10月31日夕刻、「Trick or treat?」で、お目当ての部屋をノックした。
返ってくる反応は大体予想がついたから、こちらもその心積もりでいたのだけれど。


部屋の中から現れた中嶋さんはどう見ても外出モードで、その時点でまず読みが外れた。


「あ、お出かけ…ですか?もしかして」
「ああ、今戻ったところだ。丁度よかった」
「はい?」


扉を手ずから開けて入室を促し、机の上を目線が示す。


「貰い物だ。お前のところに持って行こうかと思っていた」
「え…」


各部屋に備え付けのデスクの上に、ちんまりと載っているのは白い…ケーキの箱?
お邪魔しますと靴を脱ぐと、中嶋さんは何も言わずに部屋の片隅へ。
だからいそいそと勝手に机のほうへ寄り、


「――開けてもいいんですか?」


問えば、後姿があぁ、とだけ答えてくれる。
本当に小さなケーキBOX。
そっと封シールを剥がせば、フルーツの三角ショートがひとつと、オレンジ色のモンブランが…あ、カボチャかもしれない。
可愛くて、女の子が喜びそうな甘い香りは、何だかこの部屋にはちょっと似つかわしくない。


開封する前は単純に嬉しかったのに、何だろう急に、もやもやと胸が曇り出す。


「――どちらへお出かけだったんですか?」


箱を手に、ベッドの端に腰掛けて、クロゼットの前で着替え中のその人に問いかけてみた。


「ああ、ちょっと野暮用だ」
「………」


脚をぷらぷら遊ばせて、色々と想像を巡らせた。
ケーキがお土産のところって…お店のオープニングイベント…とか、単なるお持ち帰り用の手土産…
案外ありそうで、逆になさそうな。


「――イヤなら無理に食わなくてもいい」
「そんなことひと言も言ってませんよ。中嶋さんも一緒に食べますよね」
「俺はいい」
「そんな。俺、コーヒー淹れますし」


すっかり部屋着に着替えたその人が、こちらに向かって戻ってくる。


「お前が独りで食べればいい」
「――」


それは決して突き放す言い方じゃなく、むしろちょっとだけ、今日の中嶋さんは――そう、機嫌がいいみたいだ。
普段が普段だけに、わかりにくいけれど、確かに何となくいつもとテンションが違う?


そんなことに気づくと益々気になってしまう。


――何処へ行ってたんですか?

何かいいことでもあったんですか――?


って、詮索なんかしたくはないし、そんな権利もないし、でも気になるし。
こんな気分でケーキを食べるのはもっと――…


「何か不満か?」
「いいえ…」


首を横に振ったところでバレバレな態度に、中嶋さんは微苦笑をその秀麗な面に載せて、ベッドの隣に腰を下ろした。


「なら食べたらどうだ」
「………」


いつもなら、絶対にこんな勧め方はしないくせに。


「…何か…あるのかなって」
「何かとは何だ」
「えっとそれは…」


口籠る相手に、


「俺は余程信用がないと見える。毒でも仕込むんじゃないかと疑われているとはな」
「そんな!」


そのくせ優しい口調で、大きな手が後ろ髪をゆっくりと撫でてくれる。
ちぐはぐさも全部、中嶋さんなのは…知ってる。だから、


「ごめんなさ…」
「――今日は、甘いものを与えれば悪戯が許される日だったな」
「………はい?」


とびきりの微笑みは、きっとケーキより甘い誘惑――なんて、そんな結論要らないのに、何だろうこの果てしない不条理感…
そして脱力感………



でもそれも、翌朝、何気なくゴミ箱の中に、レシートと1個だけスタンプの押されたケーキ屋のポイントカードを発見したことで痛み分けになる。
もちろん中嶋さんには黙っておく。この口が我慢できたら、の話だけれど。








【Happy halloween】
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