「風邪の引き端か?」

今日…初めてのキスのあと、真面目な顔で中嶋さんが問うのを、余韻でぼんやりしていてうっかり聞き逃しかけた。

「口唇が乾いている」
「あ…」

反射的に指先で触れてみれば確かにその通りで。

「――サーバー棟の空調システムを変更したばかりなので、そのせいかもしれません。直すよう伝えます」

この人にしては珍しい指摘に戸惑いつつそう答えると、

「ならいいが…風邪っぽいなら大事になる前に養生したほうがいい」

更に信じられない言葉をかけられて、硬直…その、理路整然とした顔つきをついまじまじと眺めてしまう。

「…なんだ」
「ええ…何だかあんまり中嶋さんらしくないなぁと」
「俺がお前を労わるのがそんなにおかしいか?」
「と、とんでもない…です」

眉間に寄る皺を見て慌てて訂正してみれば、中嶋さんは口の端だけでにやりと笑んでみせる。

「そうだろう?何せお前は大事な身体だからな」

普通に受け止めるなら、理事長という立場もあるのだから――って意味になるんだろうが、
今の眼鏡の奥の怪しげなきらめきは、絶対絶対何か他の含みを持っていた。

そういうのも労りっていうのかもしれないけれど、なんかフクザツ…
喜ぶべきなのか哀しむべきなのか、判断に苦しむ。


「中嶋さんこそ、学生会になくてはならない人なんですから、気をつけてくださいね」

言い返せない悔しさに(下手に問い返せば墓穴を掘るだけ)、嫌味を込めて労い返すと、

「お前の風邪なら――いくらでも引き受けてやるが?」

そう言って身体ごと引き寄せてキス。


全く貴方はどうしてこう――って、言えない自分が、情けないやらニヤけてしまうやら。





【板割りシリーズ1】
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