って、 「た…確かに暴力はよくねぇよな。でもほら――力を誇示してぇって時もあるんじゃねぇ?男なら」 両方立てようという苦心の跡が見える微妙な答えを搾り出した。 当然、和希は面白くない。 「時代錯誤ですよ、そんなの。時流に逆行している。なぁ、啓太もそう思うだろ?」 「――…ひゃッ!?」 「うひ?」 うわ、こっちに矛先が向いちゃったよ! こういうしつこい…じゃなくて、冷静に理論で追い詰めてくるときの和希は、大抵中嶋さんと喧嘩したとかなんだよなー 中嶋さんも中嶋さんだよなって思うときも多いけど。…むしろほとんどのような気もするな。 「か、和希さ、えーっとほら、発想の転換してみたら?」 「ん?どういう意味だ?」 「だからさ、うーんと」 王様でさえ顔色を窺うその人を、ただの後輩が恐れないわけない。半端なくドキドキしつつ、 「つまり、それが…あってこその人格というか…さ」 「…お仕置きが中嶋さんのアイデンティティってことか?啓太」 「――う…それは…」 ぎゃー和希ー!わざわざ念を押すなよー! ほとんど涙目になってる親友に、和希はまるで気づかない…いや、今はそれどころじゃない? 導き出された結論にいたく納得した表情で、次は堂々と、その手強いラスボスに対峙した。 「中嶋さんにとってお仕置きとは、アイデンティティにも等しい、どうですか?」 「…人を勝手に分析するな」 成り行きをハラハラしつつ見守っていると、王様がこっそり合図を送ってきたのに気づいて、 落し物を拾うフリでしゃがみ込み、そーっとふたりで机の影に身を潜めた。…でも、 「――つまり、中嶋英明はお仕置きによってその存在を証明できる、と」 和希にはギャラリーがいようがいまいが、一切どうでもいいみたいだ。 新しい発見により嬉々として、か、長引く憤りのせいか、あんまり周りが見えていない。 優秀な人間ほど、そういう傾向があるって誰か言ってなかったっけ? 逆にやれやれって顔の中嶋さんのほうが、和希よりぐっと大人に見える。 「…まぁ、そういうことにしてやっても構わないが、――その理屈だと、お前はお仕置き前提の俺を受け入れることになるな」 「………はい?」 「単なる性的嗜好ではなく、アイデンティティと断定するからには、それを拒むお前は狭量な人間だ」 和希はぐっと押し黙った。 「…王様、アイデンティティって――どういう意味ですか?」 「ん? まぁこの場合は独自性とかでいいんじゃねぇの? ヒデをヒデたらしめてる、ってこったな」 えーっとだから、和希は中嶋さんのお仕置きを、中嶋さんの個性として認めたってこと…でいいのか? この勝負――どうやら和希の分が悪そうだ。 中嶋さんはくくくと楽しげに微笑い、呆然とする和希の細腰を悠々と抱き寄せた。 【今月はお仕置き月間】 Copyright(c) monjirou +Nakakazu lovelove promotion committee+ |