地球の裏側より愛をこめて
「どうしようかな・・・・」
現在、午後1時30分。 仕事の合い間を縫ってようやく作れた昼休憩の時間。
ただ、それはアルゼンチンにおいて・・・のことだ。
和希が日本のほぼ真裏にあるアルゼンチンに出張で来たのは5日前のこと。 新しい大統領の就任を、何故か直接祝う羽目になったのだ。
EU諸国だけでなく、中南米にも仕事の手を広げたがっていた鈴菱グループ全体の思惑が重なってしまったせいだが、2週間も日本を離れることになるとは出国したときには思ってもみなかった。
そのせいで、『ちょっと出かけてくる』ぐらいの軽いノリで恋人に出張を告げた5日前を顧みてため息をつく。
絶対怒ってるよな、中嶋さん。 すぐ帰るって言っちゃったし。
でも俺だってこんな遅くなると思わなかったんだよ・・・。
出来のいい秘書のせいというか、おかげというか、まぁぶっちゃけ石塚が色々したため仕事の話がとんとん拍子に進んでしまったのだ。 そのため和希は、予定外の長期滞在を強いられることになった。
「せめて、帰国予定ぐらい言いたかったけど・・・」
そうは思っても、日本とアルゼンチンの時差はマイナス12時間。 こちらが昼間ならば、向こうは夜中。
和希の仕事が終わって寝る頃は、中嶋は授業中。 中嶋が寝る頃は、和希は仕事に追われている。
ようやく昼らしい時間に昼食休憩をとれたものの、日本は今頃、真夜中で中嶋も就寝中だろう。
「地球の真裏って、遠い」
はぁ、と盛大なため息をついて携帯をしまおうとした途端、その和希の手を押しとどめるものがあった。
「遠いからって、諦めるんですか?」 「え・・・な、に?石塚」 「帰国まであと1週間はあるんですよ?我慢できるんですか?和希様」 「・・・・・・・・する、よ」 「おや、和希様らしくもない。理事長なのに学校に通う、と言った勢いはどこへ?」 「・・・・・っ、それは、俺が頑張ればいいって思ったし」 「じゃあ、中嶋くんは頑張ってくれないとでも?」
え?と思った瞬間、石塚は笑いながら和希の携帯をプッシュし始める。
「ちょっ、石塚!?」 「きっとね、中嶋くんも待ってますよ?和希様からの電話を」 「そんな・・・・」 『もしもし?和希か?』 「ほら。ね?」 「っ、なんで―・・・」 『和希?どうした?』 「声を聞きたいのは貴方だけじゃないってことですよ」
くすりと笑って携帯を和希の耳に当てた石塚は、そのまま小声で予定を告げる。
「2時半に移動を始めれば問題ありません。お昼を取る時間も考えて話してくださいね」 「石塚・・・・」 「私は別室で食事を取らせていただきますので」 「・・・・・・ありがとう」 「いいえ」 『おい、和希。聞いてるのか?』 「っ、は、はい!聞いてます!」 『まったく、お前は・・・・いつになったら帰ってくる気だ?』 「あ、えーと18日までには」 『ふん、1日でも遅れたらお仕置きが待ってると思え』 「・・・・・遅れませんよ。19日は貴方の誕生日ですもん」 『分かっているならいい』
パタン、と静かに扉を閉めて出ていった石塚が笑っていたことを和希は知らない。
「帰国したら2日間ぐらいお休みを差し上げないと」
中嶋から和希の空けられそうな時間を電話で訊ねられたことは、きっと石塚の胸にずっと仕舞われるのだろう。 世界で一番遠い場所に居ても、2人の愛は変わらないようである。
written date 07/11/11 Copyright(C)Aya - +Nakakazu lovelove promotion committee+
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