今週末は、ついにセンター試験。

「――いよいよですよね。あ〜ドキドキします」
「お前が緊張してどうする。…あぁ、お前の時代にはなかったシステムだからな」
「は?」
「共通一次世代だろう?」
「な、中嶋さんッ。俺をいくつだと思っ…」

…全く、この余裕は何処からくるのだろう。
明日はもうセンター初日だというのに、参考書を開くでもなく、ソファに足を投げ出して寛いでいる。
こんな受験生…きっと捜し出すほうが難しいに違いない。

「いいですよもう。人がせっかく…」
「せっかく?」
「何でもありません。大体、俺は貴方ひとりの心配をしていたわけじゃなく、
 理事長として、学園の生徒の――…」
「結局心配をしていたのには変わりないんだろう? その他大勢の中のひとりでも、な」
「〜〜っ」

さも自信あり気に、どうなんだ?と覗き込んでくる中嶋さんの眼は限りなく近い。
ソファの上のその人の、膝の間にいる自分。
向学心(?)を妨げている一番の原因も、もしかして自分?

しっとりと前に廻された腕の中は、何より何処より、心地いい空間だから、
手放すのは惜しい…なんて、矛盾もいいところだ。


「…誰も、中嶋さんがこんなところでつまずくとは思ってませんよ」

足切りのあるT大だって、中嶋さんの偏差値なら楽勝だろう。
だけど心配…不安は、それと違うところに存在している。
もっとずっと、胸の深い、場所。


「――もうそろそろ休んだほうがいいんじゃないですか?」
「明日に備えて、か?」
「ええ」
「そうだな…」

殊勝な同意の割には、腕が解かれる気配もなく、身体を解放しようとする様子もない。
その上、

「中嶋…さん? なに…を…」
「明日に備えて早く休むんだろう?」

耳殻の裏側に鼻先を埋めて…って、そんな言行一致聞いたことない。

「中嶋さん…っ」

これでは明日に備えて休むどころか、却って恐ろしいことになりかね…な…い。

全く…人の気も知らないで、と訴えたいところだけれど、それはそれで墓穴のような。

「安心しろ。浪人してもお前が養ってくれるらしいからな」
「は、は…い?」

今…限りなく論旨のずれた言葉を聞いた気がするけれど、
訊き返す余裕は、残念ながら…ない。







【明日はセンター初日】
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