真夜中過ぎ、静かにドアが叩かれて、遠藤が姿を見せた。
疲弊し切った顔つき。
眼を上げることも億劫そうに、ただ、
「今夜、泊まってもいいですか」と小さなひと言。

「――ああ…」

同意を得ると同時に、ふらふらとほとんど倒れ込むようにベッドに沈む。
すぐさま聞こえてくる寝息――

遠藤が、こんな風にやってくるのは、大概が仕事で面倒が起こったとき。
ストレスを抱え、神経をすり減らして、わざわざ他人の部屋を訪れる。

そんな風に頼られるのは、甚だ不愉快ではあっても、不快ではない。


作業途中だったPCの電源を切り、眼鏡を外して、灯りを落とす。
几帳面に作られた、ベッドの半分の空間にもぐりこむが、
前後不覚に眠り込む遠藤は、それでも眼を覚まさない。

狭い寝台では、どうしたって密着しないでいられず、
形のよい頭を抱え込むように腕に引き寄せれば、
意識もないくせに――相手は、身体ごと、もぞもぞと擦り寄ってくる。

この学園を取り仕切る人間だなどと、きっと誰も信じない、
幼子のような寝顔。


たまにはこんな夜があってもいい。

「…中嶋さ…ん」

薄く動いて、無意識に名を呼ぶ蠱惑的な口唇。

「……」


あくまでも『たまには』であって、明日の理性には責任を持てない。





【寝ても醒めても】
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