クールでポーカーフェイス。
冷徹で滅多に感情を表に出さない。
そんなこの人の傍に今年1年置いてもらえたことは、ただ奇跡のような幸運。
そこに混じる少しの不安と…僅かな期待。


「中嶋さん…」
「なんだ?」
「――静かですね」
「そうだな」


生徒のほとんどが帰省中の寮内は静寂そのもの。
人工島という立地のせいか、除夜の鐘さえ響いてはこない。


「日本の大晦日は静か過ぎて、ちょっと不気味なくらいですね」
「馬鹿騒ぎするのはTVの中くらいだろう。あとは脳ミソの足りない連中か」


この人らしい物言いに苦笑し、そっと中嶋さんの肩に頭をもたせかける。

沈黙が少し、怖い。


何の言葉もくれないこの人に、もし自分から告げたとしたら、そうしたら…
欠片ほどの浅ましさが、小さな灯りのように浮かんで心を揺らす。


デジタルの時計が、電子音で質素に新しい年の始まりを告げた。


「あ…」


きっかけに背中を押されて、渇き気味の口唇をこじ開ける。


「あの、中嶋さん――俺…っ」


顔を上げた瞬間、予想もしないキスが予想もしない角度でやってきて、
眼を閉じることさえ出来ずに受け止めるのが精一杯、でも。

言葉より雄弁なものがあるなんて…知らなかった。
誰もそれを気づかせてはくれなかった。


「中嶋さ…」


ゆるりと離れて、至近距離から覗き込んでくる眼差しが、柔らかく心を満たす。
何か言いたいのに…訊きたいのに言葉にならない。
そのうち再びのキスで、益々言葉を奪われてしまえばもう、


もう――残るのはたったひとつのことだけ。


新しい年の始まり…何も変わらないふたり。





【謹賀新年'07】
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