一体一年で何度中嶋さんとキスするんだろう?そんな疑問が不意に浮かんだ。
まだ知り合ってから一年も経っていないから、概算でしかないけれど。


ひと月に10日は学園を離れている。
残り20日のうち、顔が見られるのは、7、8割くらいか。
互いの部屋に泊まりあったりできる回数は更に減って、月に7日もあればいいほう。
こうして考えると案外少ない。もっと頻繁に会ってる気がするのに。


じゃあキスは――ってなると、一回逢う度……えぇと…


ベッドの中でそんなことを考え始めたのは、今日が閏年の2月29日だったせい。
一日余分に好きな人に逢えるし、一日余分にキスできるなぁ…なんて。



「…それで?考え始めたら眠れなくなったと? …いくつだお前は」


枕を抱えて深夜のドアの前に立つ和希に、英明はかなり本気で呆れていた。


「だってほら、本人に訊くほうが手っ取り早いかなと」
「知るかそんなもの」


ぶっきらぼうに吐き捨てて、それでも和希を内へと目線で促す。
卒業式を前にして、本当はただ貴重な一日を一緒に過ごしたかっただけってこと、
きっとこの人なら、口にしなくてもわかってくれてると思う。


「中嶋さん、…キスは?」
「……それは催促しているのか?」
「まぁ、ほぼそうです。一日をサンプルとして抽出すれば、おおよその平均が…」
「気が向かない」
「え?」
「催促されてそんな気になるか」
「そんな急にデリケートになられても」
「…お前がその気にさせてみろ」
「へ…俺?」
「お前以外に誰がいる」


えーっと…?


お前からキスしろ、ならずっと楽なのに。
与えられた難題に、和希はとりあえず眼を閉じてみた。


「却下」


間、髪を入れず退けられる。



「どうしてー」
「まるでそそられない」
「くッ…人の寝込みは襲うくせにっ」
「知らんな。夢でも見たんだろう」
「な――じゃあもう二度と貴方にキスなんかさせませ……あ。」


見事に墓穴を掘った和希を、込み上げる笑いを噛み殺しながら、英明はその広い胸に引き寄せた。


「どうするんだ? もう二度とカウントできないぞ。それじゃあ」
「う゛〜」


眼の前にそびえる形のよい鼻に噛みつきたい衝動に駆られて、和希は呻く。


「男に二言はありませんから、二度としませんキスなんか」
「ほぅ?」
「…でももし貴方がどうしてもって頭を下げるなら、考え直してあげてもいいです」
「……」


どうだ!と言わんばかりの、(その上年齢詐称的な)和希の表情に、
逆に難題を突きつけられた方は苦笑し、細腰を改めて引き寄せる。


「つまり、キスができないと俺は困るんだな?」
「困りませんか」
「別に困りはしないが――そうだな、煙草は増えるかもしれない」
「それは俺が嫌です」
「ならさっさと考え直せ」


鼻先を摺り寄せて、魅力的な口唇が眼の前で誘惑する。


「…しょうがない中嶋さんのために、今回は俺が折れてあげますよ」
「それは光栄だ」


微笑みながら近づく口唇が触れる寸前、何を思ったか和希の「待った」がかかった。


「あ!」
「なんだ…」
「――今日は4年に一度なんですから、大事なキスにしてくださいね?」


更にさり気なく難しい注文をつけられ、益々英明は眉間の皺を深くする。





【閏年閏月閏日】
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