引退後、学生会の業務から解放された中嶋さんに、ずっと頼んでみたいことがあって、
頃合いを見計らい、おずおずと切り出してみた。

「…中嶋さん、今日、少し寄り道して帰りません?」

同意を得て、寮に戻る前に、学園内にある売店に立ち寄る。

「買いたいものがあるので」は、表向きの理由。本当の目的は…


「――はい、中嶋さんの分」

あくまでもさり気なく、ついでを装って購入した中華まんひとつを2分割して、眼の前に差し出す。

「いや、俺はいい」
「…そうですか?」

素っ気なく拒まれた白い物体から立ち上る湯気が、侘しく闇に消えていくのを眺め、
片割れの半分を頬張りつつ、恨みがましく呟いてみる。


「――残念です。実はちょっと憧れ…てたんですよね」
「買い食いにか?」
「寒くなったら中華まんを買ってみるっていうのと、それを…大事な人と半分コするのと」
「……」


正直に告白した慎ましやかな希望に、隣で中嶋さんは、心底呆れ顔をしてみせ、

「…お前の情報ソースはいつも10年は古いが、それでよく、クラスのヤツらにバレないものだな」
「ぐッ」

ストレートな物言いに、思わずむせた。

「いかがわしいバーに、違和感なく溶け込める人に言われたくありませんねッ」
「老け顔と、実際老けているのとでは大違いだろう」
「老け…って――」


軽口の傍からいきなりのキスが降ってくる。
熱くて甘いのは、きっと今にも手元からこぼれ落ちそうな粒あんのせいで。


「――肉まんなら、そのうち付き合ってやってもいい」

誓って、そんな囁きなんかのせいじゃないんだから。





【あんまんの餡って火傷するよね】
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