「あけましておめでとうございます〜!」


年が明けて2日、実家に戻っていた和希が、寮に戻るなり奇襲を仕掛け、
ここぞとばかりに惰眠を貪っていた英明を揺さぶり起こした。


「中嶋さん中嶋さん!」
「……」
「なーかーじーまーさーんー!」


これで起こされる馬鹿がいるならお目にかかってみたい。
無論無視して、寝たフリ続行。


「中嶋さん…」


はしゃいで周りが見えなくなるような歳でもないだろうに。
少し大人しくなった和希に、ヤレヤレと胸を…


「はい、年賀状です」


眼の前に、軽く風を起こして何か薄いモノがかざされた。
どうやっても眼を覚まさせたいらしい――空気読めない2?歳。
仕方なく薄目を開けてみれば、焦点は合わないながらも何か、それらしい絵柄が視界に映る。
青いクマと、今年もヨロシク? 俺宛? 何て意味のない…


MVP戦のときといい、コイツは何か企むと、必要以上に幼い行動に出る傾向がある。
10代をなめてるのか。それとも、
そこまでテンションを上げないとついていけないからか…


ようやく相手を覚醒させることに成功した和希は、次いで背後からまた何かを取り出し、
今度は自分の顔面に掲げた。


「これ、何だと思います?」
「…知るか」
「あ、そんなこと言うならあげませんよ、お年玉」


実際眼鏡がないもので、和希の手にあるそれが何なのか見えもしない。
言われて初めて、ポチ袋かと気づくものの…お年玉?
ドコまで人を馬鹿にしてるんだか。


「――はした金など欲しくない」


呟いてからしまった――と悔やんだ。
こいつなら札束を積むくらいなんでもない上に、本気で実行しかねない。


「いいですよ。いくらなら納得です?」


人を食ったような笑みが、少しばかり面白くなくて、


「遠藤」


ベッドの中から手招きすれば、和希は素直に身を寄せて、顔を覗き込む。
その項を捕まえ、強引にシーツに引きずり込んでもよかったが、何となく気が変わった。


「目的は何だ?」
「…目的?」


中途半端な身の置き場に戸惑う和希の、表情までもが揺れている。


「今度は何の悪巧みなのか…答えろ」
「お正月にお年玉、それだけですよ。中嶋さんこそ――…」
「なんだ」


問えば和希は鮮やかに微笑って、英明の額を指で掻き上げた。


「前髪があると若く見えますね」
「お前よりは若いからな」
「じゃあいいじゃないですか。お年玉くらい貰ってくれても」
「何の裏もなく、か?」
「…もちろん」


軽い衝撃と共に、和希がキスを寄越してきた。


「金額分キスして欲しいだとか、好きだって言って欲しいなんて思ってません」
「……」


見返りにしては随分安い要求じゃないか。


「もっと、高額出費に見合う希望を言うべきじゃないのか?」
「え……えっと」


人の顔の上で長考に入ったが最後、和希は瞬きも忘れて動かなくなる。
一体どんな難題を突きつけるつもりか。


「遠藤」
「――…」

「…和希」
「…え、あ、はい?」


現実に戻ってきた和希の顔を目掛けて首を伸ばした。


「…んッ!」


指一本動かさなくても相手は自ら堕ちてきて、すぐにキスが深くなる。
肩の辺りに手を置き、大人びた仕種で――ああ、実際いい大人だったか。




「今の、わざとでしょう?」
「何がだ」
「名前で呼んだの」
「どちらでも同じだろう。お前には違いない」
「そういうことじゃなくて――」


目元を僅かに染めた和希の抗議は、口の中で消滅した。
どうやら"名前で呼ぶ"も希望リスト入りしていたらしい。
先手を取られて言葉に詰まるのか、いい歳をして。


「和希」
「――」
「和希和希和希」
「な、なんですかッ」
「呼ぶ度、追加料金加算システム」
「だ…ッ 主旨がお年玉からどんどん逸れてってますよ」
「金をやって何か言わせようとするのと大差ない」


身も蓋もない。
和希は己の作為に思い当たって、押し黙った。
おそらく半分は冗談だったくせに、そんなことでしょげ返るなんて、
一体こいつは何処まで年齢詐称する気なのか。




「お前は馬鹿か」


二、三の指の背で、和希の頬をするりと撫ぜる。


「それとも――正月限定でいいのか?」


そのまま指を滑らせて、口唇に柔く触れてやる。


「キスも、名前で呼ぶのも」
「い…いえ」


小さく首を振る和希を、微笑って抱き寄せた。


「毎日でもいくらでも、お前が嫌だと逃げ出しても、
 追いかけて掴まえて、名前を呼んでキスしてやるから安心しろ」


「…好きが抜けてます、中嶋さん」
「……」


こいつは――…




「中嶋さん?」
「……」
「中――」
「………」
「あ!何寝たフリしてるんですかっ」
「ぐー」
「ぐーじゃなくってもう〜…襲っちゃいますよ?」


「…確かに、お年玉より姫始めのほうが理にかなっているな、正月なら」
「……は?」
「俺としたことがうっかりしていた」
「えぇ?」
「丁度折り合えたんだ、よしとしろ」




おもむろに寝返りを打って、和希を腕の中に閉じ込める。
これで十分過ぎるお年玉じゃないか。









【恭賀新春】

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