【愛の試験バトン】


(趣旨:[]内に指定されたキャラを当てはめそれでも愛せるか!!を問います。)


指定[中嶋英明]


◆箸が上手く使えない[中嶋英明]
◆蝶結びがどんなに頑張っても縦結びになる[中嶋英明]
◆スキップができない[中嶋英明]
◆横断歩道の白い部分だけ踏んで渡る[中嶋英明]
◆人見知りの[中嶋英明]
◆炭酸でむせる[中嶋英明]
◆毎日自動改札機に引っ掛かる[中嶋英明]
◆口癖が「ぶっちゃけ」の[中嶋英明]
◆猫を『にゃんこ』犬を『わんこ』と呼ぶ[中嶋英明]
◆回転ドアに入るタイミングが掴めない[中嶋英明]
◆何を思ったか自主製作に入る[中嶋英明]







◆箸が上手く使えない[中嶋英明]


寮の食堂で夕飯中、中嶋さんが、どうしたことか続け様に二度も、
里芋の田楽を箸で摘み損ねて取り落とすシーンを目撃してしまった。


「…何か言いたそうだな」
「え?いいえ何にも?」


否定してみたものの、真横の席での食事なら、嫌でも眼に入るに決まっている。


「魚もロクに食えないようなお前に、とやかく言われたくはないな」
「だから、何も言ってませんって」
「眼が語っている」
「被害妄想過ぎですよ?それ。たかが里芋…」


箸使いの拙さにはかなり自信があり、試しに自分のトレイで挑戦してみれば、
何故かこんなときに限って、小鉢の芋はいとも容易く和希の箸に身を(実を?)委ねてくる。


「あれ…?」


ダメ元が功を奏したのか、何にしても英明の不機嫌な眉間に益々皺を増やしたことに違いはない。


「た、たまたまです、たまたま…」
「…ふん」


そこまでムキにならなくても…軽く苛立ち、売り態度に買い言葉で言い返した。


「中嶋さんにはひとつくらい欠けたところがあってもいいんですよ。ただでさえ完璧なんですから、ちょっとは可愛げがないと」
「残念ながら、そんなものがなくても十分生きていける」
「そうかもしれませんけど、他人に与える影響って以外と…」
「第一、俺を完璧な人間だなどと思うのはお前くらいだ」
「…は?」


薄ら寒い気配に、恐る恐る隣を見れば、今度こそしっかりと芋を捉えた箸先がまっすぐこちらに近づいてくる。
行儀が悪いですよ…ってつっ込むべき場面だったのに、つい条件反射で口を開けてしまった。


「お前は、俺を好き過ぎなのが欠点だな。それと箸使い」
「な…んですか急にッ」
「違うのか?」
「違……いませんけど…」


尻すぼみなのを、口の中の芋のセイにして誤魔化した。








◆蝶結びがどんなに頑張っても縦結びになる[中嶋英明]


「あれ中嶋さん、靴紐ほどけてますよ」


放課後の学生会室。頼まれた資料を運んできたところ。
ふと副会長の足元に眼がいった。


「あぁ…」


モニタから顔を動かしもしないで生返事――気づいているけどそれどころじゃない?
それとも?


「結んで欲しいんですか?俺に」
「……」


微動だにしなかった頭が、ゆっくりとこちらに向けられる。
――お前、いきなり何を言い出す…かな? あ、でも中嶋さんならきっともっと、


「そういう場合は、『結ばせてください』と懇願するものじゃないか?」


そうそう、こういう場合は…って、


「ち、違いますよ!勝手に何言ってるんですか、もう…」
「妙なことを言い出したのはお前だろう」
「だって気になるんですよ、そういうの。こっちが落ち着かない」
「それで結ばせろなどと口にするのはお前くらいだ」
「え、いや、なんかそういう…電波が来てたんで」
「……お前のギャグはどうしてそうわかりにくい」


別に狙って言ったつもりは…ないんですけど…
頬を掻く和希の前でくるりと椅子を回転させ、わざわざ脚を組み直した英明の無言の主張を、
今度は間違えたりしない――


「はいはい」とこちらも胸の中で呟き、抱えていたファイルを机に置くと、足元にしゃがみ込んだ。
綺麗に磨かれた学園指定の革靴。よくよく見れば、もう片方の靴は、


「中嶋さん、こっち縦結びになってますよ?」


指摘すれば相手は再び無言で足を左右に組み替える。
こっちも結び直せって?別にいいですけどね…
ちょうどそこへ、鼻歌交じりで王様が出先から戻ってきたらしく、ドアを開けるなり固まった。


「……お前ら、何やってんだ…?」


確かに傍から見たら異様な光景だろう。副会長の前に跪いている1年生。
跪かせているほうはやたらと尊大で、しかもそのポーズが似合うのがまた…


「あ、いえ今、中嶋さんの――」
「主従プレイだ」
「な…ッ」


王様が呆れるより、こっちが叫び出しそうだった。


「ななな何言ってるんですかッ!」
「傅(かしず)きたい欲望を叶えてやるのも一苦労だ。なぁ遠藤?」


「――っ…て……えー?」


項垂れて靴紐を凝視する。
至らない下僕には、貴方の本心が見抜けません…ご主人様。








◆スキップができない[中嶋英明]


「中嶋さん…って、スキップできます?」
「…………なんだと?」


どうしてこいつはいつもいつも、人畜無害な顔をして、突拍子もなく妙なことを言い出す…?
どうせ井戸端のババァ並に、伊藤と昔話でもしていたんだろうが――


面白い。


「できる――と答えれば、やって見せろと言うんだろう?」
「え…えーと?特にそこまでは…」
「いいだろう。――さっさと脱げ。ただし痛い目を見るのはお前のほうだぞ」
「…へッ?」
「何を躊躇っている。無理矢理剥かれたいのか?」
「ちょ、ちょっと待っ…」


じわじわと追い迫れば、相手もじりじりと床に付いた手で後ろに下がっていく。


「どうした。お前たっての希望だろうが」
「えーと、何かその…語弊があるようなんですが」


言いながら後退るも、残念なことに部屋には壁際という限界がある。


「どんな語弊だ?説明してみろ。聞いてやってもいい」


背中が行き止まりに気づいたらしく、一瞬ちらりと背後を気にした和希に一気に詰め寄って、
まるで訳がわからず涙眼になっている、その目蓋の上にまず口付ける。次いで額に。それから頬にも。


「わかっ…てるくせに…っ」


それでも気丈に反論しようとする口唇を奪い、最後に、


「――を…すっ飛ばしてくれ、の意味かと思ったが?」


一際卑猥に強調して吹き込んだその単語に、和希の身体だけが正直に反応してみせる。


「な…ッ」


見る間に染まった頬や耳元、腕の中で無意味にもがいてみたり、どうしてお前はそう…


「悪いが、やはりして見せてやれそうにはないな」
「――悪いなんて思ってないでしょう…?」
「お前はどっちがいいんだ」
「訊かないでくださいよ…そんなこと…」


甘えた声で英明を捉えて、自らせがむように首筋に絡みついてくる。
どんな意味で受け取るにしても、どうやら、初めから無理な注文だったらしいな。








◆横断歩道の白い部分だけ踏んで渡る[中嶋英明]


一緒にいても案外知らないことが多い…って気づかされる瞬間がある。
学園にいるときの中嶋さんは、滅多に急いだり焦ったりしない。
常に冷静で沈着な参謀そのものの顔を見せている。それが…、


「――中嶋さん、ちょっと待っ…」


いつもの帰り路。今日はやけに急ぎ足で寮へと向かうその人を、慌てて追うが、とても追いつけそうにない。


「ど…、どうかしたんですか?」


駆けながら呼びかけても、あと少し、数メートルの距離が縮まらないのは何故だろう。
歳のせいだとは思いたくない…のだが。


「何がだ」
「なにって…中嶋さんが急ぐから――」


知らず息が切れていて、疑いは益々濃厚になってくる。


「別に。いつも通りだ」
「いつもの倍は早いですよ。だから何かあるんですかって訊いて…」
「単にコンパスの差だろう」
「…そんなに身長変わりませんよ」


不意に、路の真中で足を留めて振り返った中嶋さんは、実に不満気な表情。
どうせ脚の長さは違うって言いたいんだろう――


「何でもないんならも少しゆっくり…」
「年寄りを労われと?」
「誰が年寄りですかッ――あ、わかりました!さっきからほら…横断歩道の白いトコしか踏んでないからそんなに大股なんですよ」
「あぁ?」


中嶋さんの眉がぴくり、と跳ね上がる。


「アスファルトを踏むとドボンとか、子どもの頃――…」
「生憎お前とは世代が違う。そんな遊びは聞いたこともない」
「えー…って、うわ…ッ!」


つかつかと数歩戻ってそのひとは、矢庭に和希を丸ごと肩に担ぎ上げた。


「ちょ、何す――」
「これで何処も踏まずに済む。疲れもしない。一石二鳥だ。感謝しろ」
「じ、自分で歩けますよっ」


人目があるなんて気にもしないのか、ぱらぱらと下校中の生徒の只中を、中嶋さんはさっきより更に大股で歩き出す。


「――全く…くだらないことを想像するくらいなら、急ぐ理由に思い当たればいいものを」
「えっ?」


呟きは遠すぎて届かない。
この後何処へ直行なのか…は考えたくもない。








◆人見知りの[中嶋英明]


「あの人は…滅多に他人を懐に入れたりしないでしょう?
 孤高の存在を気取っていますけど、あれは単なる人見知りなんですよ」
「人見知り…」
「おや?僕の言葉は信じられませんか?
 だったら丹羽会長にでも訊いてみたらいかがです?きっと面白い話が聞けると思いますよ」


最大の敵であるところの七条の言葉も、英明ならおそらく一笑に付して終わりだろう。
ただ、他人を寄せ付けないあの人のオーラに、うっかり納得してしまいそうなのも確かで、
果たしてそれを人見知りと呼んでいいものかどうか――ぶつぶつと考え込みながら学生会室へ戻ってくると、
会計室に遣いに出される前まではいたはずの中嶋さんの姿が見当たらない。
代わりにいつの間にか王様が戻って、珍しく真面目に机に向かい、仕事をこなしていた。


「あれ、会長…」
「おぅお疲れ〜。ヒデなら今――」
「…あ、あの、王様」


狙ったようなタイミングは、誰かにそれを訊け――と促されているようで、


「なんだ?」
「中嶋さん、って、1年の頃…どんな…」
「あァ?」
「あ!いえ…やっぱり何でも…」


いざ口に出してみれば、それはあまりにも禁忌に思われ、即座に撤回するも。


「――俺が何だって?」
「だッ…」


背後から音も立てず、その人はいきなり姿を現した。
落ち着いてよくよく見れば、マグカップをふたつ手にしている。
不在と早合点しただけで、どうやら奥でお茶を淹れていたってことらしい。


「なんだよヒデ、俺の分は?」
「勝手に水でも飲んでいろ」
「…ケチ臭ぇの。なぁ遠藤〜?」
「え…?」


確かにふたつのマグと湯気。
誰しも不思議に思うのは当然で、説明なんて端から期待できない方じゃなく、確信的に王様に視線を送る。


「あぁ、お前がそろそろ戻って来っからって、ヒデのヤツコーヒー淹れ――」
「哲也…どうやら仕事を増やして欲しいようだな」
「好意の出し惜しみすっからだ」
「お前にやる好意ならこれで十分だ」


ファイルの束を王様の机にどさりと移し替えると、山影となったその向こうから声にならない悲鳴が聞こえる。
ふたりの遣り取りを眺めながら、
もしも中嶋さんと、理事長という形で出会っていたら、今のような関係にたどり着けただろうか…って不意に思った。
人見知りでも、そうじゃなくても、どっちでもいいから。


失くしたくない――大切な手。








◆炭酸でむせる[中嶋英明]


夏休みが10日ほど過ぎたある昼下がり、和希が疲れた顔で不意に学園にやってきた。


「啓太!久しぶり〜元気してたか?」
「う、うん…和希こそなんかくたびれてるけど大丈夫?」
「あ〜ちょっといろいろあってさ。あ、皆は?」


がらんとした学生会室。夏休みだって仕事は山盛り。
3年生は午前中特別講習があって、だからその後集まるようにって副会長からの指示なんだけど…


「…いつも通りってことか」
「うん…」


何も言わなくても和希は事情を悟り、苦笑する。


「――おッ、遠藤。お前生きてたのかよ」
「あ。」


噂をすれば〜ってヤツなのか、そんな話題の最中、いきなり王様がドアから顔を覗かせた。
その背後には、滅茶苦茶不機嫌そう〜な中嶋さんの姿も見える。


「お久しぶりです…なんか、日焼けしてません?丹羽会長」
「毎日毎日外をほっつき歩いてれば陽にも焼ける。探し出すこっちの身にもなれ」
「ちょーっと休憩してただけじゃねぇかよ…朝から晩まで机にかじりついてられっか」
「――相変わらずですねぇ」
「そう言うお前は何の用だ」
「あ、そうそう。差し入れを…持ってきたんですよ。――喉、渇いてません?」


和希はそう言って、手荷物からペットボトルを数本取り出した。


「一応まだ冷えてると思うんで、よかったらどうぞ」
「おぅ、気が利くじゃねぇの」


王様が真っ先に手を伸ばして受け取ったそれ、コンビニでもあんまり見たことない風な。


「はい、啓太」
「あ、ありがとう…」
「今度ウチから出す新商品なんだ。感想聞かせてくれよ」
「へ〜和希ってこういうのも作ってるんだ」
「製薬会社の飲料ってどうしても栄養ドリンクのイメージがついて回るだろ?
 それで、今回は固定概念を払拭するような炭酸飲料をってことで…あ、中嶋さんもどうぞ?」
「俺はいい」
「普段飲まないような人にこそ飲んでもらいたい、がコンセプトなんで、是非」
「……」


珍しく強引な和希の口調に、中嶋さんはちょっと眉を顰めて、それでも、


「ひと口でいいなら飲んでやる」


なんだかんだでやっぱり和希には甘いのかなー
きっと久しぶりに会ったんだと思うのに、さっきからふたりともやたら素っ気ない素振りだけど。


「どうだ?啓太」
「あーうん結構美味しい。コーラでもないし、サイダーでもないし…これ何?」
「それは企業秘密。甘くないしクールでピリッとしてるだろ?今までにない味が売りなんだ」
「経営者が営業に回るほど、お前のところは逼迫しているのか?」
「勘弁してくださいよ。今日は…ちょっと他の用件もあったんで」
「他?」
「えぇ…単刀直入に言いますね。――中嶋さん、この商品のCMに出ません?」


あ…今、天然記念物並みに珍しいもの見た…
あの中嶋さんがジュース噴き出した挙句にむせてるって…


「――だ、大丈夫ですか?」
「…お前、暑さで頭がどうにかなったんじゃないのか」
「いえ本気です。中嶋さん以上に、この商品に相応しい人間などいないというのが結論ですので。
 これはお願いの段階ではなく、正式な依頼と思って頂ければ」
「頭の空っぽなタレントくらいその辺にいくらでも――いや、そういうレベルの問題じゃない」


さすがの中嶋さんもかなり動揺してるみたい…いつもの理路整然な反論が的外れだ。
和希ってば…私情入れすぎなんじゃない?って、まさか本気――

まさかね…?








◆毎日自動改札機に引っ掛かる[中嶋英明]


「またですか?」
「ああ…」


うんざり顔で、溜息をひとつ。
夏休み中の現在、夏期講習で毎日島の外へ出ている中嶋さんは、帰宅するたびこんな具合。
何でも、地下鉄の自動改札を通ろうとすると毎回毎回、前を行く人間が改札を強行突破していくらしい。
その煽りを食うカタチで、中嶋さんが被害を被っている…と、
そういうわけで、溜息は増すばかり。眉間の皺は深くなるばかり。


「お前が夏期講習など勧めるからだ」


なんて、うっかりするとこっちにまで火の粉が飛びそうな按配。
電車自体そう乗る機会もなく、そんなに頻繁に自動改札で不正がまかり通るものなのか…
それさえよくわからない…のだけれど。


「あの、ひとつ…訊いても?」
「なんだ」
「それって毎回同じ人なんですか?」
「さぁな。いちいち見てもいない」
「つまり捕まってもないってこと?」
「駅員もそれほど暇じゃないんだろう」


益々よくわからない。鉄道会社にとってはさほどの損失じゃないってことか?
コスト管理は企業経営の要…いや、今はそんなことはどうでもいい。


「もうひとつ訊いても構いませんか」
「…お前は俺を労わろうという気はないのか」
「そんなことありませんけど…中嶋さん自身は、その人間を捕まえようとは思わない?」
「生憎、無駄な労力は持ち合わせていない」


言うと思った…
でも中嶋さんって、将来は弁護士を目標としているはずなのに、義憤に駆られたりとか――しないんだろうか。
しないんだろうな。


「――遠藤」
「はい?」
「くだらないことを考えてないで、労われと言ったはずだが」
「十分労わってるつもりですけど?」


ひとの膝の上に寝転がって、この上更に何を要求するんだか全く。


「足りない」
「ハイハイ」


夏期講習が入ったことで、益々会える時間が少なくなったこと――実は結構根に持ってるのかも。
ホントに、ヘンなところで高校生なんだから。


膝にこぼれる髪を指先で優しく梳けば、中嶋さんは眼を閉じて、ちょっと幸せそうな顔。
思い込みかな、と苦笑いしつつ、眉間にそっと、キスをひとつ。








◆口癖が「ぶっちゃけ」の[中嶋英明]


「――これで、どうです…か?」


白の駒を動かして、リザインするかと視線で問う。
負けを素直に認めたくない対戦相手は、眉根を寄せて指先で黒のキングを倒す仕種をした。
中嶋さんとのチェスの対戦成績は今のところ五分五分。
だけど今日だけは絶対に負けるわけにいかなかった。ある意味モチベーションの勝利、だ。


「じゃあ、約束通り今から実行してもらいますから」
「………」


さっきからずっと黙ったままなのは、不満だから、だろう。
敗北など微塵も予想していなかったからか、それより罰ゲームの内容が不満だからか。


「言っときますけど、勝ちは勝ちですからね。反故になんて――」
「……わかっている」
「そこは『わかってるっスー』ですよ?中嶋さん」
「………」


あ、まただんまり。


「黙ってやり過ごそうなんてのも認めませんよ」
「…わかっていると言っただろう」


そのくせ、どうやっても実行する気はないらしい。
罰ゲームを指定した自分だって、そんな中嶋さんは見たくないのが本音だったりもするが。


「俺にはあんな提案をしたくせに、ズルイ人ですね全く。仮に俺が負けても、絶対に許してくれないくせに」
「お前が全裸で執務をしたとして、取り立てて文句を言う人間はいないだろう」
「だッ…!」


負けたら全裸で執務、が和希に与えられるはずだった罰ゲーム…むしろお仕置きレベル?
例え来客を全てシャットアウトしたとしても、秘書だって所員だって、ついにボスの頭がいかれたとしか思わない。
誰がそんな要求を飲めるか!


「この変態…」
「何か言ったか」
「相変わらずしょうがない人だって言ったんですよ。仕方ないんで、おまけしてあげます。
 『ぶっちゃけ』ってそれだけで構いませんから」


人差し指を立てて、にっこりと譲歩案を提出する。
負けたら一日若者言葉で喋ること、が、中嶋さんへの課題だった。
マジヤバいっスーとか?想像すると…ちょっと笑…


「ひとつ訊くが」
「はい?」
「お前、意味はわかって言っているのか」
「えーぶっちゃけですか? ぶっちゃけ……ぶっちゃける…んですよ…ね?」
「意味もロクにわからずに、人に強要するなど愚の骨頂だ」
「し…知らないなんて言ってませんよ!またそうやって誤魔化そうとして――…」
ぶっちゃけた・・・・・・話…お前の全裸をネット配信するのもよさそうだと考えている」
「は…ぁッ!?」


まるで言葉が続かず、ただ口をアホみたいに開けている和希に対し、
中嶋さんは頬杖で、チェス盤の向こうからいかにも帝王たる薄ら寒い笑みを浮かべてみせる。


「こんな話でよければ、いくらでもぶっちゃけてやるが?」
「――ひ…卑怯者!」


何と言い返したところで、相手にさほどのダメージも与えることができない。
そんな自分が一番腹立たしい。








◆猫を『にゃんこ』犬を『わんこ』と呼ぶ[中嶋英明]


「中嶋さん!見てくださいコレっ」


歳甲斐もなくはしゃいで駆け寄って来る和希の手には壁掛け用のカレンダーらしきもの。


「取引先からなんですけど、カワイイでしょう?」


頬をつねってやりたくなるほどに喜色満面で捲ってみせるそこには、猫やら犬やら、カレンダーにはよくありがちな素材。


「これ、学生会室に飾っても構いませんか?」
「…この部屋に残っているのは、引継ぎだけだが」
「わかってますよ?」
「なら、すぐに剥がされて可燃ゴミ行きだな」
「そんなこと――!西園寺さんだって気に入るに決まってますよ絶対!だってこんなにカワイイのに!
 ここ!この6月なんてもう〜〜見てくださいよ、このコめちゃくちゃカワイイでしょう?」
「………」


どうしてそこまで…しかも頭の弱い女子高生並にボキャブラリーが貧困になる…?
たかが猫の子ごときで。


「…やっぱりにゃんこっていいですよね〜?」


半ば呆れて和希の言葉も半分聞き流し気味。だからいきなり同意を求められても返事に困る。その上、


 ――にゃんこ…?


「あ、中嶋さんはわんこ派ですか? 子犬もいいですよね〜タレ耳なんて特に」
「ワン公でも椀子蕎麦でもどっちでもいい。勝手にしろ」
「…中嶋さんがそんなネタ口にするの、珍しいですね」


ほとほと呆れて放り投げただけの言葉に、逆に呆れ顔で返球されると三倍増しで腹が立つ。


「呼び方など何でも同じだ」
「え〜全然違いますって!可愛らしさが。わん公なんて…えて公(※猿)みたいじゃないですか」
「古いなお前…」


いい加減切り上げないと、本当にいつまでもキリがない。
こういうときだけ、どうしてそうしつこいんだお前は。


「犬でもわんこでも、猿でもえて公でも、猫でもにゃんこでも畜生に変わりはない。それで納得しろ」


してくれ。頼むから。


「…じゃあ、中嶋さんも同類ですよね」
「――何」


到底納得したとは思えないが、遠藤は妙にしれっと切り返して来た。


「ほら!鬼畜の蓄は畜生の蓄。でしょう?」


にんまり――という表現がまさにしっくりくる顔だった。


「ほぅ…」


それならばと、殊更冷静な声音で以って、眼鏡を押し上げる。


「なら、その"人でなし"にいかがわしいことをされているお前は――…」
「…さぁ、なんでしょうね?」


しっとりとした眼差しで、艶かしく英明を見上げてくる和希に、この勝負は負けだと悟った――








◆回転ドアに入るタイミングが掴めない[中嶋英明]


 鋭意執筆中である予定








◆何を思ったか自主製作に入る[中嶋英明]


  「自主制作?あぁインディーズのレコ…CDとかが有名だな。
 最近は、エッセイやら自分史やら自費出版する人も多いって聞くけど。
 で?啓太も何か作りたいのか?

 そうだなぁ…小さい頃からの写真も収めて、写真集なんてどうだ?
 100万刷ってもいいよ、俺が全部買い占める。隠れたミリオンセラーって話題になるぞ。
 え?ヤラセ?ん〜大手流通に載せてもいいけど、可愛い啓太の写真が不特定多数の人間の手に渡るのは嫌だからな。

 ん?中嶋さん?が自主制作…う〜んそうだなぁ、あのルックスだし、若い女性には受けるだろうから、
 ダイエット――シェイプアップ目的の空手道DVDなんてよさそうじゃないか?
 但し口が悪いから、ナレーションは別録で。いや…今は案外自虐趣味の人間も多いのかもしれないな。


 何だ啓太、商魂逞しいって…あ、中嶋さん、いつから居たんですか?
 そりゃあコレでも商売人の端くれですからね、儲け至上主義とは言いませんけど、プロですよ。
 例えば学園のイケメンを揃えてCD、DVD、写真集、映画…とメディアミックス展開させるとか。
 学園運営資金を補填できますしね。

 西園寺さんと七条さんなら、表向きマナーの教則本、で、内容が主従関係の濃い世界。マニア向けによさそうでしょう?


 …あれ、啓太がどっか行っちゃいましたね。
 何言ってるんですか、呆れてなんかないですよ。俺は理想を語っているだけですから。
 妄想の間違い…って失礼な。大体中嶋さんの方が、絶対的にアヤしいもの作りそうですよ。
 例えば?例えば…いやらしい…ビデオとか映画とか…? ち、違いますよ、願望なんかじゃありませんって!

 わぁあッ!

 ちょっと!何してるんですか! …っっな、何って、手!手!何処触って…っん!

 ――あ、わ、わかりました、中嶋さんの作りそうなもの…




 訊かないんですか?えっ?くだらなくなんか――聞きたかったら手、離し……イヤって…
 そ、そりゃ口は自由ですけどね、はぁ…


 その性格、絶対独裁者向きですよ。だから、独立国家なんてどうです?ありえそうでしょ?
 日本じゃミニ独立国家が関の山ですけどね…
 貴方の国だったら――やっぱりpresidentかな。国王よりそっちですよね。俺は住民その一で――…


 あ、いえ、なんでもないです。え、だってどうせくだらないって言うに決まってます…

 ホントですか?…笑いません?


 あの、ふたりしか居ない国っていいなって思って……あ、やっぱり笑う!

 えぇ?言いませんよ、啓太を呼ぼうなんて。
 え、なん…『お前は必然的に…First Consort(大統領配偶者)だろう…』?

 ああそれだと、他に国民が居ないと確かに困りますよね。


 ――ニヤけてませんよ!全然! これが地なんです」




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