夜遅く、中嶋さんが部屋にやってきた。
元日の電話から、1日置いての今日。
2日、3日は、新年絡みの面倒な予定が早くから入っていて、それで結局こんな時刻。

何処かへ出かけるには遅すぎる。
映画でも行きます?って一応訊いてはみたけれど、あっさり却下された。

慌てて買い揃えたカップでコーヒーを飲み――何しろこの部屋には、客をもてなすためのものが一切ない。
TVさえない。

外での仕事が遅くなって、寮に戻りそびれたときにただ泊まるだけの部屋――…

「……」

気まずい、なんて考えているのはきっと自分ばかりで、向かい合う当人は至って平静にカップを口に運んでいる。

 ――そういう人だってことは、嫌って程知ってるけど…

「俺の顔に何か用か」
「は? あ、いえ、何でも」

言いながらも、視線を逸らせない。
急に――本当に唐突に、心臓が眼の前の人を意識した。
綺麗な手だなぁとか、嫌味なくらい整った顔立ちだなぁとか。

散々知っているはずなのに、やっぱり眼が…離せない。

「――中嶋さん…」

何の前振りもなく、キスしたい、なんてキモチを抱いた自分を認識して少し恥ずかしかった。
いい歳をして…って。でも、

「なんだ、遠藤」

若い頃と違うなら、今の歳に相応しい行動だって可能だろう…そう考えるのは単なる言い訳か?

さり気なく席を立って、向かいの人の脇に立つ。
さすがに怪訝な顔をして見上げてくるその人の、口元を狙って屈みこんだ。

それなりの人生経験分、もっとムードとか雰囲気とか、そんなものだって用意できるのだけれど、
この人に限っては、そういうもの一切必要ないってわかってる。

いつもの意趣返しも含んだ不意打ちのキスに、
やや驚いた気配が、触れた口唇越しに伝わってきてなんとなく嬉しい。


「…酔っているのか?」
「――酔ってなど…いませんが」
「酒臭い」

いかにも迷惑と言わんばかりの冷めた眼に、気持ちを押し留められてしまえば、意外なほど身に堪える。

「そりゃあ…あちこち新年の挨拶回りをしてきましたから、乾杯くらい――」
「女臭いのもそのせいにするのか」
「え…ッ」

反射的に身を引いて、その値踏みするような視線を正面から受け止めると、

「俺を襲うなら、シャワーくらい浴びてからにしろ。それとも…」

いつもの如く不遜に言い放ち、ぐいと肘の辺りを掴まれ、

「――正月早々、何を企んでいる?」

その言葉を聞いたのは、中嶋さんの腕の中。
いとも容易く絡め捕られて、耳元に淫猥な響きで吹き込まれる。

「な、にも…」
「そうか。なら俺の思い込みだな。お前が、酔って据え膳になりたがるなど」
「え?中嶋さ…って、うわ!ちょっと待っ……」


 ――今年はどんな一年になるんだろうかなんて、すでに言わずもがな…か…?






【続・はっぴーにゅーいやー】
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