そろそろ3学期が始まる。 いくら3年だからって、いくら始業式程度だからってサボるのはどうかと思うのに、 中嶋さんは一向に寮に戻ろうとしない。 こっちの仕事はとっくに始まっていて、だから自分も否応なくマンションに戻ってくるしかない。 日中…留守の間、中嶋さんは何をしているのか、部屋の中はほとんど動かされた形跡もなく、 大抵ソファーの上で帰宅を待っているのが常。 そういえば、こんな怠惰な生活を送る中嶋さんの姿を見るのは稀なこと。 学生会役員だった頃は、日々雑務に奔走して、ゆっくりのんびり…なんてまずありえなかった。 だからなんとなく咎められずに、今日もそれを許してしまう。 「――ただいま戻りました」 「ああ、お疲れ」 誰かの「お帰りなさい」を聞くのも久々ながら、この人に迎えてもらうのもまた新鮮で、くすぐったくて… やっぱり素直に嬉しいと感じる。 「中嶋さん、夕飯は?」 「まだだ。お前は?」 「俺もまだなんです。どうします? 何か食べに行きましょうか」 「お前さえよければ何か作ってやるが…どうする」 「え…っ」 はじめからそのつもりだったのだろうか、材料もすでに買い込んであると言う。 何より驚いたのは、この人が自らキッチンに立つということで、 家政婦がいるような家で育った中嶋さんが?と思えば、どう反応していいやら途方に暮れるばかり。 どうせそのうち独り暮らしだと返されればその通りで、 何をやらせてもそつなくこなす中嶋さんらしく、出された夕飯は間違いなく美味しかった。 「――ご馳走様でした。ここまで何でも出来れば、中嶋さん、どこでも生きていけますね」 「ああ、ヒモ生活もそう悪くない。――お前に養ってもらうのもな」 「え…?」 もちろん本心ではないと知っている。 志望するT大法学部を卒業後は、法曹界へ。 エリート弁護士への道は真っ直ぐに開けているといっていい。 前途洋々――なんて、この人のためにあるような言葉だろう。 なのに、ありえない期待を抱くのは、自分がそれを望んでしまうからだ。 あと数ヶ月もすれば、こんな風に過ごすこともなくなる。 学園内ですれ違うことも――こっそり寮の部屋へ忍んで行くこともできない。 「中嶋さん…」 「なんだ」 「明日はハンバーグが食べたいです」 憮然とする中嶋さんの隣に腰掛け、身体を預けて寄りかかる。 確かにこんな生活も悪くない。 「もし――もしも将来、路頭に迷うようなことがあったら、真っ先に俺を頼ってくださいね?」 中嶋さんは微かに笑って、静かに肩を抱いた。 ずっと一緒にいられたらいいのに。 それを伝えることはこんなにも難しい。 【1月7日】 Copyright(c) monjirou +Nakakazu lovelove promotion committee+ |