センター試験から戻ってきた中嶋さんに労いのつもりで、 「お疲れさまでした。どうでした? 都内はひどい雪…」 「…ああ、そうだな」 らしくないずれた返答に、まさかこの人に限ってありえないことだが、 捗々しい結果を得られなかったのかも…と、丹羽(前)会長にこっそり探りを入れると、 返ってきたのは全く予想もしなかった答え。 「あ〜どっかの私立校のバカ共が、聞こえよがしにウチのガッコの陰口叩いててよ」 「まさかそれで喧嘩…」 「いや?いつも通り鼻であしらって無視してたんだが、実はヒデのヤツ結構頭にきてたらしくてさ」 「そんなこと珍しい…ですよね」 「だろ?んで、終わってからそいつら見つけてなんか言ってやったみてぇで、すげぇ勢いで、震え上がって逃げてったぜ」 「………うわ」 その光景がありありと眼に浮かぶから怖い。 きっとその相手は、寿命が10年は確実に縮んだに違いない。 それにしても… この学園に関しては、様々な声が上がっているのを知っている。 特殊な入学選抜。授業方針。 誹謗、中傷…反発を受けるのは、それだけの脅威があるからだと自負してもいる。 けれどそれが生徒にまで飛び火するなど。 しかも大事な入試中に。 考えれば考えるほど苛立ちが募る。 中嶋さんに対してだから、というのは当然ながら大きい。 もちろん他の生徒に対してだって同じように思うだろうが、度合いが違う。 申し訳なくて――傲慢な思いとわかっていても、渦巻く憤りを抑えきれない。 「中嶋さん…」 「どうした?悲壮な顔をして。自社株が暴落でもしたか」 勉強の邪魔を詫びて部屋に伺えば、相変わらずの口調で出迎えられ、必死の思いが挫けそうになる。 ただひと言謝りたくて――言えばきっと、お前に謝られる必要などないと退けられるだけ。 それでも、どうしようもない感情をどうにかしたかった。 「――すみま…せんでした」 「…なにがだ」 「不愉快な思いをされたと聞いて」 「…丹羽か。――別にお前の責任ではないだろう。他人にイラつくのも俺の勝手だ」 「それはもちろん…そうですが、大事な時期にと思うと悔しくて」 「ふん…また随分と見括られたものだな。自己採点の結果でも見せればお前は納得するのか」 比較的穏やかだった話しぶりから一転、 がらりと変化する声音、そして眼差しに、知らず僅かに後退り、怯えて、ではなく反射的に背中が竦んだ。 「それで? 結局お前は何が言いたい」 付き合いだしても基本的な部分は何も変わらないこの人を、時折本気で怖いと思う。 今だって――強引に抱きすくめられなければ、きっと。 「中嶋さ…」 「妬みなど今更だろう。何をそれほど気を揉む必要がある」 「貴方に迷惑が、と思った時点で理性が飛んだみたいです」 「――そうか…俺もあまり他人のことは言えないな」 「え…?」 キス…されるのかと思った口唇は、面を素通りして耳元へ。 「お前を侮辱されて、逆上した」 「まさ、か…」 それ以上は問わず答えず、黙って強く肩を抱きしめられる。 幻のような言葉に、戸惑うばかりの、午後。 【センターその後】 Copyright(c) monjirou +Nakakazu lovelove promotion committee+ |