「Trick or treat?」


まさにハロウィンのその夜、勇んで突撃した先で、まさかの先手…


「――お菓子よりお前が欲しい」


部屋に入るなり真顔で臆面もなくそう告げられて、動揺しない方がおかしい。
ましてやこのクールなご面相にだ。


「な…っ、んですか急にっ! 大体そんなこと言うの中嶋さんのキャラじゃないでしょう」


早口でまくし立ててから、それが彼なりの悪戯なんだと気付いて、二重の意味で赤面した。
英明は人の悪い笑みを口元に浮かべている。


「そ、それじゃあ逆ですし…」
「どちらでも同じだ。結局お前が悪戯される側なのには変わりない」
「ですからそういう…」


ハロウィンに突撃したところで結果は初めから分かり切っていたけれど、
こうもきっぱり言い切られると、こちらとしてはやはり立つ瀬がない。
冒頭のセリフにうっかりときめいてしまったとか、その時点ですでに十二分に口惜しいのに。


「trick of the senses…」
「ん?」
「――気の迷いだ…って言ったんですよ」


英明が怪訝そうな表情を微かに表した。
一瞬でも英明をカッコいいと思ったのなんて、気のせいだと――そう訴えたかったのだけれど、
贔屓目を差し引いても目の前の男はどこまでも、憎らしくなるほどに秀麗で、婀娜で。


「だけどせめて今日くらい、俺に優越感を味わわせてくださいよ」
「妙なことを言う。それは俺に、黙って悪戯されろということか?」
「だって甘いものなんて要らないでしょう?」


英明がまたしたり顔で微笑うので、こちらは益々ムキになる。


「――だから初めから言っているだろう?同じ甘いものならお前がいいと。
 …いつもと同じでは不満か」
「だっ、そっ…」
「なんだ?」
「…だけど結局、俺が悪戯されるんじゃないですか」
「不満か?」




不満に決まっている――というのをめいっぱい顔に出して後、忸怩たる思いで甘いものに成り下がった。
来年こそはと心に誓う。
返り討ちだと英明が囁く。









−了− 








【happy halloween'14】
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