「寒くないんですか?」
学生会室に入るなり、窓を開け放して煙草を燻らす中嶋の姿が目に入った和希は、顔をしかめながらそんな風に訊ねた。
寒さに弱い、なんて話は聞いたこともないが、幾ら何でも11月も終わりのこの時期に窓を開け放すなんて正気の沙汰じゃない。
それとも中嶋には冷気に対する耐性でもあるというのか。
そんな事をぼんやりと思った瞬間、和希の耳に不機嫌そうな声が届く。
「寒い」
「じゃあ閉めればいいのに」
「・・・・・・・お前が嫌がるだろう?」
「何を?」
そう和希が聞いた途端、腕を引かれて中嶋の胸元に抱きこまれる。
「ほらな」
「え?」
「煙そうな顔、するじゃないか」
何がほら、なのか。
そう思った思考へすぐさま答えを返されて、和希は一瞬黙り込んだ。
何だってこの10度ぐらいの気温の中、窓を開けてるのかと思えば。
煙たがるから、だって?
学園の帝王らしからぬ返答も、和希にとっては笑みが浮かぶものでしかない。
そこまで恋人を大事にしている様を知っているのは、他でもない、和希だけなのだろうから。
「・・・・・・・・・馬鹿ですね」
「俺が馬鹿だと?」
憮然とした表情を浮かべる中嶋を他所に、和希は窓を閉める。
「・・・・・・・貴方が風邪をひくよりマシですからね」
「遠藤・・・・」
「煙いのぐらい我慢してあげますから、この寒いのに窓なんか開けないで下さい。というか、貴方が禁煙してくれれば済む問題ですけどね?」
「出来ると思うか?」
「思わないから、譲歩してるんですよ」
呆れたようにため息をついた和希は、それでも中嶋の想いを受け取って何処か嬉しそうな表情を浮かべていた。