「俺と煙草と、どちらか選べと言われたらどうします?」 床に寝転がる横顔を覗き込んで、和希が訊く。 「…誰が言うんだ」 「だから、例えばの話ですよ」 一体、今度は何を思いついたのやら。 頭脳明晰、ずば抜けて優秀なはずの恋人は、時折突拍子もない話題を振って、中嶋を困惑させる。 悪意はないのだろうが、それが逆に問題で、 安っぽい女の様なことを訊くなと言ってやりたいところでも、コレの場合、その後が何かと厄介だ。 「何が前提だろうと――…」 「あッ、別に煙草より俺を選んで欲しいわけじゃないですからね?」 訊いてもいないのにわざわざ牽制して見せても、 そう言って欲しい…むしろ言え――と、眼が語っているが? 「欲しいわけじゃないならなんだ」 「5/31は世界禁煙デーなんですよね。 で、愛煙家の心理面から、新たな禁煙補助剤の開発を推し進――中嶋さん!人の話は最後まで…」 「くどい」 禁煙する気など、端からないのを知っているくせに、仕事にかこつけての、遠回しな物言いも気に食わない。 ごろりとラグの上で寝返りを打ち、強引に話を断ち切る。 こういうときの和希は、大抵無駄に食い下がってくるものだが。 「中嶋さん――…、 完全に禁煙しろとは言いませんが、せめて本数を減らす努力くらいしてみても…」 「禁煙するつもりも、お前を手放す気もない。諦めろ」 え、と僅かに頬を赤らめて躊躇し、すぐに軽くあしらわれただけと気づいて、 難攻不落な峰のような背中に向かって、和希は深々とため息を吐く。 「じゃあ――やめてくれないなら別れますよって言ってもですか?」 「できるものならな」 それを選び取れるものならやってみろ――と、 素っ気なく自信満々に即答されて、今度こそ和希は口を噤んだ。 中嶋にしてみれば、そういうことを堂々と言ってのける和希のほうが、余程自信たっぷりに思えるのだが。 「で、どうする気だ?」 再び向き直って、隣に横たわる相手にのうのうと問えば―― 「どう…って、そうですね」 和希はわざとらしく頬を掻き、考えるそぶりで小首を傾げる。 「中嶋さんが、俺より煙草の方が大事だって言うなら仕方ありませんけど?」 そう言って微笑うコイツは、誰よりしたたかだ。 確かに、そう易々と手放せない辺りは、ニコチン以上かもしれない。 【5/31 世界禁煙デー】 Copyright(c) monjirou +Nakakazu lovelove promotion committee+ |