誰よりも傍に居たいと願うほど、好きで仕方のない人がいた。

不様で惨めだと分かっていても、好きで仕方のない人がいた。

 

切なくて、苦しくて、それでも泣きたいほどあの人が好きで。

 

 

俺は、諦められない恋があるのを生まれて初めて知った。

 

 

 
 
 

せつない恋に気づいて.


 

 
 
 

「中嶋さん」

「遠藤か。どうした?」

「隣、いいですか?」

「あぁ、構わない」

 

学生会の仕事を終え、すぐに食堂に来たのか。

彼にしては早い時間に姿を見せた中嶋さんに、俺は素早く近づいて声をかけた。

 

「今日もB定なんですね。エビチリお好きなんですか?」

「此処のはちょうど良い辛さで美味いからな」

「俺にはちょっと辛いですけどね」

 

苦笑しながら隣に腰を下ろし、途切れそうになる会話を何とか繋いで行く。


きっと、傍から見れば滑稽な姿だろう、と思いながらも少しだけトーンの上がった声を抑える術が分からなくて。

俺は、1人で喋り倒すような勢いで口を動かしていた。

 

「・・・・・・・遠藤。少しは箸も動かせ」

「すいません、煩かったですか?」

「そうじゃない・・・冷めたら不味くなるだろう?好物は美味いうちに食え」

「え・・・・」

 

思わず目を見開いて、手を止めた俺の様子を訝しく思ったのか中嶋さんも手を止めて此方を見る。

 

「なんだ?」

「ど、して・・・好き、だって?」

 

口の中が乾いて上手く動かない舌をどうにか動かして、必死に出した声。

それでも掠れたようなそれに、恥ずかしくて頬に朱が上る。

 

「あぁ、啓太が以前言っていた。お前はハンバーグばかり食べると」

「・・・・・・・・・そ、う・・・ですか」

 

 

さっきまでは俺の好物を知っていたのか、と嬉しかった心が急に沈んで行くのが分かる。

“俺”だからじゃなくて、“啓太”が言っていたから。

 

啓太には興味があっても、俺にはない。

そんな風に言われたように感じて、俺は胸の奥が少し痛むのを感じた。

 

 

 

王様のように。或いは篠宮さんのように。

この人の役に立てるようになれば、傍に置いて貰えるのか。

 

それとも、七条さんのように。

いっそ、負の感情でも向けて貰えるようになればいいのか。

 

“好き”という想いが手に入らないのなら、“嫌い”という気持ちだけでも向けて貰えたら、こんなに苦しくなかったのか。

 

 

切ないほどの感情を、気づいてもくれない。

そんな中嶋さんの憎らしいまでの淡々とした様子に、急に息苦しさを覚え立ち上がる。

 

 

「遠藤?」

「俺・・・部屋、戻ります」

「どうした?急に」

「あ、の・・・」

 

どう答えたものだろう、と立ち竦んだまま悩む俺の背中に、威勢のいい声が届く。

 

「よう、遠藤。どうした?こんなトコで突っ立って」

「いえ・・・」

「なんだぁ?食い途中じゃねぇか」

「・・・・・・・ちょっと用事思い出しちゃったんで。良かったら王様、ここどうぞ」

「あ?」

「それじゃあ、中嶋さん・・・お先に失礼します」

 

 

グルグルと廻る思考。

そんな中に、王様の朗らかな声と穏やかに返す中嶋さんの声が飛び込む。

 

嫌だ、いやだイヤだ・・・。

 

聞きたくない。見たくない。

“誰か”と仲良さげにしている、中嶋さんなんて見たくない・・・っ。

 

醜い感情に急き立てられ、ただ足を動かす。

だからまるで逃げ出すようにして、食堂を後にした俺は知らない。

 

 

 

「・・・・・・・ヒデ、いい加減にしろよ?可哀想じゃねぇか、遠藤」

「煩い。俺の勝手だろう?」

「そうだけどさ・・・アイツが落ち込むと、啓太までつられて学生会室が暗くなるじゃねぇか」

「そんな事は俺に関係ない」

「ったく。どうせお前、また何か匂わすようなこと言ったんだろ?今度は俺か?啓太か?」

「ふん、それこそ俺の勝手だろう?」

「へぇへぇ・・・・ま、今どき友達の事ぐらいで妬く貴重な存在な遠藤もどうかと思うけど」

「そこが可愛いだろう?」

「・・・・・・・・・・・こんな性悪に好かれるなんざ、ホント気の毒のひとことしかねぇぜ」

 

 

 

そんな会話が交わされていたなんて、知らない。

 

 

 

 

 

 

「せつない恋に気づいて」・了 

 

 

written date 05/12/03

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