寝苦しさに眼が覚めた。
TVでは、今夜は熱帯夜になるだろうとの予報だったが、
寮内は冷暖房完備で、いつだって快適な室温が保たれている。
外界の暑さとは無縁…のはず。
それなのに。

就寝前にシャワーを浴びたのが嘘のように、肌はすでに汗だくで、
パジャマ代わりのTシャツが、直に張り付いて気持ち悪い。

もしか窓でも開いているのだろうかと、
温気の正体を確かめるために仕方なくベッドを下りた。

部屋の壁際のコンポ――デジタルの時刻表示が闇にぼんやり浮かんでいて、
どうやら停電ではないようだ。
しかしやはり窓は閉め切られたままで、こんな時間にあってはならないことだが、
空調の不良としか考えられない。

あれほどメンテは念入りにしろと命じてあるのに――
心の中でぶつくさと呟きつつ携帯を手にし、しかるべき相手に連絡を取る。

「――ああ、俺だ。こんなに時間に悪いが、寮内の空調システムが故障…」

用件も伝えきらないうちに、背後から音もなく忍び寄ってきた腕は、
携帯を奪い取ると、躊躇いもせずに通話を断ち切った。


「中嶋さんッ? 何をす――…」
「お前こそ、こんな時間に何をこそこそと密談している」
「違いますよ。空調が故障したようなので、修理の依頼をしてただ…けで――!」

抗議の声も一切聞き届けられず、今更驚きもしない強引さでベッドに引きずり込まれ、
同時に耳元に囁かれるのは、

「そんなことは篠宮にでも任せておけ」

寮長伝えよりも、自分が連絡したほうが遥かに伝達が早いとか、
おそらく速やかに修理に取り掛かってもらえるだとか、
そんな正論…言っても無駄だろう。
さも当然の顔で相手を組み伏せてくるこの人には。


「ホントに…暑くて寝られなくても知りませんよ?」
「どうせ一汗も二汗も同じことだろう」
「は、はい…?」

ありえないと叫んでもいいくらいの三段論法で、やはりたどり着くのはソコ…?

この人にとっては不条理と道理が同義だって、いい加減学習するべきだとは思うけれど、


――だからって朝まで空調が直らなくても、絶対に俺のせいじゃない。





【熱帯夜】
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